新年の挨拶もそこそこに、テーブルの上に並べられた料理に轟と雷市は目を見張る。先日から仕込み、作られていたことは知っていたが、出来の良さに感嘆の息がこぼれた。テーブルには重箱にはなまえ特製の御節が綺麗に盛り付けられていた。
紅白蒲鉾に伊達巻、栗きんとんに黒豆等々――縁起の良い様々な料理。雑煮を運び終え、なまえも一息つきテーブルを囲むと、よしっ、と呟くなりエプロンを外し二人の顔を見る。

「それじゃあ食べましょう。いただ、」
「「いただきます!!」」

合図を待たずに二人はさっと手を合わせると箸を持ち料理をつつき始めた。おい、と低い声で突っ込むも、やれやれと肩をすくめ、なまえも遅れて料理を食べ始める。時折、轟が御節の料理にはそれぞれ意味があると知識を得意気に披露するのだが、その度になまえは補足をし、どや顔をした。
唐突に雷市の手は止まる。
どうしたのかと問えば、これはどういう意味があるのかと首をかしげた。雷市が示したのは重箱の中で異彩を放っている大量のトンカツだった。好物を前に瞳をキラキラとさせるものの、どういった由来があるのかはわからない。先程まで意気揚々と説明をしていた轟も答えられないのか、目をパチパチと瞬かせる。名前を呼び顔を見やると、ふいとなまえは視線をそらした。

「姉ちゃん、トンカツにはどんな意味が!?」

雷市の問いかけに目を泳がせるなまえに、どんな意味があるんだ姉ちゃん? と轟は口角を上げて同じく尋ねる。ほどなくして、軽く息を吐くなりなまえは静かに応えた。

「これから先、"とことん勝つように"って意味よ」

回答を得た二人はきょとんとした色を浮かべたのも束の間で、ふっと顔を綻ばせた。なるほどと頷きつつも轟はくつくつと喉の奥で笑い、雷市はそんな意味があるのか! と驚き混じりに、しかしそれでいて満面の笑顔を見せた。轟に、笑うのをやめろとなまえは頬を膨らませる。悪いと轟は謝り、雷市はカハハ! と声を出すと一番乗りでトンカツを一切れ口に運んだ。

「とこ"トンカツ"……か。良い由来じゃねぇか! なんつーか、お前らしいぜ」

そう言うと轟は腕を伸ばしくしゃくしゃとなまえの頭を撫でた。轟の腕を払いのけ、子どもじゃないんだからやめて、となまえは顔を顰める。そうは言うものの轟からすればなまえはやはり子どもだ。今度は悪戯気な表情を浮かべて、轟はもう一度、なまえの頭を撫でた。
二人が攻防している間、雷市はぱくぱくとトンカツを食べ進めていく。一休みというように雑煮の汁を啜り、こくんと喉を鳴らす。プハッと漏らすと、雷市は何気なく告げた。

「姉ちゃんの作ったトンカツをいっぱい食えば、試合に負けないっ。カハハッ! 色んな奴をぶっ飛ばーす!!」

二人は動きを止め、雷市の笑い声を聞き顔を見合す。一呼吸置いてからふっと笑った。

「当然! わたしが作ったんだから、食べたらとことん勝つわ」
「だな。このトンカツを食えば連戦連勝間違い無し! つーわけで、いっぱい食えよ雷市! でもちょっとは俺に残せ」
「わかった、全部食う!」
「いやだからちょっとは残せっての!!」

再びトンカツだけに箸を進めだした雷市を轟は慌てて止めようとするも、次に二人の攻防が始まる。
昨年と全く変わらぬ二人を見て、今年も特に大きな変化はないだろうなとなまえは思う。あるとすれば、今年こそ夢のあの舞台へ立つことだろうか。練習試合を含めて皆でとことん勝ち続ける。きっと――否、今の薬師高校野球部なら必ず成し遂げることが出来るはずだ。
夢の舞台の景色を脳裏に思い描きながら、なまえはふわりと微笑むと、争っている二人の間からさっとトンカツを一切れ奪い取った。

「早く食べないと、わたしが全部食べちゃうからね!」

元気に布告すると、二人は目を丸くする。だがすぐにニッと歯を出すと、受けて立つとばかりにトンカツの奪い合いを始めた。
なまえも参戦し、誰が多くトンカツを食べ勝利を大量に得られるか――轟親子の小さな戦いが始まった。


アイリスは微笑む
「あ。一つ忘れてたことがあるんだけど」
「なんだ?」
「おとーさん。お年玉は?」
「!! そうだ親父、お年玉!!」
「(そろりと逃げる)」
「待ちなさい馬鹿親父!!」
「待てクソ親父!!」
「だーっ! 正月のこれだけは大嫌(だいきれ)ぇだ!!」

愛子||170115
(この後、料理そっちのけでお年玉争奪戦が始まりました)



おまけ。

初詣へ出かけている最中、真田俊平のスマートフォンが小さな音を立てた。家族と談笑しながら液晶画面に視線を落とすと、なまえからのLINEメッセージで、開くなり軽く噴出した。
「あけましておめでとうございます」という正月の挨拶とともに、送られてきた写真に笑いをこらえる。
なにやら取っ組み合っている轟と息子の雷市、テーブルの上に並べられているなまえが作ったのであろう大量の御節と、送り主本人は画面半分だけ顔をのぞかせてピースサインをしている、なんともあの親子らしさが伝わってくる一枚だった。