Chapter 8



「そういや、ダニエラとは上手くいってんのか?」

 自主トレーニングに勤しんでいたキースはソファに腰掛けていた虎徹に問われ、朗らかな笑みを浮かべてそれに答えた。

「ああ、もちろんだよ。ありがとう!」

 言ってから、キースは首を傾げる。どうして彼が彼女の名前を知っているのだろう。それを尋ねると、虎徹は怪訝そうな顔をした。

「一回会ったし、名乗られたし。……ほら、おまえが犬になっちまったとき」
「ああ! あのときか! すまない、すっかり忘れていた!」
「なかなか忘れがたいだろ、あんな大事件は」

 ぽん、と手を打つキースに虎徹は呆れた目を向ける。そうはいっても犬になったこと自体よりもその後に色々ありすぎて記憶が薄れていた。心配をかけた虎徹やネイサンには申し訳ないが。

「彼女はワイルドくんのファンだというから、君がワイルドタイガーだと知っていたら感激しただろうね」
「えっ、あの子俺のファンなの!?」
「最近は見ていないらしいけど、昔は大好きだったと言っていたよ。……スカイハイのことは名前と能力くらいしか知らなかったのに」
「えー、俺のファンかー、スカイハイ、その子絶対いい子だぞ! 大事にしろよ!」

 「ダニエラはワイルドタイガーのファン」しか聞こえていない虎徹はわはははと大きな声で笑う。キースの小さな呟きを聞き逃さなかったネイサンが「あらやだ」と口元に手をやり、大げさに驚いて見せた。

「完全無欠のキングオブヒーローが落ち目の壊し屋に妬いてるの? 面白いもの見ちゃった」
「誰が落ち目だ! 最近は調子いいだろ!」

 ネイサンは噛みつく虎徹を手のひらで押しのけた。指摘されたキースは肩を落とす。

「最近の私はおかしいんだ。彼女と同僚の仲がいいと聞いたときも、彼女がワイルドタイガーのファンだと聞いたときも、ジョンを可愛がっているときも、なんだかそわそわした気持ちになってしまった」

 ダニエラのことは信用しているし愛している。愛しているからこそ彼女の愛を疑ってはならない、とも思う。頭ではわかっていても心がついてこない。そのたびにダニエラには「意外と嫉妬深いのね」と笑われるのだが。
 キースはダニエラにそう窘められるのが好きだった。彼女がきちんと応えてくれるからこそ、そういう気持ちを表すことが出来るのだとキースは思う。

「やーん、嫉妬ね嫉妬。スカイハイにもそんな感情があったのねー」

 囃すネイサンにキースははっとして顔を上げる。

「嫉妬! やはりこれは嫉妬なのか! なんて素敵な感情だろう!」
「……それは斬新な意見かもしれないわ」

 ネイサンが私見を述べた。一般的にはそうかもしれない。

「私が嫉妬すると、彼女は笑って「はいはい」と言ってくれる。私はそれが大好きなんだ!」
「めちゃくちゃテキトーに流されてるじゃねえか」
「え? なに? もしかしてちょっと特殊な性癖を表明されてる?」

 警察官であるためかダニエラはいつもどこか緊張を帯びた目をしている。それでもジョンと遊ぶ時はリラックスした顔をしていて、キースを窘めるときのダニエラの顔はそのときの顔に似ていた。キースは張り詰めた彼女もゆるんだ彼女もどちらも好きだ。しかしゆるんでいる方が珍しいので、それが見られるととても嬉しい。

「他にも彼女の好きなところをいくらでも話せるのだけど、彼女に「私までバカだと思われるからやめてくれ」と言われていてね。彼女は謙虚で恥ずかしがり屋さんなんだ」
「スカイハイ、遠回しにバカって言われてるけど大丈夫か?」
「しっ、気付いてないんだから余計なこと言わないの!」


******


 ソファに座るキースに背後から抱きしめられる。キースの分厚い体に押し出されてソファからずり落ちそうになっていると、膝の上にのしのしとジョンが我が物顔で登ってきたことで押し止められた。
 ダニエラは前から後ろから押されて息を詰まらせる。

