狂気にも似たもの

小さな顔に猫のような大きな瞳
やわらかくてさらさらな深紅の髪の毛
華奢な体つきにちゃんと大きい手
神経質なくらいに真面目な性格に
急に癇癪を起こすところ
丁寧だけど圧のある特徴的な口調


どれをとっても可愛すぎて、愛おしすぎて、時々頭がおかしくなるかと思う。胸の奥にどろりとしたものを感じる。ブロットが溜まる感覚があるのならば間違いなくこんな感覚だろう。 むしろ、オーバーブロットを経験している彼に聞くべきだろうか。そんなことを聞いたら真面目に返してくるか、少し拗ねたような表情をされるか。どっちにしろとびきり可愛いのだろう。



「何をニヤニヤしているんだい」


「…! ごめん、考え事してた」



しらーっとした目線を向けられてはっと我に返る。えへへ、と笑いながら言い訳をすると納得しなさそうにふうん、と小さく鼻を鳴らし直ぐに手元の書類に目を通し手を動かしていく。

放課後の寮室。淡々と寮長としての仕事をこなしていくリドルを見つめながら彼がいれてくれた紅茶を飲んでのんびりするのもありがたいことに日常となっていた。ハーツラビュル寮生だったら、一日中だって居られたのになと残念な気持ちになりつつ、見慣れた寮服姿の彼を目に焼きつける。

何を隠そう私はリドルくんが好きで好きで仕方ない。
入学式の式典の際に一目惚れして以来ずっと追いかけ続けてきた。闇の鏡に対してなぜハーツラビュルじゃないんだと文句を言った時も「オクタヴィネルと迷ったんだがな」と困った顔でしみじみ返された時にはなんとも言えない気持ちになった。よりによってアズールと一緒かよ、なんて慣れない悪態を着いてみたり。

ありきたりな「実践魔法を教えて欲しい」という口実で近寄り、ゆっくりゆっくり距離を詰めた。何でもない日のパーティーも予定が許す限り参加したし来賓ですから、とリドルくんの近くを陣取り続けていたのをトレイ先輩に笑われたりもした。
喜んで欲しくていちごタルトを作りたい!と言った時にも手伝ってくれたし、リドルくんの好きなものや昔話を沢山教えてくれたトレイ先輩には頭が上がらないし足を向けて眠れない。

その甲斐あってか苦手だった実践魔法もだんだんできるようになってきたし、いちごタルトだけで言えば随分上手に作れるようにもなった。思えば随分と苦労を重ねてこんなに近くにいられるようになったんだと思うとより一層彼が愛おしくてたまらなくなりニヤニヤとしてしまう。

彼の後ろに周りぎゅっと抱きつく。ジャケットの襟首がない右側の肩に顎を置いて彼の仕事をする手元を見つめる。


「動きづらいよ」

「やっぱり?」

「…やめないのかい」

「やめろって言われてないからねえ」


うふふ、と笑うと諦めているのかそのまま仕事の手を進める。今こんな顔してるんだろうな、と思いながらも首筋にかぷりと噛み付く。もう慣れっこなのかうんともすんとも言わずに一瞬動きを停めたかと思えば直ぐにしゃきしゃきと動き出す。


「跡が残らないように」

「“そういうのは恋人の秘め事として楽しむものだろう!”」

「……よくおわかりで」


前までは顔を真っ赤にして“君、なにしてるんだい!”と。“そういうのは恋人の秘め事として楽しむものだろう!”と。全力で注意という名の性癖暴露ををしてきたのに、慣れとは恐ろしいものだと痛感する。

素敵な性癖のお陰様でこちらの体は至る所に薔薇の花びら散ってますがね!


「まだ、終わらない?」

「そうだね、しばらくかかるよ」

「紅茶冷めちゃうよ」

「ご心配なく」


一瞥もくれずに淡々と仕事をしていく。整った文字で名前を書いて、承認のハンコを押して。きっちりと書類をまとめる。オフが少なすぎるくらいだけどオンオフがきっちりしている。華奢な体で抱えきれないほどの重圧を抱えてそれをさも当たり前かのようにこなしたかと思えばさらなる高みを目指してもっとすさまじい重圧を迎え入れる。

お母様に認めてもらうためなのか、それすら骨の髄に染み付いて無意識にやっているのか。保護区行きで呑気に生きてきた私には分からないけど。尊敬やら羨望やら嫉妬やらが混ざってよく分からない気持ちになるといつも彼への好意を口にするようになっていた。


「リドルくんだいすき」と誰に言うでもなく、胸に溜まったどろりとした感情を昇華させるために呟く。なにひとつクリアにならない。
もう一度首筋に噛み付き、片手でそっと顎に触れる。彼の動きがピタリと止まった。口を離して顔を上げると色素の薄いブルーグレーの瞳がこちらを見ていた。

この言葉に隠された感情を彼は何となく理解している。なんてったって彼は聡い。私の拙い感情なんて丸見えなんだろうと思うと一種の諦観じみた感情を覚える。どろり、どろりと胸の奥に勘定が溜まっていく。ブルーグレーの瞳は全て見透かしているようで、まるで自白剤でも飲んだかのよう言葉がひとりでに紡がれていった。


私の魔力をもってすればいつだってあなたを手にかけられるし、一生檻の中に閉じ込めておくことだって出来る。今すぐにだってそうしたいと思ってる。

愛おしすぎて、いつか自分を見失うのが怖い。そうなったらリドルくん、私を手にかけてくれる?



唇を伝って溢れた言葉は心の奥底に膜を張るように存在していたものなのだろうとどこか他人事のように思えた。我ながら重すぎる。もう1人の自分が傍から自分を俯瞰してメンヘラもいいところだ、彼の頭を煩わせるには造作もないほどの激重感情だなと嘲笑していると、こちらを捉えて離さなかったブルーグレーの瞳が光をなくて微笑む。形のいい口元はうっすらと笑みを含ませて、恍惚とでもいったようなヴィランらしい顔つきを見せた。



「……いい度胸がおありだね」



何度見ても見なれないこの表情に、私の心臓は情けなくどきどにと高鳴りを隠せずにいた。ゆっくりと口付けをかわすと、何事も無かったかのように仕事に戻る。



どろり、と胸の奥に何かが溜まる。
執着だろうか、依存心だろうか。



答えはなんだっていいから、彼が私を手にかけるその日までこうさせていて欲しいと願わずにはいられなかった