いつもと何ら変わらない日。
大好きな飛行術の日。



なんてったって今日はアズールのクラスと合同授業だからいつも以上に気合いが入る。黙ってれば美人なのにネチネチネチネチと嫌味を言う口を合法で減らせられる日。

特別恋愛感情とかはないものの、2-Cと合同授業になる飛行術の日を今か今かと心待ちにしているのは事実であった。



いつもは使わない着衣の魔法を身にまとって箒を抱きしめ意気揚々と運動場に向かう。足取りは軽く、空くらいなら飛べちゃうかもと思えるほど。空高くからは太陽がさんさんと降り注ぎ絶好の飛行術日和を伝えていた。



悪い子たちが集まる学校のくせによくもまあみんなちゃんと出席するものだと関心しながらお目当ての背中を探す。




「アズール、おはよお」




どこかのウツボさながらのとびきりの甘い声を出しながら肩にぽんと手を置くと子猫のようにびくりと肩を跳ねさせる。組んだ腕から伸びる指先はメガネのブリッチを支えたままきっとこちらを睨みつける。あーあ、せっかくの美人なのに勿体ない。きっとお母様も美人さんなんだろうな。



「まだなにもしてないよ♡」



わざとらしく語尾を上げながら頬をくっつければ「あなたって人は!!!」なんて大きな声で顔を赤くしてまあ怒る怒る。この活きの良さを飛行術に使えればいいのに、なんて思いながらアズールの手を取りバルカス先生の元へ。

今日もアーシェングロットくんの面倒は私がみます、なんて声高らかに伝えれば美しい筋肉、美しい友情、さすが俺の生徒だなんていって二つ返事で了承してくれる。




さ、行こっか!と明るく声をかけてあげているのに当の本人はぐぬぬという声を表情全体で表していた。

気にもかけずに箒に跨がればおずおずと後ろに跨る。素直に着いてくるなら最初からぐぬぬしなきゃいいのに。ツンデレ美人か?うちそういうのやってないんで!ふん!




「……ぎゅーってしないと落ちるよ」


「あなた自分が女性だということをもっと自覚したらどうです」


「うちそういうのやってないんで!」


「そういうことではなくて…!」


「はい、ぎゅー!いくよ!」




半ば強引にアズールの腕を腰に回させればもっと節操を、考えて行動するべきだ、なんてぴーぴーいうアズールをよそ目に一気に太陽に向かって急上昇をする。わっ、と情けない声を出しながらぎゅうっと抱き着かれるのを確認したらそこからはもう私の独壇場で。


猛スピードで学園を1周してみたり、ジェットコースターさながら旋回してみたり。昔こそひいひい言ってたアズールも少しか慣れたのか今は声を押し殺しながらぎゅっと縮こまって私のしたいがままさせてくれる。そうした方が早く終わる、って言われたこともあったっけ。



ぐぐっと出来るだけ上昇をすれば1度立ち止まって一休みをする。いつもなら強風がやまない高度まできても、今日は雲も風もない晴天だった。ぼけーっと下にいる生徒たちを見下ろす。太陽がすぐ近くにあるような、肌をジリジリと焼き付ける感触に夏のはじまりを感じる。




「なんか太陽近くない?」

「貴方がこんなところまで来てるからでしょう」

「見てみて、下、綺麗だねえ」

「聞いておいて無視だなんて貴方はとってもいい人だ」



眩しさに思わず目を細めながら真上の太陽を見つめる。まぶしー、なんて言いながら目を伏せれば呆れたように当たり前でしょう……とすかさず返してくる彼。

嫌がって全力で逃げればいいものを毎度毎度律儀に飛行術に付き合い、返ってくるかも分からない一言一句に丁寧にツッコミを混じえながら返す彼はとても面倒見がいい風に感じる。自由奔放なウツボと、従順に見えて時々噛み付いてくるウツボを相手にしているからだろうか。死んだら私を金にする約束もあるからなのだろうか。

理由はどうであれ、死ぬまでの短い暇つぶしに彼と過ごす時間があることは私にとってかけがえのないものになっている。それだけで十分だった。



「ねえ」

「今度はなんでしょう」



もうすぐ授業が終わってしまいますよ、とぶつくさ文句をいう彼を振り返って見てみるとちゃんと目を開けていたから驚きだ。ふふ、っと笑ってしまえば「なんなんですか貴方は本当に…」なんてお得意のジト目を披露してくれる。





「海から見える太陽はもっと綺麗なの?」


「……まあ、そうですね」




暗く冷たい海の底を照らす太陽は大きくは無いものの、優しく降り注ぐ陽の光は北の海に住まう人魚たちに安らぎを与えてくれるものだ、と。海面まで近づけば水面に反射した光が水の中にまで入り込み、それはそれは美しいと。ぼそぼそとアズールの唇が海の中の世界の話を紡いでくれる。


緩やかに運動場に向かって下降をしながらアズールの話してくれる海のちょっとした話を聞いていれば「まあ、僕よりもあの二人の方が詳しいんじゃないでしょうか」などと自虐交じりに呟く。




「じゃあさー、連れて行ってよ、変身薬飲むから」

「貴方はどうしてそういつも軽率なんですか、関心しますね」

「一緒に探検しよ、そしたらアズールも詳しくなれるでしょ」




そろそろ運動場にも足が届く。私にも海から見える太陽を見せてよ、と振り返って微笑めば息を飲み込んだアズールが大きく体勢を崩したから私は箒に股がったまま、アズールの腕を掴む。

ばさばさと色気のない音を立てて箒から落ちたアズールは顔を真っ赤にしてあなたって人は……なんてぶつくさ呟いていた。よく分かんないけど煽っといた方が面白いアズールを見れそうだなんて意地悪な心が見え隠れする。ようやっと立ち上がったアズールを見上げ「今度は海でデートだね」と笑ってやれば眉をひそめて口をパクパクさせぴしりとかたまる。


「さーかえろ!着替えないと!」




人の気も知らないで、呑気な人だ。アズールの唇が静かに揺れる。




北の海の冷たい海流の中、アズールに追いかけ回されたのはもっと先の話。















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