ダレダ
大学で荒北と出会い、付き合って2年が経った頃、突然言われた。
「オメーさぁ、他に出来たァ?」
名前には何の事だかさっぱり分からなかった。
「ごめん、意味が分からないんだけど…。」
「それともオレが浮気相手かァ?」
「うっううう浮気!!!?」
驚いた。何をもってそんな事を思うのか、名前には全く身に覚えがない。
「なんでよ!する訳ないじゃん!こんなにこんなに靖友が好きなのに!!!」
「…おお、あんがとネ。」
「あんかとじゃない!何、冗談?どーゆー事!」
「落ち着けって。冗談じゃねェけど、気になったんだよ。」
「何が!!」
興奮気味の名前に、荒北が視線であれと言う。その視線を辿ると、今までまったく気がつかなかったがカレンダーは翌月に変わっており、とある日にハートマークと3周年と書かれていた。それを見て、名前はゾッとした。
「なに、あれ…。」
「オメーが書いたんじゃねェの?」
「そんな訳ないじゃん。3周年って…なに?」
酔った時にでも書いたのだろうか、でも3周年なんて一体何のだ、その前にどう見ても自分の字ではない。
「こわっ…こないだ友達とうちで飲んだ時、誰か書いたのかなぁ…。」
「ふーん。」
「いや、マジで。私の処女奪ったの覚えてるでしょ!」
「奪ったとかゆーな!」
「奪ってんじゃん。いやぁ、アレは本当に大変だった…。」
「っせ!思い出してんじゃねーヨ!」
名前は気持ち悪いなと思いながら、カレンダーを今月に戻した。また近いうちに、こないだ飲んだ友達に聞いてみようと思った。
翌週、名前は家に帰ってすぐに近くのコンビニへ向かい荒北に電話をした。
「靖友…怖い。」
『どーした?』
「部屋…が、おかしい。」
『はぁ?オメーどこいんの?』
荒北はすぐにコンビニへと向かうと、真っ青な顔をした名前を見つけた。
「どうした。」
「カレンダーが…また来月になってて。タオルが畳まれてた…。」
「アァ?」
「カレンダー、先週靖友来た時、私元に戻したよね?あれから触ってないのに!タオルだって、朝畳む時間なかったからベッドの上に置いてったの。なのに、綺麗に畳まれてた置いてあったの!なんで?」
幽霊なんてアホらしい。誰かが入ったとしか考えられないと思うのは、荒北も名前も同じだった。
「とりあえず、警察行くぞ。」
そのまま二人は警察署へ向かい、その出来事を話すも、今の状況では、アドバイスは出来てもそれ以上の事は出来ないと言われてしまった。ただ、直通の電話番号を教えてもらい、また暫くは周辺パトロールを強化するとの事だった。
警察署から出ると、荒北はそのまま名前を連れて荒北の住むアパートへと戻った。翌日、一通りの荷物と着替えを取りに行きたいと言う名前に、荒北から事情を聞いた金城と待宮も同行してくれた。
部屋の様子は変わりなかった。名前は急いで荷物をまとめて、しっかりと鍵をしめた。
それから2週間、荒北は3日に1度のペースで名前のアパートへ向かい、様子を確認していたが、特に変わった様子はなかった。
「しまった!午後の講義で使う資料、持ってくるの忘れたかも。」
「アァ?それねーとダメなの?」
「たぶん。今日の講義で使うって言われてたから。昼前だし、なんか大丈夫そうだから、取りに行ってきちゃうよ。」
「へいへい。オレも付いてくからァ。」
「ありがとう。」
アパートに着くと同時に荒北の携帯が鳴った。バッグにしまっていた為、探している間に名前が2階の自分の部屋へと向かってしまう。
「オイ、待て!まだ開けんなよ!」
携帯を手に取り画面を見ると、警察からで慌てて電話に出た。
『すみません、苗字さんの携帯に何度か電話したんですが繋がらなくて。いま苗字さんと一緒ですか?』
「はい。」
『良かった。あとで詳しく話しますが、いまは絶対にアパートに近づかないで下さい。いま警察が向かってますので、荒北さんのアパートで…』
「いや…いま名前のアパート前で…」
小さな悲鳴が聞こえた。
「名前!!」
