あのこがほしい(二)



 鋼鐵塚蛍が産屋敷耀哉にまみえたのは実に三年ぶりのことであった。あのときは激情のままに掴みかかり、声を荒げ、喧嘩を売ってしまい、今となっては実に気まずい――などと後悔する殊勝さが鋼鐵塚にあれば周囲の人間はこれほど翻弄されていない。
 鋼鐵塚は面も取らぬまま産屋敷に形式ばって額付こうとし、鉄地河原に脇腹を小突かれる。渋々面を外すと、いまだ生々しく血と涙の滲む顔の包帯が晒される。冷たい空気が触れるとずきずきと痛む気がして、あまり外したくなかった。
 明け方の椿事のあと弔い事と里の移転復旧はとりあえず他の者に任せ、夜明けから休みなしで産屋敷邸に向かい今に至る。道中、鋼鐵塚は鉄地河原に「身内から鬼の出た育手は腹切るらしいで」「蛍、おまえはどうする気や」と散々責められ機嫌が悪い。
 おまけに産屋敷邸に到着した途端に蝶屋敷の者に築炉を取り上げられたものであるからなお機嫌が悪い。体と一緒に心もやわくなってしまった築炉には堪えがたい話もあるだろうから、という配慮には思い至っても、あの気にかかる生き物が見える範囲にいないというのは実に尻の据わりが悪かった。
 鋼鐵塚が苛々そわそわしているのを盲目で見透かしたように産屋敷は目元を緩めた。三年前に会ったときから、容態はだいぶ悪くなっていることが鋼鐵塚にでさえ分かった。両の目は完全に光を失い、額から目元にかけて皮膚がぐずぐずと爛れ波打っている。
 産屋敷へ鉄地河原が挨拶を述べると、産屋敷は穏やかにそれに応えた。

「里も人も傷を負った矢先に呼び立てるような真似をしてすまないね。命を失った者の冥福を祈ろう。我々が不甲斐ないばかりに、痛ましいことをした」

 そう言って苦しそうに頭を下げる。鉄地河原は迷いなく首を横に振る。

「何を。我ら鎚を握ったその日から、これしきのことは勘定の内。覚悟の上で鬼殺しの刀を打っております。どうか頭をお上げ下され」

 鋼鐵塚はそのやりとりを耳殻の外側を上滑りさせながら、覚悟のことを考えていた。築炉が鬼になった日には、築炉を殺して己も死ぬと決めていた。それは嘘偽りなくそうしようと思っていた。
 だが死にかけた築炉を見たときに、鋼鐵塚はふと「死んでほしくない」と思った。思ったのはそれきりで、それ以上の何かに考えを巡らせたかは記憶にない。無我夢中といえば聞こえはいいが、駄々を捏ねる子供が泣きわめくのと何も変わらない。
 気が付けば築炉は血を含ませられてのたうっていた。それで己が女房の首を落とすのならば、それでもいいと思った。とにかく自分の知らないところで、糸の切れた凧のようにいなくなってしまうことだけは許せなかった。
 三年前、この場所で、鋼鐵塚は女房に掴みかかり「俺を食って逃げろ」と言った。「鬼でいいから生きていてくれ」と。その頃から、鋼鐵塚の気持ちは何一つ変わらない。
 鋼鐵塚とて並み一通り「死にたくない」とか「苦しんだり痛かったりは厭だ」という情緒はある。しかしそれらが一時の激情で押し流されてしまう程度には頭に血が上りやすい性質ではあった。
 築炉はといえば、これは生きているのか死んでいるのかよく分からない。どうしたいのかもはっきりしない。もじょもじょくねくねとはっきり物を言わないところが非常に鬱陶しい。「言いたいことははっきり言え!」と何度鋼鐵塚が痺れを切らしたかは数えきれない。
 築炉は死んだほうがいいと言われれば、しれっと「そうですか」と答えそうな気がする。だから鋼鐵塚は築炉の分まで怒り、喚き、抗うのだ。まあ半分ほどは抑えきれない性分のためであるが。

