結婚してもいいかな!?
一年は組は全員で頭を寄せ合い、今し方乱太郎が仕入れてきたばかりの面白い話を聞いて、三者三様の反応をした。
一番動揺したのが虎若である。
「えっ! 蛍火がタソガレドキに!?」
と、そう言ったきり放心して何も言わなくなってしまった。
それもそうだ。佐武に長らく身を置いていた蛍火に、は組の中で最も近しいのは虎若である。
蛍火のことを姉同然に慕っているし、どうにも佐武村では蛍火を村内の若い男に娶せてそのまま村に居着いてもらおうという思惑があるらしい。これは蛍火には秘密らしいが。
「でも、蛍火先生、断っちゃったんだよ」
乱太郎が言うと、庄左ヱ門が利発気な片眉を上げた。
「どうして? 他に結婚したい人がいるとか?」
「ううん、蛍火先生は、結婚したくないんだって」
乱太郎が蛍火と話した内容を説明すると、庄左ヱ門はむうと顎に手をやる。
「つまり、蛍火先生は、すぐに別れられるような気楽な身分の男の人と結婚したいってことだな」
「そういう言い方をすると、なんだか悪い女みたいだけど……」
おおむね、そういうことであろう。
「蛍火先生が本当に結婚できなかったら、は組の誰かが結婚してあげたら良いんじゃないかと思うんだ」
乱太郎の言葉を聞いた庄左ヱ門が車座に声をかける。
「蛍火先生が本当に嫁き遅れたときに結婚しても良いという者、挙手!」
そうはいってもなんとなく気恥ずかしくて、我こそはと手を挙げる者はいない。お互いちらちらと様子を窺い合いながら、目を伏せている。
すっかり座長となった庄左ヱ門が「では、条件から絞っていこう」と提案した。
「まず虎若は駄目だな。家は佐武鉄砲衆の頭領だし、照星さんの面子もあるからなかなか気楽とはいえない」
そんなぁ、と虎若は肩を落とす。
「金吾、兵太夫も家が武家だから駄目だろうな。しんべヱも大金持ちだから駄目。ぼくと伊助の家は商いをしているから保留、団蔵も保留かな――」
駄目出しをされたよい子達はほんの少しだけ項垂れる。何故かは分からないが、庄左ヱ門に駄目と言われるとそれだけで堪える。
成り行きを黙って聞いていたきり丸が、ふと口を開いた。
「よく考えてみれば、この中で一番気楽な身分なのはおれだよな」
確かにそうだ。きり丸に期待の視線が集まる。
「それでは、この役目はきり丸に任せて良いか、良い者は挙手!」
ぱらぱらと手が挙がる。
「それでは、蛍火先生が本当に嫁き遅れたときにはきり丸に後を託すことを決定する!」
そのとき、すぱんと木戸が開く。蛍火が怒ったような困ったような顔で立っていた。
「こらこら何の話!」
「蛍火先生が嫁き遅れたときには組の誰が結婚するか、という話です」
「……庄左ヱ門、一つ、そういうことを聞いてるんじゃない。二つ、そう答えて怒られるとは思わなかったのか。三つ、その冷静さは怖い!」
蛍火は一息に言うと、額を押さえて項垂れる。
「君らに心配されるほど切羽詰まっちゃいないよ」
でも、ときり丸が反駁した。
「蛍火先生とおれで、全国火縄銃銭稼ぎ行脚はありじゃないっすか?」
へ? と、蛍火は目を丸くする。
「蛍火先生は火縄銃は上手いけど、営業が下手で雇い手が見つからないんでしょ? じゃあ、おれがいい感じに先生を売りこんであげるから、稼ぎは山分けということで……」
目がすっかり銭になっているきり丸を、乱太郎が「きりちゃん!」と諌める。
しかし、蛍火は真剣な面持ちで何事か考えているようだった。
「きり丸、歩合は?」
「三、七。いや、ニ、八でどうっすか?」
蛍火が目を輝かせる。
「不束者ですがよろしくお願いします」
「蛍火先生っ!?」
乱太郎が慌てて割って入った。
「だ、だめですよ! そんなの結婚じゃないですよ!」
「私は火縄銃が撃てればいいみたいなところがあるからなぁ」
「だめですーっ!」
発案者として責任を持って蛍火の迷走を止めねばなるまい。乱太郎は大きな声で叫ぶ。
「とにかく、この話はなしです!」
「えー」
「えーじゃないですよぉ!」
もー! と憤慨する乱太郎に、蛍火は笑った。