目覚まし時計が枕元で鳴り響きなまえは目を覚ました。布団から出るなり体を伸ばす。大きなあくびをこぼすと手際よく布団をたたみ押入れの中に仕舞った。支度をする前に仏間へ行くと、仏壇の前に座り祖母と祖父の写真に手を合わせる。おはようと挨拶をするも二人はただ遺影の中で微笑んでいるだけで返事をしてはくれない。なまえは自嘲気味に息を吐くと、仏間を後にした。
支度を済ませるとなまえはおもむろに玄関に向かう。適当に靴を引っかけ玄関扉の鍵を開けると外へ出た。扉のすぐ隣に設置されている郵便受けを開け中を確認すると、切手の貼られていない白い封筒が入っていた。封筒を取り出すとなまえは踵を返し家の中に戻る。再び玄関扉の鍵をかけ靴を脱ぎ、居間までの廊下を歩きつつ封筒の中から一通の手紙を取り出す。二つ折にされた便箋を広げると『お父さんの仕事の都合でしばらく海外へ行きます。今回は長期間になりそうなのでまとまったお金をいつもの口座に振り込みました。もし困ったことがあったらいつでも電話をください 母より』と丸い癖のある字で書かれていた。
再婚をしてから母は新しい義父親(ちちおや)の仕事によく付き添い、日本を離れることが多かった。先日、やっと日本に帰ってきていたはずだが、また出張に出かけるということはそれだけ義父親の会社は軌道に乗っているのだろう。関係ないけど、となまえは呟き居間に戻ると同時に手紙をゴミ箱に捨てた。
祖母が居なくなって一人でここに暮らすと意地を通した時から、母は毎月大きな額の生活費をなまえの口座に振り込んでくれていた。だが、おそらく生活費を用意してくれているのは母ではなく義父親だろう。
なまえはなるべく母と義父親には頼らず生きようと一人暮らしを決めた時に心の中で誓った。自分でできることは自分でする。しかし、どうしても頼らざるおえないことは振り込まれた生活費を頼るほかなかった。
一息つきそろそろ出る時間となり学校へ行く準備をする。作っていた弁当を包み鞄の中に入れると、カレンダーに目をやった。今日はバイトだが、早く上がれる日だということに気づく。しかも、明日は祝日で学校も休みだからゆっくりと羽を伸ばすことができる。よしっ、と声を出すと家の電気等を消し戸締りを確認すると、鞄を持ち玄関へと足早に向かった。
学校専用の靴を履き玄関扉を開ける。外へ出る時、なまえは一度振り返った。

「行ってきます」

誰も居ない家の中から返事があるはずはなく、わかりきっていることなのだが思わず苦笑する。家を出て扉に鍵をかけると、眩しい朝の太陽に目を細めながら通学路を歩き始めた。
もし……もしも――、となまえは最近、思うことがある。いつかまた一つ屋根の下で大好きな家族が集まることが出来たら、"おはよう"、"行ってきます"、を一番に言いたい――。
なまえは現実に戻り、軽く頭を左右に振った。

(何を考えているんだか……馬鹿みたい)

そんな夢物語のようなことが突然に起こるわけはない。何気なくなまえは手で小さな影をつくり空を仰ぐ。雲ひとつない快晴だ。
神様なんて信じている柄ではないが、今日はもしかしたら良いことがあるかもしれない、と心の中で不思議と感じた。

愛子||151124