「蛍、聞いとんのかい!」

 言われ、肩を叩かれ、鋼鐵塚は眉をひそめて顔を上げた。聞いているか聞いていないかで言えば、聞いていなかった。鋼鐵塚は口を開きかけ、閉じる。余計なことを言って鉄地河原に口の利き方がなっていないなどと余計な説教を食らうのは御免であった。
 鉄地河原は黙り込む鋼鐵塚にはあと溜息を落とす。

「いたずらがばれた子供みたいに黙りこくってからに。いくつや、お前は」
「三十七」
「知っとるわ。誰が育てたと思うとるんや」

 ふふ、と産屋敷が笑う声が聞こえ、鉄地河原は恐縮して小さな肩を余計竦めた。

「蛍、君のご内儀の件は――なんというべきだろうね。でも私はどのような形であれ蛍のご内儀の命が繋がったことを幸いに思うよ」

 鋼鐵塚が鼻を鳴らすと、鉄地河原が面越しに鋼鐵塚を睨んだ。鋼鐵塚にしてみれば、外貌も変わり、記憶を失い、人間に成る前のような幼子に成り果ててしまったあの生き物を、築炉と一繋がりであるとは思えなかった。
 道中、築炉は負われた背の上で三度笠から吊るされた風鈴をしつこく指先でつついて鳴らし、やかましいので辟易とした。空腹も訴えず、排泄をすることもなく、築炉は辛うじて人の形をした何かであった。厭ではないが、責任は感じた。
 この女は、己と結婚してからこんなことばかりだ、と心のどこかで思った。こんなことがどんなことかは、自分でもよく分からなかった。

「蛍はもしかすると私に対して不信感があるかもしれないね。三年前のことがあるから。でも、我々の事情も変わった。禰豆仔をはじめとした人の血肉に狂わない鬼の存在がはっきりした以上、無闇に人であった者の命を奪うのは本意ではない」

 鋼鐵塚は顔を上げて細々と言葉をつなぐ産屋敷を見た。

「今、しのぶが築炉の診察をしている。元に戻る道があるかもしれないし、ないかもしれない。でもどちらにせよ、このまま人を襲うことがなければ、どうだろう、蛍、あの子を手元に置いておく気はあるかな」

 鋼鐵塚は庭に敷かれた玉砂利を眺め、次いで盲いた産屋敷の目を見た。

「姿は変われど連れ合いは連れ合い。面倒は見る。死ぬまで」

 鋼鐵塚はそれだけ言うと挨拶もそこそこにさっさと立ち上がった。面をつけ、控えていた隠の男に「おい、蝶屋敷に連れていけ」と言うと、隠は何か言いたそうにしたが渋々と言った様子で先導した。
 鋼鐵塚は面の下で顔をしかめる。言いたいことをはっきり言わない奴は嫌いだった。


******


 蝶屋敷を訪れたのは一度や二度ではない。任務を終え刀を損ねた剣士がいるのは大抵は蝶屋敷か藤の紋の家であった。中に声をかけることもなく玄関口を開け放ち、履物を脱いで上がり込む。
 あれほどの襲撃事件があったにしては、蝶屋敷は静かであった。上弦を二体相手取った剣士達は、負傷するよりも命を落としたものが多かったからだ。廊下を軋ませ、風鈴を鳴らすたびに、木戸の向こうから寝息と呻き声に似た寝言が聞こえた。
 壁を何枚も隔てた向こうで囁くように言い交わす声と、消毒薬のにおいと、どの季節でもかわるがわる咲く花木のにおいが満ちている。その静謐な空気を引き裂いたのは、甲高い悲鳴であった。

