いらない
気付いてないとでも思った?
それともわざと気付かせるようにしてるの?
ずるいね。そんな性格だったっけ?
もっとはっきり言う人だと思ってたけど。
いつの間にか変わってしまったの?
「楽しそうだね。」
「アァ?アー別にィ。」
そんな面倒くさそうに返事しなくてもいいのに。
「…帰るね。」
「んー。」
聞いてるのか聞いてないのか、スマホから目をそらさない。靖友の家に来て3時間。会話らしい会話はしていない。ずっとスマホで誰かとメールしている。
なんで私を呼んだんだろうと悲しくなった。
玄関で靴を履いてると、靖友に声をかけられた。
「あれ?名前?どこ行くんだヨ。」
さっき帰ると言ったのに。やっぱり聞いてなかったのか。
「帰る。」
そう言うと、靖友は慌てて玄関まできた。
「待てって。なァんでだヨ。」
「靖友忙しそうだから。」
嫌味を含んだ言い方をすれば、チッと舌打ちをされた。
「悪かったよ。もうしねーから、帰るなって。」
そう言ってキスをすれば、私の機嫌が治ると思っている。
ばかばかしい。
何も言わない私をまた部屋まで連れ戻すと、そのままベッドへと倒れ込み行為を行う。
あぁ、そうか。私が呼ばれた理由は性処理かと自分で思ってさらに悲しくなった。
もうどれくらい外でのデートをしてないだろう。
行為が終われば、また靖友はスマホを取り、先程のメールの続きを始める。
ばかばかしい。
私はさっさと服に着替え、何も言わずに靖友の部屋を出た。
1時間後、靖友からいつの間にか帰ったのかとメールがはいった。
本当にばかばかしい。
返信はしなかった。
それから1週間、靖友からの連絡はなかった。もちろん私からもしていない。せっかくの休みの日なので、ストレス発散を兼ねて電車で20分、ショッピングを楽しんでいた。
靖友と高3の秋から付き合い出して、もう5年。大学は違ったが、就職先が同じ県内で喜んだ。靖友に一緒に住むかと言われたが、社会人1年目なので、もう少し会社に慣れてからの方がいいという事になった。
あの時、断らなければ変わってたのかな。
なんて、今更後悔しても遅い。5年付き合っていれば、情はあるが、それが愛情なのか、最近の靖友を見ていると、自分の気持ちも全く分からなくなっていた。
「ヤストモくん、クレープ食べない?」
うしろから聞こえたその名前に、少しビクッとした。
あぁ、靖友と同じ名前を可愛い声で呼ぶ子がいるなと思った。
「太んじゃナァイ?」
バッと私は振り向いた。同じ名前じゃなくて、靖友本人なのかと思った。靖友もなぜここに私がいるのかと驚いているようだった。
私がふわふわとした可愛らしい女の子と繋いでいる手に視線を移すと、靖友はすっとその手を離した。
私は、そんな靖友に背を向けて離れていった。
「名前。」
少し歩いたところで、靖友に肩を掴まれた。
「アー、チゲェんだよ。」
この人はもう私の知ってる靖友じゃない。私が好きだった真っ直ぐな靖友じゃないと思ったら、自然に言葉が出ていた。
「もう、いらない。」
私の知らない人だと思ったら、涙も何も出なかった。
2019.12.02