「すっごく苦しい両手に花」
「私は花かい?」

 キースは笑ってダニエラの肩に顎を置いた。吐息が耳に当たってくすぐったい。
 キースはダニエラの首筋と耳許と髪の毛に順にキスをした。

「多少は上達したかな?」
「そうね、どこで練習してきたの?」

 ダニエラが戯れにそう言うと、キースは慌てて身を起こし、真っ青になって「ご、ごごご誤解だ! そして誤解だ!」と声をあげる。そのせいでジョンとダニエラは揃って床に落ちた。二対の恨みがましい目に見上げられ、キースは「すまない」とダニエラの手を取り、ジョンの頭を撫でる。
 ダニエラはソファの背もたれに掛けていた上着を取り上げる。それに袖を通していると、ポケットから何かが落ちてフローリングの上を転がった。
 プラスチックのキーホルダーだ。昼間買ったボトルの飲み物にプライズとして付いてきた。ヒーローの姿を模っているらしいのだが、ダニエラはほとんど知らないヒーローだった。姿は見たことがあるような気がするのだが。

「この人、なんて名前なの?」

 キーホルダーを手渡しながら問うと、キースは難しい顔をして小さくて安っぽいそれを見下ろした。

「……ヒーローネーム? それとも本名かい?」
「本名なんて聞いてどうするのよ、ヒーローネームの方」
「ああ、よかった」

 キースは胸を撫で下ろす。たびたび忘れそうになるのだがこの男はヒーローだ。同業者の名前も知っているのだろう。そんな社外秘をやすやすと聞きはしない。

「折紙サイクロンというんだ」
「聞いたことはあるかも」
「君はいつも私以外のヒーローばかり好きになるんだね!」
「たまたまおまけで付いてきただけよ。中は見えなかった」
「どうして私のキーホルダーを当ててくれないんだ!」
「そんな無茶苦茶な」

 ダニエラはキースの頬を指先でぺちぺちと叩いた。

「とうとう女の子にまで妬いちゃって」
「……女の子?」

 怪訝そうな顔をするキースに、ダニエラはキースの持つキーホルダーをつついた。

「折紙サイクロン」
「……ダニエラ、折紙くんは男性だ」
「えっ、そうなの?」
「どうして彼が女性だと思っていたんだい?」

 問われ、はたと考える。どうしてだろう。言われてみれば多少小柄だが、女性というほど華奢なわけでもない。それによく見ると上半身を露出した意匠のスーツを着ている。

「分からない。勝手に思い込んでた。赤い化粧をしてるからかな?」
「折紙くんには言わないようにしよう」

 おねがい、とダニエラが言うと、キースは微笑んでキーホルダーをダニエラの上着に返す。妬いて拗ねて見せてもキーホルダーを取り上げたりはしないあたり、キースがどこまで本気なのかダニエラははかりかねている。

「ダニエラはちっともスカイハイを好きになってくれない」
「だってライバルだもの」

 ダニエラが言うと、キースは不思議そうに首を傾げた。

「どうして私、警察官になったのかを考えてて。だって、別に妹の学費さえ稼げればなんでもよかったのに。コールガールとかね。というか、そのほうが稼ぎは良かったかも。NEXTだってバレないし」

 キースは悲しそうな顔をしてダニエラを抱き寄せる。

「きっと君は人気者になっただろうけど、でもそうしたら私は君に出会えなかったし、救われなかった」

 そういう話じゃなくって、とダニエラは苦笑しながらキースの背をなだめるように撫でた。

「前、話した? 妹にずっとヒーローになってって言われてたの」
「ああ、聞いたよ」
「結局私、ヒーローみたいなものになりたかったんだと思う。だって昔の私は妹の憧れだったから、それに応えなきゃって思って」
「――後悔しているのかい?」
「少しね」

 こういうときばかり妙に敏くて嫌になる。ダニエラは苦いものの混ざる笑みをこぼす。
 不規則な勤務で妹といられる時間は減り、NEXTだと周囲に知られ、妹には疎まれている。責務と私情を、駄目だと分かっていても天秤にかけてしまう。

