取引



 事を成し遂げるには必ず何かと交換しないといけない。

 鏡の向こうの私が美しく微笑む。膚には生気が満ち、赤い唇が艶めいている。私は身支度を仕舞うとすっかり常連となった会合に向かう。
 貸会議室の清潔な白っぽい一室で、人々が車座になっていた。身近な人の死を乗り越えるための緩やかな連帯は心地いい。私はその車座に入る前に、顔馴染みになった精神科医に声をかけた。

「こんばんは」
「ああ、こんばんは。今日も来てくれたんだね」

 医師は唇の端を上げる。爬虫類めいた冷たさを感じる細面は、そうすると一層冷たさを増した。

「来ますよ、必要なことだから」
「そうか、それはよかった。今日はね、新しい人が来るんだ。優しくしてあげて」
「もちろん」

 私は医師の顔を見上げる。

「それじゃあ、向こうに参加してきます。今日もよろしくお願いします、ルキノ先生」

 ヨモダは私が選ばれたことに意味は無いと言った。それは違う。私は必要だった。衰退し寂れていく鄙びた山村よりも、ここには多く助けを必要とする人間がいる。