先程まで見えていた名前が見えない。その代わりに玄関扉が開いている。荒北は急いで階段を上り名前の部屋の方を見ると、玄関前に座り込み、中から引きずり込まれそうになるのを必死に抵抗している名前が見えた。
荒北は玄関扉を思い切り開け、名前を掴む手を掴み躊躇する間も無く男の眉間めがけ思い切り拳を叩き込んだ。すると男は呆気なくのびてしまった。
「大丈夫か?」
荒北は名前が心配だが、まず先に気絶した男をテーブルにあった結束バンドで拘束した。
荒北が名前の元に戻ると同じタイミングで警察が来た。
男はそのまま住居侵入、器物破損の疑いでそのまま連行されて行った。荒北と名前も話をする為に、別の車で警察署へと向かった。
聴取後の説明では、名前と同じ高校の男だった事が分かった。その男の話では、高3の時に名前と付き合いだしたが、大学は別なのでなかなか会えなかった。だが、半年程前にその男は通っていた大学を辞め、名前に会いに来た。すると名前は、他の男を家に上げており、寂しい思いをさせたと思い、会いに行くからという思いを込めてカレンダーに記したそうだ。勿論ではあるが、全てその男の妄想から起きた事だった。
名前も荒北も忘れていたが、アパートへ戻った日がその男が言うカレンダーに記された日だった。
名前の部屋には、荒北が拘束する際につかった結束バンドの他、ガムテープなど名前を拘束する為に必要そうな道具と新しい包丁2本があったそうだ。
その日、警察が荒北に電話をした理由は、名前の下の階に住む住人から騒音が酷すぎる為、何かあるのではないかと警察に電話があったので、名前に何度も連絡を入れたと言われた。
「疲れた…………怖かった…。」
「だな。」
荒北の部屋へと戻ってきた二人は、そのまま床に倒れるように横になった。
「さっきも言ってたけど、全然覚えてねェの?」
「うん、名前聞いても、まったくピンとこない。」
今はもう考えたくもなかった。包丁と聞いた時には、恐ろしさの余り体が硬直した。
「もうあそこには住みたくないから、部屋探さないと。」
「おー、とりあえず見つかるまでは、ここにいろヨ。」
「ごめんね、ありがとう。」
それから2週間、いつまでも荒北の部屋にいる訳にもいかないので、名前は雑誌でいくつか部屋を見ていた。
「今月中には部屋見つけるから。」
「おー、どっか良さそうなのあったァ?」
「んー、とりあえずここから近いとこが2ヶ所あったから、見てこようかと。」
「アァ?こっからァ?」
「うん、だって靖友と家が近い方がいいし。」
やはり先日起きた事に対する恐怖がある為、名前は出来るだけ荒北の部屋から近い場所を第一優先で探している。
「………ならさァ、一緒に引っ越すかァ。」
「え、靖友も引っ越すの?どこら辺とか考えてる?その近くでまた探し直さないと!」
「ちっげーーーーヨ!」
「急に怒鳴らないでよ。」
「気付けよ…。」
「なにが。」
もうこの男は言葉が足りないから分からないと名前は荒北を見ると、顔を背けた荒北が何やらもごもごと言っている。
「靖友、聞こえない。」
「チッ、ダーカラァ!オレも心配なのォ!」
「うん、だから靖友の家の近くで…。」
「オメーは、オレと住むの嫌なんカヨ。」
やっと荒北の言いたい事が分かり、名前はニヤけてしまう。
「靖友くんは、私が心配だから一緒に住もうって言ってくれてたんですねー。」
「ッゼ!!!」
「嬉しいな。私もやっぱ怖いし。ありがとう!」
荒北は照れ隠しに、頭をガシガシと掻きながら、雑誌に手を伸ばした。何冊か積まれている間から1冊取り出して、名前の方へと置くと
「いくつか良さそうなの印つけてあっからァ。」
「えっ、そうなの?だったら早く言ってよ!」
「あー、親に言っとけよ。」
名前は何度も首を縦に振りながら、印の付いた部屋を嬉しそうに見ていた。
「あっ、そういえば今回の事こないだ親に話したら、荷物送るって言われた。これで大丈夫だからって。」
「ふーん、防犯グッズかね。」
2日後、荒北の部屋に届いたのは木刀だった。
2019.12.17