「それなのにニノンの憧れのヒーローはスカイハイよ。……妬けちゃう」

 ダニエラが言うと、キースは優しく微笑みダニエラに口付けた。

「君にそんなに思われているなんて、私こそニノンに嫉妬してしまいそうだ」
「そんな嬉しそうな顔しながら言わないでよ」

 キースの美しい青い目がすうと細められる。

「ダニエラ、ひとつお願いがあるのだけれど」
「なに?」
「ニノンにもう一度挨拶させてほしい。あのときは……ちょっと誤解をさせてしまったかもしれないし、それに君にも「仕事の知り合い」と紹介されてしまったから」

 ああ、とダニエラは呟いた。ニノンのキースへの言及やその態度を思い出し、眉をひそめる。

「ごめん、それはちょっと……やめたほうがいいかも」

 さすがに「妹にマゾ全裸と呼ばれてる」とは言えず、ダニエラは言葉を濁す。
 キースは少しだけ眉尻を下げた。

「嫌われてしまっただろうか?」
「キースが? まさか。嫌われてるのは私の方だから」

 笑いながら言うダニエラに、キースは首を横に振る。

「ニノンが君を嫌うなんてありえない」
「言い切るのね。あんた妹に二十秒くらいしか会ったことないじゃない」
「時間なんて関係ないよ。だって君たちは家族じゃないか」
「……あんた相手じゃなかったら「分かったような口聞くな」ってぶん殴ってたかも」

 純然たる綺麗事を押し通す力強さが彼にはある。それがどこに由来しているのか、ダニエラには分からない。
 キースはダニエラの右手を取り、人差し指から順に外側の指の指先に口付けていく。

「分かるさ。君を愛している者どうし。ライバルは肌で分かるものだろう?」
「私とスカイハイはニノンを巡ってライバルで、キースとニノンは私を巡ってライバル、スカイハイはキース。混乱するわね。そのうち私とニノンであんたを取り合いするかも」
「茶化さないで。ダニエラ、よくニノンと話すんだ。愛していると伝えないと伝わらないのだから」

 ダニエラはキースの頭を抱きしめる。難しいことを平気で言うのだから困ってしまう。ただ彼が言うと、本当にそのとおりな気がして、そう出来る気がしてしまう。

「不思議な人」
「よく言われるよ」
「……それは多分不思議ちゃんの方でしょ? 私が言いたいのはそうじゃないんだけど」

 キースは明るく笑った。

「君たちは家族だよ、ダニエラ。たとえ血の繋がりがなくても、今は誤解が生じていても、目に見えない絆で結ばれている。私には分かる。感じるんだ。嫉妬でどうにかなってしまいそうなほどだ。私も仲間に入れてほしい!」
「そう、ありがと、キー…………んっ?」

 ダニエラはキースの顔をまじまじと見つめる。キースは「キーン? 誰だい?」と首を傾げていた。

「仲間に入りたい?」
「ああ、そうだ! 君たちは素敵な家族だ!」
「それプロポーズ?」
「……えっ?」

 キースは聞いたことのない声を上げて飛び上がると、首をブンブンと横に振る。金髪が揺れ、前髪が額に落ちてくる。眉尻を垂れた顔がいつもより幼く情けなく見えた。

「ち、ちがっ、いやっ、プロポーズじゃないというわけではなくて、ああ、プロポーズではないんだが、プロポーズをしたくないというわけではなくて、私はダニエラを堂々と独占したいと思っ、あっ、ちがう、ちがうんだ聞いてくれ! ええと、こんなタイミングでするつもりは……いやいつでも君は素敵で明日にでも一緒になりたいが、そうではなくて、つまり……つまりだね……!」
「落ち着いてキース、吸って、吐いて、吸って、吐いて」
「息をしている場合じゃないんだ!」
「息はして」

