ぽんだぬき



 早朝、粗朶でも集めるかと外に出れば、戸板の向こうに重ねた栃の葉に乗せられたどんぐりや木の実、それと蛙やイモリの死骸がある。
 あの娘が来て以降毎日これがあるので、おそらくはあいつの仕業であるのだろう。それを拾おうか拾うまいか迷っていると、ぽてぽてと妙な感じの足音がした。

「ああー、鱗滝さん、奇遇ですね! 私は朝のお散歩中です!」
「……そうか、ここは儂の家の前だ」
「私のお散歩道は鱗滝さんのお家だったんですねぇ! 偶然です!」

 あの小さな娘である。ここ数日は狭霧山の山中を彷徨いているであろうというのに、着物は汚れておらず、頬はふくふくと丸い。どこから見ても化生の者であるのだが、本人はどうにもバレていないと思っているらしい。とんだ間抜け者である。
 娘は鼻をひくひくさせると、鱗滝の足下をちらと見た。

「ううーん、なんだかいい匂いがしますよ。ご馳走ですね! どうしてこんなところにー? 誰かからの贈り物ですかー? いいなー! 鱗滝さんいいなー! きっと贈ったのはとっても優しくて可愛い女の子だと思うんですよー!」
「お前だろう」

 鱗滝が短くそう言うと、娘は肩をびくつかせた。

「ほぎゃ、違います! ……あっ、違くない。私なんですけど、あれー、上手くいかないなー?」

 言い残すと、娘は踵を返して少し跳ねるような妙な歩き方で藪を漕いで消えていく。草履をぺたぺたさせながら歩く足に枯葉色の毛がみっしりと生えていて、その変化のあまりのお粗末さに鱗滝は思わず額を押さえて溜息をついた。