「ひゃああああ、やだああああ、うえええええん!!!」

 鋼鐵塚は覚えのある声を聞いて、声の元へ急ぐ。木戸を開けようとすると、引き戸ではなく蝶番式の戸であったことをすっかり失念して、戸板に思い切りぶつかってしまった。
 小さく悪態をつきドアノブを回すと、築炉が両の手をそれぞれ少女に押さえられ、ぴいぴいと泣き叫んでいた。赤い瞳が鋼鐵塚に向けられると、築炉は「はがねづかさん!」と高い声を上げた。
 突然の闖入者に驚いた少女が拘束を解いてしまったらしい。築炉はべしょべしょと泣きながら鋼鐵塚に駆け寄り袴に縋りついた。

「おい、引っ張るな! 袴が脱げる!」
「あらあら、うちの子たちに変なものを見せないでくださいね」
「俺に言うな。このちびに言え」

 鋼鐵塚は築炉を片手で抱き上げ――抱え上げ、と言ったほうが正確かもしれない――、ずり落ちた腰帯を引き上げる。
 しのぶの手にいかにも鋭い刃物が握られているのを見て、鋼鐵塚は「おい、それ」と言った。しのぶはにこりと笑って刃物を鋼鐵塚に見せた。

「ご心配なさらずとも、少し採血をするだけです」

 鋼鐵塚は見慣れぬ器具を一瞥し、ひんひんと哀れっぽい声で泣く築炉の帯を掴んでぶら下げる。築炉は悲鳴をあげた。

「ほら、早くしろ」
「……そんな乱暴な」
「さっさと済ませろよ。腕か? 尻か?」

 築炉の着物の裾をまくろうとする鋼鐵塚を制止し、しのぶは築炉の傷一つない白くてもちもちの腕に針を立てた。赤く澄んだ血液が刃物の柄に吸い上げられる。み゛い! と築炉は奇妙な声を上げ、ぶるりと体を震わせた。
 鋼鐵塚は築炉を抱え直して涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を覗きこんだ。

「痛いか?」

 こくり、と築炉は頷く。

「気のせいだ」

 鋼鐵塚がばっさり切り捨てると、築炉は幼いながらに衝撃を受けた顔をした。

「……きのせい」
「そうだ」

 ふああ、と築炉はあくびに似た嘆息を漏らしてきょときょとと鋼鐵塚を見つめる。

「きのせい?」
「くどいぞ」

 素っ気なくそう言われ、築炉は口を噤んだ。そのやりとりを見ていたしのぶは溜息をつく。

「鋼鐵塚さん、あなたに細やかな気遣いなど到底無理とは重々承知しておりますし、築炉さんだって大人ですから今までは何も言いませんでしたけれども。今の築炉さんは心も体も四つか五つ程度ですよ。もう少し優しくしてあげてもいいでしょう」
「四つか五つ? もう少しガキだと思っていたな」

 話す言葉もたどたどしい築炉の頭を、しのぶは指先でくすぐった。築炉は目を細めてくすくすと笑う。しのぶはふと微笑んでから、困り笑いを浮かべて鋼鐵塚をちらと見た。

「もしもし、私の助言は聞き入れてもらえそうですか? こんなときに言うのもどうかとは思いますけれど、そんなんじゃ本当にいつか細君に逃げられますよ」

 身中に鬼の血を巡らせる築炉は定期的な診察と薬の処方を受けていた。そのときに築炉が何か言ったかは知らないが、碌なことではないのだろうなと鋼鐵塚は思う。

「にげる?」

 築炉は首を傾げて鋼鐵塚の腕の中から鋼鐵塚の顔を見上げた。間近にある双眸は蜻蛉玉のようだ。

「余計な事を覚えるんじゃねえ」

 鋼鐵塚が築炉の丸い額を小突くと、築炉は両手で額を押さえて「くひひ」と笑う。抱いた体は幼子のようにやわらかいが、ほとんど体温を感じさせずひんやりとしていた。

「どうぞ、そこにお座りになってください」

 しのぶは鋼鐵塚に椅子を勧める。花柄の緞通の座面に鋼鐵塚は腰を据えたが、座り慣れていないせいでどうにも落ち着かなかった。築炉は鋼鐵塚の膝の上に座り、鋼鐵塚の胸に頭を寄り掛からせた。