 ダニエラは笑って首を振る。キースといると面白くていけない。

「息はしてよ。ちょっとからかっただけじゃない」

 キースは両手で顔を抑え、涙目でダニエラを睨む。

「ダニエラは優しいが、たまに……とてもいぢわるだ! いぢわるだぞとても!」
「はいはい、ごめんね」


******


 射撃訓練場は旋条痕の調査施設も兼ねている。イヤマフに防護眼鏡をした科学捜査班の職員が、複数の拳銃を次々に試射していた。確か名前はメグ・プロクター。旋条痕や弾道分析に長けていて、拳銃犯罪の専門家として最近どこかから引き抜かれてきたはずだ。
 その姿が参考になりはしないかと、ダニエラはそれをぼんやり眺めていた。

「見ていたって上達しないわよ」

 イヤマフを外し、振り返りながら彼女は言った。急に声を掛けられ、ダニエラはとっさに背筋を伸ばす。

「あ、ああ、うん、そうね」

 視線で促され、ダニエラはイヤマフをし防護眼鏡をかけて拳銃を的に向かって構えた。セイフティ、スライド、トリガー。いや待て、スライド、セイフティ、トリガーだったか? 見られている緊張で固くなるダニエラの肩に手が置かれた。
 眉をひそめたメグが、イヤマフを外せとジェスチャーする。

「あーと、ごめん、初めて銃を構えたの?」
「……そういうわけでは」
「生まれたての仔牛の方がマシみたいな格好してたわよ」

 よく採用試験通ったわね、と言われ、ダニエラは無言で肩をすくめる。

「左利きなの」
「じゃあ構えが逆ね」
「ものの喩えよ」

 ダニエラが言うと、メグは「じゃあいつもみたいに撃って見せて」と言いイヤマフをした。耳をふさがれてしまっては言い訳をすることも出来ず、ダニエラは渋々拳銃を構え、いつものように拳銃を構えた。トリガーには指をかけず、ゆるく両手で握る。スライドも引かずに放たれた弾丸を見て、メグは目を丸くした。

「あなたのNEXTって車を動かすだけじゃないのね」
「機械系なら大抵は……」

 言ってから眉をひそめるダニエラに、メグは片眉を上げて笑った。

「ダニエラでしょ? 交通課の巡査なのにあちこち引っ張られてる。有名人よ」
「悪評じゃなきゃいいんだけど」
「ジャンキーの元カレは元気に服役中?」
「ジャンキーじゃなく売人。元カレじゃなく言い寄られてただけ。ついでに言うと逮捕したのは本当に偶然で、撃っちゃったのは向こうが抵抗したから。わざとじゃない」

 どんなふうに有名人なのか察したダニエラは防護眼鏡をプラプラさせながら溜息をつく。メグはけらけらと笑った。うなじで纏めた金髪が揺れる。

「拳銃所持試験にNEXTの使用が今回から禁止になったの。落ちたら内勤に回されるか――」
「あなたの場合、丸腰で現場投入されるんじゃない?」
「それが怖い」

 固くて丈夫でパワフルで早い車両がなければダニエラはただの人だ。まさか絶対に車から降りないわけにもいかない。事件現場に徒手空拳で乗り込むのは避けたい。別に拳銃の腕も大したことはないのだが、丸腰よりはマシだ。

「それで一人射撃訓練?」
「いたずらに弾を無駄にしているだけよ。出納係に睨まれる」
「あ、私、弾丸を無料でたくさん手に入れられるところ知ってるわ」

 ダニエラがメグの方を見ると、メグは悪戯っぽくウインクして「証拠品保管室」と言った。

「……本気で言ってる?」
「冗談よ! ちょっと、私に唆されてとか言わないでよ?」

 メグはゴーグルを外して棚に置く。鳶色の瞳がダニエラを見上げた。

「良ければ、手伝いましょうか?」
「練習を?」

 ダニエラは驚いて身を引く。もちろん、とメグは微笑んだ。

「だってあんなひどいもの見せられたら……」
「そんなにひどかった?」

 メグは遠慮がちに頷く。正直な性分らしい。

「……おねがいします」

 彼女は銃火器の扱いのエキスパートだ。頼らない手はない。ダニエラの依頼に、メグはオーケーと軽やかに答えた。空の弾倉を入れたオートマチック銃を手渡され、構えるように指示される。

