大切なもの
「アーねみィー。」
ベッドから降り、窓から外を眺めても、誰もいない。
いつからこうなったんだっけと思い出そうとしたところで、いつも頭の中にモヤがかかる。
「まぁいっかァ。」
誰もいなければ、あの煩わしかった人間関係に悩まされる事もないし、誰かに縛られる生活もしなくて済む。
リビングへ入ると、誰が作ったのか、ほかほかの白米、味噌汁、唐揚げにサラダがテーブルに用意されてした。
「唐揚げラッキー。」
食事を済ませて、膨れたお腹をさすりながらソファーで横になる。
「アー少しだけェ…。」
そう言って、そのままソファーで1時間程寝てしまった。
「ヤッベ!練習しねェと!」
起き上がり、玄関まで向かい靴を履いたところで
「アァ?なんの練習だァ?…オレ、なんかやってたっけ?」
玄関に座り込み考えるが、また頭の中にモヤがかかる。
「まぁいっかァ。」
そのまま外へ出て、ただ歩いた。
「人がいなくなると、街も道路もヒデェもんだな。」
道路はひび割れ隙間からは雑草が生え、ぐるりと周りを見れば、ほとんどの家は半壊状態。
「どんだけ経てばこんな状態になんのかねェ。」
何年、いや何十年、もしかしたら何百年も経っているのかと思ったら、急に怖くなった。
自分の手をよく見ればシワだらけ、足は膝が曲がってような気がする。
「オレは、ずっとひとりだったの…か?」
そんなはずはない、そうだ思い出せ。頭の中のモヤなんて消せ。
「違う、アイツらがいたんだ。」
一匹狼なんて言われた時期もあったが、アイツらに会って、いつも無表情だけどグズってたオレを引っ張り上げてくれた鉄仮面、オレから言わせればお前のビテキカンカクの方が疑問に思うカチューシャ、いつもなんか食っててお前の腹はブラックホールかと言いたくなる鬼。コイツらのお陰で、仲間ってのも悪くねえなと思えるようになった。
「アレ?アイツらの名前なんだっけェ?」
思い出せない、ここまで思い出せているのに思い出せない。
「…オレ…は?オレは誰だ?」
足が急に重くなった。急いで来た道を戻る。家に入り、靴のまま洗面所に向かった。
「顔が…ねェ…。」
鏡の前で自分の顔を手で触った。
「ウワアアアアアアアアアアア!!!」
「どうした、荒北!」
「靖友、大丈夫か?」
「なんだ、怖い夢でも見たか?」
「オッ…オレの…顔は…。」
真っ青な自分の顔を手で触っている荒北を囲んで3人が上から覗いている。
「福チャン、新開、東堂…。」
荒北は確かめるように名前を呼んだ。起き上がると、そこは部室で、荒北の叫びにみんな驚いた顔をしている。ああ疲れたからって横になったんだったと思い出した。
「安心しろ荒北。安定のブス顔だぞ。」
「どんな夢見たんだ?」
新開に聞かれて、荒北は思い出そうとするがすっかり忘れてしまっていた。
「アー…覚えてねェ。ケドォ、すげーヤバかった。」
「尽八に言い返せない位ヤバイってのは分かるぜ。」
「っせ!」
夢は覚えてない、でもあんな思いをするのはもう二度とごめんだという気持ちだけ残っていた。
2019.12.20