「築炉さんの容態については良好という他ありません。体温が極端に低く、食欲もないようですが、生命維持には支障が出ていない。――それが奇妙だというのは、そうなのですけれどもね」

 鋼鐵塚が築炉の欠けた角を摘まんで引っ張ると、築炉は「やめて、やめて」と身をよじらせた。聞いているのですか、というしのぶの声音に口調以上の圧があったので、鋼鐵塚は大人しく彼女の話に耳を傾けることにした。

「欲しがりはしませんが、人間の食べ物を口にします。啄む程度ですが。……人の血肉に興味を示したことは?」
「試したことねえな」

 利き手は駄目だ。左手の薬指ならば、まあいいだろう。鋼鐵塚は無言で築炉の小さな口に自身の左薬指を捻じ込む。

「むぐうう!」
「食うか? おい、ちょっと齧ってみろ」

 手足をばたばたさせて逃げ出そうとする築炉を見てしのぶは額をおさえた。

「もう結構です。分かりました。築炉さんが窒息死する前にやめてください」

 手を離すと築炉は慌てふためき鋼鐵塚の膝を飛び降り、逃げ出していく。今にも泣き出しそうな築炉の手を蝶の髪飾りをした少女が取り「向こうで遊んでいましょうね」と連れていった。
 木戸が閉まったのを見て、しのぶは「さて」と口火を切った。

「単刀直入にいきましょう。今の築炉さんは人でも鬼でもありません」

 眉をひそめる鋼鐵塚に構わずしのぶは続ける。

「鬼の血を弱めるために服用し続けてきた藤花は、当然人体にも少なからず影響があります。弱った体では鬼になることもかなわず、かといって人間のままでは死んでしまう。今の築炉さんは――強いて言うなら繭のようなものです」

 そうか、と鋼鐵塚は答える。気のない素振りにも見える言い方に、しのぶはやや眦を吊り上げた。

「まったく、なんということをしてくれたのでしょうか。私が細心の注意を払って非活性剤を調合していたのに、人間の血を飲ませるだなんて」
「知るか、助かったんだからいいだろ」

 助かった? と繰り返すしのぶのこめかみに青筋が浮いた。

「あのまま鬼になって、鬼殺隊士はあなたの奥方を斬らねばならなかったかもしれないのですよ。そのときに何人かが怪我を負ったかもしれません。死ぬ者もいたかも」
「いなかっただろう」
「結果論でしょう」

 しのぶは机の上に薬瓶や脱脂綿を並べながらぴしゃりと言い放った。鋼鐵塚は何も言い返せず、その姿を眺めていた。

「面を外してください」
「なんでだよ」
「目が傷付いているのでしょう。手当てをしますから、面を外してください」

 鋼鐵塚は言いなりになるのも気に食わなかったので、わざとのろのろと面を外した。しのぶは鋼鐵塚の顔からてきぱきと包帯を外し傷を診る。

「炎症をおさえます。視力は戻らないかもしれません。こればかりは運を天に任せるしかありませんね」

 しのぶは薬瓶を開けながら、ちらりと鋼鐵塚の顔を見た。

「鋼鐵塚さんのお顔を拝見するのははじめてです」
「そうかい」
「築炉さんが鋼鐵塚さんのお顔のことをなんとおっしゃってるかご存知ですか?」

 ふふふ、としのぶは意地悪く目を細める。鋼鐵塚は顔をしかめた。引き攣った目元がじくりと痛む。

「めんのしたもすてき、いがいとひとっぽい」
「あら、知っていたのですね。つまらない」
「あいつそれしか言わねえ」

 鋼鐵塚が言うと、しのぶはにおいのきつい薬液を含ませた脱脂綿で鋼鐵塚の目元を拭いた。びりびりと痛み、鋼鐵塚は呻き声を漏らす。意図せずになみだがぼとぼとと頬を伝って落ちた。

