mon doux ange


15cmくらい




「2人で並ぶと結構いい感じの身長差だよなー」



ジェイドと並んで廊下を歩いていた時。不意に違うクラスの同級生から身長差がいい感じ、と褒めれたのか揶揄われたのか分からない言葉を投げかけられた。

返答に困惑していると「ありがとうございます」と恭しくにっこりと笑うジェイド。あっ、否定とかしないんですね……と他人事のように呟けば褒め言葉は素直に受け取るものだとばかり。ご不快な思いでも…?と聞かれ別にないけど、と返せばニコニコと笑いご機嫌そうな顔を見せる。


寮長からの勧めもあり9cmのヒールがある靴を着用しているため大きく見積っても174cmくらい。ジェイドは190cmだったでしょうか、なんて言ってたから身長差はざっくり15cmくらい。

そのくらいの身長差だと見栄えがいいとは聞いたことはあるけど投げかけられるなんて夢にも思わず困惑してしまった事実。

だいたい、ヒール履いてればアズールくらいあるからアズールとジェイドもいい感じの身長差じゃん、と告げれば それは頂けませんね。ユウさんとがいいです。とばっさり。

私が言えたことじゃないけど、ウツボの2人、ことさらジェイドに関してはアズールの歯をぎりぎりとさせるのが趣味なのかと思うほどエッジの効いた言葉をアズールにクリティカルヒットさせているような気がする。




これから2人で植物園で育てているジェイドのきのこの様子を見に行く。手塩にかけて育てているだけあってジェイドのキノコは美味しいし、同じものを何度食べても飽きない私にとって永遠にキノコを食べさせられても苦では無いし、永遠にキノコを食べさせられても文句を言わない私はお互いにとってとても好都合だったようだ。




そういえば意識したことは無いけど、ジェイドは随分歩幅を合わせて歩いてくれる。足が長い分、づかづかと歩いた方が楽だろうし、アズールたちといる時はわりと歩を進めるのは早かった気がする。

寮生のみならず学生たちを脅して楽しむ趣味があるのにキノコたちに向ける目は随分優しいし、何かと気遣いをしてくれるからこの人は本当によく分からない。

分かってることはといえば、見た目がどストライクなことくらい。もうずっと手袋してて欲しい。こんなに手袋がにあう男の人、見た事ない。キノコ料理なんかよりも余程ご馳走である。


そもそも、キノコ料理を食べる条件が手袋をして作業をしているところを見せて欲しいとお願いしたと言うのもあるし。顔がすごくタイプで手袋つけてる手がなんかこうすごくいいから見せて欲しい!と身を乗り出してお願いした時は少しだけ驚いた顔を見せたあとに「陸の女性はこんなのが好きなんですね、悪い気はしませんが」と口元に持っていった手袋をはめた手がたまらなかった。ありがとう。今考えたらわかっててやられたな。くそ。


ふつふつとそんなことを考えていればあっというまに植物園にたどり着き、お目当てのキノコゾーンへ。どんなに頑張っても食べられそうにない色とりどりのキノコたちに加えてキクラゲやぶなしめじ、舞茸といったものも並んでいた。

その一角を借りて松茸を育てているがなかなか上手くいかない。文化によっては靴下の匂い、なんて言われることもあるが大お祖母様が年明けによく作ってくれた温かいスープのお出汁につかっていたきのこということでキノコを食べるうちに久々に食べたくなってしまったのだ。

それでは、ユウさんもキノコを育ててみましょうか と嬉しそうなジェイドの顔は忘れない。きらきらと海の水面に反射する太陽みたいに輝いて見えた。きっとどストライクな顔面だからだろう。


「どうですか、松茸の様子は」

「んー、なんかあんまり良くなさそう」

「文献でも難しいとは書いてありましたが…ふむ」



もう少し気温の低いところに置いてみますか?湿度も高すぎない場所に置こう あんまり日当たり良くない方がいいのかなあー 雷で成長が促進されるキノコが多くありましたが、松茸もそうなのでしょうか



ああでもないこうでもないと言葉を交わしては試行錯誤して、お手入れをして。一通り作業が済めば椅子に腰かけてキノコたちを眺めるジェイドによりかかり、マジカメの投稿を見せる。『世界の猛毒キノコ3選!』とご丁寧に文字入りで解説まで着いた投稿。



「カエンタケですね」

「炎みたいで可愛いね」

「猛毒のキノコですよ」



可愛いけど食べられません、と綺麗な顔で笑う。ちょっときゅんってするからやめて欲しい。



「さわったらやけど見たくただれるって」

「中毒症状もそれはそれは凄まじいのですよ」

「珊瑚にも似てるね」

「……その発想はありませんでした、色でしょうか」

「かも」



顔を見合せて少し笑い、よりかかっていた体制から並ぶように腰掛けてきのこを眺める。



「カエンタケが珊瑚に似てるからさ、海に帰ってもキノコのこと思い出せていいね」

「そうですね、そもそもひと時もわすれることはないでしょうしより強くキノコのことを考えられると言っても間違いではありません」



それに、と付け加えたジェイドの顔を見上げれば思ったよりもすぐ側まで顔が接近していた。



「猛毒キノコを珊瑚に似ていると言った誰かさんのことも一緒に考えてしまうかもしれませんね」




向けられた目が随分と優しかったからなのか、言葉に含まれた意味はなんなのか考えてしまったからなのか、はたまた顔と顔の距離が15cmもなかったからなのか柄にもなく心臓がバクバクと高鳴って動くことが出来なかった。



「さて、お腹がすいたので厨房をお借りしましょうか」



行きましょうと頭上から振ってくる声に慌てて我に返り、立ち上がる。

当然だと言わんばかりに差し出された手をぎゅっと掴み、しいたけの肉詰めフライがいいとリクエストをすればまたそれですかと笑う彼の隣を平然を装って歩くのに精一杯だったのは内緒のお話。





end

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