曙光の赫【終】



 背後からついてくる足音が重い。それもそうであろう。昨日から持ち始めた士筒が、蛍火の肩にずっしりと食い込んでいる。
 照星は蛍火を振り返った。

「平気か」
「……はい」

 苦しげな返事に、照星は歩調を緩める。蛍火を振り返り、声をかけた。

「挨拶はしてきたのか」
「はい。雑渡殿と、それから山本殿のお家に。高坂殿はお留守でしたので、言付けを頼みました」
「友達にもしてきたか」
「はい、また会えるといいね、と」

 照星は何の気なしに「尊奈門君にも挨拶はしたか」と問う。それに対して蛍火は、すいと目を逸らした。しばらく沈黙し、やっと頷く。

「…………はい」
「蛍火、嘘が下手すぎる」
「あ、会えなくて……」

 照星は蛍火の頭を掴むと、背けられた顔をぐるりとこちらに向けた。気まずげな顔が顕になる。

「こっちを見なさい。尊奈門君に何も言わずに出てきたのか? あれほど迷惑と心配をかけておきながら……」
「だ、だって……顔を見たら、行きたくなくなる……」

 悄然と項垂れる蛍火の顔に決意と反省と後悔が綯い交ぜになっているのを見て、照星は溜息を一つだけついてその頭を解放してやった。

「もう会えるか分からないぞ」
「はい」
「次に会うときは敵同士かもしれない」
「はい」
「後悔はしないか」
「はい」

 そうか、と照星は前に向き直る。険しい山道が延々と続いていた。

「それなら、好きにしなさい」
「はい、好きにします」