駅から少し離れたファミリーレストランで、なまえの親友と三島は昼食を取っていた。夕方に集まろうと当初は話していたが、なまえと出かけている真田からいつ連絡が来るかもわからない。もしかしたら早めにショッピングモールから帰宅するかもしれない。そうなればすぐにでも入れ違いで向かうことが出来る。
昼食を終えた後、ドリンクバーでお代わりのジュースを入れて来た三島は席に座るなりテーブルの上にスマートフォンを出したまま、大きなあくびを一つこぼした。親友は持ってきていたメモ帳に紫色のシャープペンシルで誕生日パーティーに必要であろう物を記入していく。
一通り書き終えた後、ほかに何か要るものはあるかと三島にメモを見せ尋ねる。三島はメモに目を通すと、騒ぎが好きな連中が多い為、もう少しパーティーグッズを増やしても良いのではないかと助言した。親友は素直に頷くと、メモにグッズを追加した。
「ねえ、三島」
「ンだよ」
「暇」
俺だって暇だ、と三島は不機嫌な色をする。親友は唇を窄め、なんか面白いこと言ってよ、と無茶なことを要求する。お前がやれ、と三島は間髪入れずに返した。
「先輩から連絡来た後に集まっても良かったじゃねーか。急ぐ買い物でもないしよ」
スマートフォンの電源ボタンを軽く押し、三島は現在の時刻を確認する。午後も始まったばかりで、真田からのメールはない。時間を潰すにしてもこの近くにある店で用事があるのは100円ショップくらいだ。大きくため息をついた三島に、親友はムッとした表情でぽつりとこぼした。
「……鈍感」
「なんか言ったか?」
「べっつに。三島って本当、下睫毛長いわねーって言っただけ」
「悪かったな、長くて」
「ミッシーマの癖に生意気だ」
「なっ、お前までミッシーマって呼ぶンじゃねぇ!」
抗議するも親友はツンッとした態度でそっぽ向く。コイツ……と三島は眉を吊り上げたが、公共の場であることを思い出し、声を荒らげるのをおさえた。
しばらく二人は静かに過ごしていたが、真田からの連絡は一向にない。暇を持て余したのか、親友は軽く背伸びをすると三島に声をかけた。
「なんか飽きてきたし、一回お店出る?」
「おー賛成。100円ショップにでも行くか」
「だーいさんせーい」
支度を済ませると二人はレジに向かい個々で支払いを行った。100円ショップは歩いて十分と掛からない距離にある。二人は唇を閉ざしたまま歩き始める。親友はちらりと三島を盗み見るなり、一歩後ろに下がった。
三島は時折、スマートフォンを確認するも連絡がないのかすぐにもとの場所へ仕舞う。そんな三島を横目に、なまえはいったい何を欲しがるのだろう、と親友は考えた。
一緒に買い物に行った時、なまえはぬいぐるみや写真立て等――可愛いものに惹かれていたことを思い出す。けれども、絶対に"欲しい"とは言わなかった。誕生日や何か特別なイベントがある時に、なまえの心を惹いていた物を送ろうと思ったが、その時には運がなく手に入れることができなかった。インターネットを使って手に入れようかと考えたが、在庫がなかったり定価以上に値が上がっていたりとする為、贈ることは出来なかった。その時に買って贈る、ということも考えたが、それではなまえが怒るってしまうのは目に見えていた。それに、なまえの心を惹く商品と出会う確立はとても低く、親友も数える程しかないのだ。きっと今頃、真田は苦労をしているに違いないと親友は思った。
100円ショップへ着き、親友は買い物カゴを持つ。三島は真っ先にパーティーグッズの置いてある方へと足を進めた。時折二人のセンスが一致せず張り合ったが、最後はお互いの意見を尊重し、カゴの中に商品を入れていった。パーティーグッズと当日必要な物を買い終えた二人はショップを後にする。外に出た直後、三島は荷物を持っていない空いている方の手でスマートフォンを取り出した。しかし、真田からの連絡はない。
この後の時間をどうするかと考えていた時だった。三島のスマートフォンが着信音を奏でた。二人は入り口の隅に寄ると、顔を寄せて液晶画面を観る。三島は操作し、メールの相手を確認すると真田からだった。
メールにはショーウィンドウに飾られているシルバー色の腕時計と店の外観が写った写真が添付されており、本文には『後は頼んだ』と記されていた。ようやく来た連絡に三島と親友は声を上げて喜び、お互いにハイタッチを交わす。
「流石っス、サッナーダ先輩!」
「すごいすごい! 先輩、ありがとうっ」
真田に感謝を綴り、メールを返信する。すると、自信に満ち溢れた顔文字が送られて来た。親友はくすっと笑い、三島も口元を緩めた。帰る時にまた連絡を入れて欲しいと返事をし、三島はスマートフォンをスリープモードに切り替えた。
帰る時に再び真田から連絡が来ることになっている。それまでの間、どうするかと二人は話し合う。結局行く場所もない為、お昼を食べたあのファミリーレストランへ戻ることにした。日曜日の午後とあって道行く人の数は増えており、時折、人の波に遮られ親友と三島の距離は離れる。何度かそれが続き、親友が小さく息を吐いた時、三島は傍へ戻ってきた。疲れた色を浮かべる親友を見やり、三島は面倒くさそうに片手で後頭部をかくと、ほら、と唐突に空いている手を差し伸べる。親友は目を丸くし、きょとんとした表情で三島を見上げた。
「人、多いだろ。はぐれてもあれだし……手、握れよ」
柄にもなく照れているのか、ほんのりと三島の頬は赤く染まっている。三島の優しさに胸をきゅんとさせながらも、一呼吸遅れてから親友は礼を言い、差し出されている手を取った。親友の手を握ると、行くぞ、と三島は歩き出す。大きな手に、温もりに、親友もいつの間にか顔を赤くしていた。同時に、ふわりと顔を綻ばせた。
愛子||160220