リドルくんの寮服は清潔な匂いがする。
消毒液のような鼻を刺す刺激臭ではなく、石鹸のような優しい香り。
時々ケーキのような甘い香りもするし、紅茶のようなフローラルな香りがする時もある。とにかく清潔感に溢れたいい香りがする。
首元に顔を埋めてくんくんと匂いを嗅げば初めの頃は顔を真っ赤にしてウギっていたものの、今はまた始まったくらいにしかとらえられておらず好きなだけ堪能できるようになり幸せでしかない日々を送っていた。
だがしかしこう、なんというか足りない。もっと包まれたい。同じ匂いを纏わせたい。
獣人族からすれば十分彼の匂いがするらしいがあいにく獣人族の血は混ざっていないため実感ができない。だからと言って毎晩体を重ねる訳にも行かない。そもそも恥ずかしがってなかなかさせてくれないというのもあるけど。
なので!今日は!寮長会議中の彼の部屋に忍び込んで寮服に包まれようキャンペーンを実施しにやって来ました。扉?壊しましたよ。変態舐めないでください。ストッパー役のトレイさんもサイエンス部の活動で居ません!
1年坊やたちはオンボロ寮に遊びに行ってるし、ケイト先輩は私が扉を壊してるところを嬉々として写真撮ってたしまあオールオーケー上手くいってる。
修復魔法で扉をもどしてドアノブにごめんね、と謝れば刺激的さ!と笑ってくれた。リドルくんよりドアノブの方が優しいかも。
いつ入っても綺麗に片付けられていて、チリひとつなくクローゼットの中も理路整然 シワひとつない寮服が目に飛び込む。
寮服ー!!と飛びつこうとする寸前に、彼の言葉を思い出す。この寮の長として恥ずかしくない振る舞いと装いを。この寮長服に袖を通す時はそれ相応の覚悟を。との言葉を。
いくら香りに包まれたいと言っても、これに触れるのは何か違う気がして伸ばしかけた手が引っ込む。私の数少ない良心が変態を押えた歴史的瞬間かもしれない。
それならば夢にまで見た彼シャツというものをやってみよう!ウキウキと制服を脱ぎ捨てて彼のシャツを羽織る。
思ってたんと違う。そもそも彼と私はあまり身長が変わらないだけでなく実は私の方が5.6センチ高い。実は。ぴったり通り越してメンズのサイズのために胸もとのボタンが弾け飛びそうなほどみちみちと音を立てる。
思ってたんと違う。こうもっと、だぼっとしていやらしいものを想像していた。それがどうだ、丈感がちょうど良くて下着は丸見えの胸元はみちみち。ただの痴女の出来上がりだ。
やめだ!やめやめ!このシャツを着ている彼を嗅ぎ回した方がうんざりした目線を向けて貰えてご褒美だ!あとはバレないように服を脱いで帰ろう!こんな痴女みたいなところ見られては「何をしているん、だい……」
くるりと振り向けば手に持った書類をばらばらと落としながらカルチャーショックをうけるリドルくん。
「リドルくんのシャツ着てます!」
「見ればわかるよ!何をしているんだい!人の不在時に部屋に入り込むなんて…!」
「きゃあああ今脱ぎますううう」
顔を真っ赤にしてづかづかと近づいてくるリドルくんに反射的に後退りをしながら胸元のボタンに手を伸ばすと破裂音を立てながら胸元のボタンが弾け飛ぶ。どこぞやのグラビアアイドルかよ このシャツ華奢すぎるだろリドル・ローズハート。
「……買って返します寮長」
ぶるぶると震えながらシャツを脱ごうとすれば腕を掴まれてきっと睨まれる。心做しか顔の赤みはそのまま、口はぎっと結ばれている。ああ、怒ってる?可愛いけど怒ってる、首を跳ねられて見せしめにでもされるのかしら。
と思っていれば腕をやや強引に引いてベッドに連れ込まれる。
「……え?」
「君が……君がいけないんだよ」
「うう、ごめんなさい、シャツ買って返しますう……」
「淑女の振る舞いを教えこまなくちゃいけない」
「……へ?」
「覚悟おし」
真面目の権化、堅物リドルくんがそういう趣味があったと知るのはまた今度のお話。