「素敵かはともかく、本当に人っぽいんですね。びっくり」
「喧嘩売ってんのか」
「ふふ、いいえ、まさか」

 しのぶは数種類の軟膏を傷に塗り、上から真新しい包帯を巻いた。

「築炉さんは、ここに来るたび鋼鐵塚さんの話をするのですよ」
「外出しないから他に話題がないんだろ。たまには遊びに行きゃいいのに」
「そういうところですよ、鋼鐵塚さん」
「……何が」
「なぁんにも」

 いぶかしむ鋼鐵塚の耳に、ぱたぱたと軽やかで忙しない足音が届く。木戸が押し開けられるのと同時に築炉が室内に飛び込んできた。

「はがねづかさん!」
「なんだ」
「もらいました!」

 築炉はにこにこ笑って小さな手で握られた小さな花を鋼鐵塚に掲げて見せる。黄色や白の名前も分からないような小さな花束を、まるでものすごい宝物かのように抱えている。
 築炉はその中から一番大きくて一番花弁が揃っている白い花を一輪とると、鋼鐵塚の膝によじ登り耳元に挿してやる。

「はがねづかさんにも、ひとっつ」

 鋼鐵塚は目の前のしのぶがにまにまとした笑みを押し隠そうともしないのを見て、花を抜き取ろうと手を上げた。だが、築炉の目が嬉しそうに輝いているのを見て、上げた手で面を引っ掴むと乱暴につけ直した。

「帰るぞ」

 短く言う鋼鐵塚にしのぶが声をかける。

「あら、築炉さんは置いてらっしゃったらいかがです? 鋼鐵塚さんに小さな子のお世話なんて無理ですし、ここなら不測の事態にも備えられますよ。お友達もいますしね」

 築炉はぱっと顔を上げる。

「きよちゃんと、すみちゃんと、なほちゃんと、あそんでいいですか?」
「ええ、お仕事の合間なら」
「…………でも、はがねづかさんは?」
「たまには会いに来てくれますよ」

 築炉は窺うように鋼鐵塚の顔を見上げる。

「はが――」
「帰るぞ」
「きいてよぉ!」

 ぴい、と甲高い声を上げる築炉を鋼鐵塚はさっさと背負いあげる。先程まで帰ることを少し渋っていたことも忘れたように上機嫌で鋼鐵塚の首に腕を回した。やわらかいがひんやりとした頬が鋼鐵塚の首の後ろに擦り寄せられる。
 三百六十度どこから見ても鋼鐵塚に心底懐いている様子の築炉を見て、しのぶは肩をすくめた。

「記憶はないはずなんですけどねえ」
「ないだろ。築炉はこんなんじゃなかったぞ」
「そうですかね、築炉さんはだいたいそんな感じでしたよ」

 わけわかんねえこと言うな、と鋼鐵塚は悪態をついて蝶屋敷を後にしようとした。
 木戸に手をかけた鋼鐵塚に、しのぶは「鋼鐵塚さん」と声をかけた。首だけ傾いで振り向く鋼鐵塚に、しのぶはにこりと笑った。

「夫婦生活は当分控えてくださいね」

 鋼鐵塚は面の下で顔をしかめ、背に負った小さい生き物を揺すり上げた。

「するわけねえだろ」




 門前で鉄地河原と行き合い、そのまま二人で帰路につく。
 鉄地河原は言葉少なに「良かったな」とだけ言った。鋼鐵塚はそれに「ああ」とも「うん」ともつかぬ曖昧な返事を返した。
 空里に着いた頃には、大体の荷物も里に運び込まれた頃合いであった。これから夜を徹して鍛冶場を再建するのだという。当然のように参加しようとした鋼鐵塚は「お前は怪我人だろうが!」と二、三発したたかに殴られ、家屋に押し込められた。
 家の中には前の里の家にあった最低限の家財道具が運ばれていた。
 鋼鐵塚はどっと疲れたような気がして、行李から布団を引きずり出すとそれに包まって早々に寝こけてしまった。眠りに落ちる寸前まで、築炉が部屋の中でかさかさと何かをしている気配がした。