「とりあえずいつも通りでいいから」

 ダニエラはいつもどおり拳銃を構える。「悪くはないのよね」とメグは独り言のように言った。

「トリガーに指をかけ……なんでそれだけでそんなに緊張しちゃうの!?」
「わ、わからない……」

 急に叫ばれ狼狽えるダニエラの背後から組み付くようにしてメグの指導が入る。

「もっと力抜いて、肩上がりすぎ」

 拳銃を握る手に、メグの手が重なる。

「――ダニエラ、俺もう帰るけど……ワオ、お邪魔だったか?」

 こんなところでイチャついてんなよ、と射撃訓練室のドアから顔を覗かせたカイが嘯いた。ダニエラは目だけでそっちを睨み「邪魔しないで、また明日」と答える。

「あんまり根詰めんなよ、運転ミスられたら俺まで死ぬ」

 メグが背中から離れたので、ダニエラは銃を下ろす。

「試験の無いカイが羨ましい」

 振り向きながらダニエラが言うと、カイは鼻を鳴らしただけだった。殺傷力の高いNEXTを持つカイは拳銃の携帯が許可されていない。
 カイはドアの隙間から指を拳銃の形にして的を狙い「ばあん」と口遊む。放たれた指先ほどの氷塊が人型の的の頭に当たって弾けた。

「……おみごと」
「おう、じゃあ、おまえも早く帰れよ」

 閉じられたドアに向かって肩をすくめると、メグが息を吐いた。「びっくりした」と呟くメグに「確かに、急に現れるから」と答えると彼女は何か言いづらそうに言いよどんだ。

「違うの、NEXTの発動するところをこんなに間近に見たのは初めてで……」
「さっき私のも見たのに」
「あっ、そうよね! でもあなたのはほら……」

 傍から見ている分には常人とほとんど変わらない。やはり一般的にNEXTと聞いてイメージするのはカイのような能力だろう。

「彼のこと、ちょっと怖いと思ってた」
「怖い?」

 カイ・リャンと「怖い」という言葉が上手く結びつかず、ダニエラはものすごく変な顔をして問い返した。メグは胸の前で手を振った。小ぶりな手に火傷の跡がある。

「ああ、ごめんね、変な意味じゃないの。本当は私、あなたのことも怖いと思っていたわ」
「私も? 私は別に暴走しても人を傷つける能力じゃないけど」
「そういう理由ではないんだけど、なんだかそう思っていたのよ。NEXTの人たちって、NEXTで固まっているでしょ? それもあって近寄りがたかったってのもあるかな」

 ダニエラはぴんと来ずに首を傾げる。

「私がカイといるのは職務上のパートナーだからよ」
「そうね、でも私にはそう見えちゃってた」

 メグは笑って「でも、いい人そうね」と言う。それからダニエラの方に視線を向けた。

「あなたはなんだかいつもぴりぴりして、怖い顔をしてた」
「顔?」

 ダニエラは己の頬を撫でる。そんなつもりは無かった。

「最近はすごく穏やかな顔してる……それに、あんまりおかしなポーズで射撃練習してるから」
「……そ、そんなに」

 NEXTへの恐怖心を拭うほどおかしかったのか。喜んでいいのか分からない。
 メグはダニエラにもう一度銃を構えるように促す。ダニエラは空の銃を構えた。メグの小さな手が脇腹に触れる。

「でも、あなたと話せてよかった」
「思ったほど怖くなかった?」
「ええ、そうね」

 ダニエラはふと思い出して「愛は伝えなければ伝わらない」と小さく呟く。メグはぎょっとしたようにダニエラから離れた。

「もしかしてダニエラってそういう人?」
「……どういう人?」
「ごめんね、私彼氏いるから」
「ああ、そういう……。そうだとしても職場恋愛はしない」

 ダニエラがそう言うとメグはほっとしたように「私って夢中になるとすぐ触っちゃうから、勘違いさせたら申し訳ないと思って」と言った。