酔っ払いの誘惑
今日は、珍しく飲みに出ている。普段あまり飲みに行かない名前が、友人の結婚報告とやらで、数日前から随分と楽しみにしているようだった。
時計の針は23時を過ぎた頃、玄関ドアがガチャガチャと音がした。だが音はするが、一向に開く気配はない。どうしたのかと内側から鍵を開け、ドアをゆっくりと押した。
「只今戻ったぁー。」
これは何年かに一度あるかないかの酔っ払いだと思った。余程楽しかったのだろう。
「名前、オメェよく帰ってこれたなァ。」
「私を誰と心得る。」
名前は酔うと、何故かちょいちょい時代劇が入る。
「へいへい、名前サマですネー。オラ、くつ脱げ。」
「お主は誰じゃ!」
「アナタの大好きな靖友サマですヨー。左、脱げてねェぞ。」
「えへへー、自分で靖友さまって言ってるー。ちょーウケるぅ。」
俺の肩を力加減無しで叩いて笑っている。分かるよ、酔っ払いとは、面白くもない事でも大笑い出来るんだよな。
「はぁー笑いとは体力を使うのだな。疲れたぁ。」
酔うと人ってここまで変われるんだな。
「とにかく、部屋入れ。」
「んー抱っこ。」
「アァ?」
「疲れた、抱っこぉ。」
肩に担いでやろうと思ったら、違うお姫様抱っこだと駄々をこね始めた。まぁ、そのおねだりが可愛かったから、舌打ちをしつつも望み通りにしてやるか。
「服出してやっからァ。着替えとけよ。」
クローゼットから、適当に服を出して渡し、キッチンへと水を取りに部屋を出た。
変な口調とテンションだが、酔っ払い特融のトロンとした目に、少しドキドキしてしまう。
「水をもってきたぞー。着替えたかァ?」
部屋に戻り、ギョッとした。
「やーすとーもくん。今夜、どう?」
名前は、パンツは履いているが、ベッドに座り外されたブラの肩紐部分を指でくるくると回して笑っている。こんな姿は見たこともないし、素面の名前からは想像出来ない姿だ。正直すぐにでも襲いかかりたいが、何せ相手は酔っ払い。
「ったく、いいから水飲め。」
「えー、飲めない。でも喉カラカラァ。の、ま、せ、て?」
ああ、オレの理性よ、サヨウナラ。
「う………、ん。」
「起きたか、酔っ払い。」
オレの腕の中でモゾモゾと名前が動いた。時計の針は、もうすぐ12時を指す頃だ。
「え、なんで裸?」
「ハッ!そりゃ夜オメェが誘ってきたからに決まってんダロ。」
「誘っ…はぁ?」
「名前チャン、すげェ激しかったヨ。」
「はっ、激しっ、嘘つき!」
「嘘じゃねーよ。」
思わず笑ってしまうと、名前は顔を真っ赤にして小走りでバスルームに消えてしまった。
何年かに一度拝めるか分からない名前の可愛いお誘いを思い出し、風呂から出たらまた可愛がってやるかと顔がニヤけた。
2020.07.03