ある日の昼休み、なまえは親友と二人で窓際の空いている席に座り昼食をとっていた。親友の話に相槌を打ち時に笑顔する。だがその節々にちらちらとなまえは窓の外を覗き見ていた。もちろん親友はそれに気づいていないはずなく箸を置くなり、あのさ、と肩をすくめた。
「弟くんが気になるなら素直にそう言えば良いのに」
「べ、別に気になってないわよっ。本当、何を食べてるのかとか全然気になってないし!」
「わかった。最近、マネージャーの誘いがないから寂しいんでしょう?」
「違うわよ! てか、それはそれでむしろ清々してるくらいだわ」
野球部からの誘いを再三無視してからというものの、とある日を境にマネージャー勧誘の話をしてくる者はぴたりといなくなった。きっと誰かが轟に嫌がっていることを強く伝えてくれたからに違いない。
自分で作ったおかずを次々と口の中に放り込み咀嚼しながらも、親友の言ったとおり、寂しくないといえば少し嘘になる。今日はどんな言葉で誘いに来るのか、と実は楽しみにしていたこともあったからだ。だがそれはぱたりと途切れてしまったものだから、自分のとった態度を省みて彼らには申し訳ないことをしたと、密かに罪悪感を感じていた。
親友はそんななまえの気持ちを見抜いているのか軽く息を吐いた。親友もなまえと同じように窓の外に目をやった。窓の下はちょうど小さな中庭となっており、真ん中にそれほど大きくはないが影を作れる程度の木が立っている。その木の下に雷市と、雷市の仲の良い野球部員達が数名集まり昼ご飯を食べていた。
「あいつ……なんで、」
「いいのよ、なまえ。思ってることを言えば」
親友はなまえの背を押すように言う。なまえは箸を弁当箱の上に置くと、ずっと思っていたことを口にした。
「なんであいつバナナしか食べてないの!?」
「それな」
「なんでそのことに誰も突っ込もうとしないの!?」
「本当、それな」
なまえの言葉に親友は何度も頷く。先程からなまえは雷市を見ていたがバナナしか食べていない。米はどうした! と続けると親友は再度、それな、と同意した。
「あ。でもほら、前に勧誘に来てた先輩におにぎり分けてもらってるじゃん」
「バカ恥ずかしいっ」
ついでに弁当のおかずを分けて貰っているのを見て、なまえは両手のひらで顔を覆う。何だかんだ言っても弟が気になってんじゃん、と親友は心の中で呟いた。
「てかなんでバナナしか食べてないの? ねえ、なんで!?」
「いや、あたしに聞かれても……」
本人に直接聞きに行くのはどうかと言うと、絶対に嫌! となまえは即答した。やれやれと親友は今度はきく息を吐いた。
「あれ。みょうじさん、お姉さんなのに轟くんのこと何も知らないの?」
と、唐突に髪色の明るいクラスメイトの女子生徒が面白可笑しそうに話しかけてきた。彼女はよく雷市を軽くからかっているグループの子の一人で、なまえは真顔に戻ると、血は繋がってても他人だもの、と冷めた声音で返した。
「この前、轟くんから聞いたんだけど……特別にみょうじさんにも教えてあげるね!」
話したくてうずうずしているのか、女子生徒は返事を聞く前に語り始めた。なまえはさも面倒臭そうな表情を浮かべたが、親友は適当に相槌を打ち女子生徒を気分良くさせる。初めは特に意味の無い内容だったが、突然に本題へと切り替わった。
女子生徒が言うには雷市の家計は火の車に近いらしく、月末になると苦しい状況が続くのだそうだ。これは本人から聞いた話だと結ぶと、以上でーす! と話を切り女子生徒はヒラヒラと手を振るとなまえ達に背を向け仲の良いグループの輪へと戻った。本当のこと教えてあげなくても良かったんじゃないの? と彼女達は忍んで笑っていたが、なまえの耳には入ってこず視線を再び窓の外へと移す。
雷市は他の上級生達からもおかずを分けてもらったのか、バナナと一緒に頬張り嬉しそうに笑顔を浮かべている。そんな雷市の姿をじっと見ているなまえに親友は何気なく尋ねた。
「弟くんの好物、聞いてこよっか?」
するとなまえは頭を横に振る。
「あいつは昔っから、バナナと、それからトンカツには目がないのよ」
吐き捨てるように答えたなまえに、明日が楽しみだ、と親友は微笑んだ。
愛子||151123