メリクリ


「荒北さーん、幸せ逃げちゃいますよー?」

真波の間延びした声が聞こえる。

「ッセ!」
「どうしたんですかぁ?さっきからため息ばかりついてますね。」
「アァ?」
「靖友は、彼女とケンカ中なんだよな。」
「へぇー、そうなんですねー。早く謝った方がいいですよー。」

余計なお世話だと荒北は思うが、正直言い返すのも面倒くさい。確かに、荒北は彼女である名前とまさにケンカ中だ。きっかけすら覚えていない程の些細な事だが、売り言葉に買い言葉で、二人ともヒートアップしてしまった。

「ハァァァァ。」
「おい荒北。話してみろ。女性の気持ちならこの東…」
「ハァァァァ。ウゼェ。」
「ため息のあとに言うな!」
「靖友、今日なんの日か分かってるだろ?早く謝っちゃえよ。」

今日は終業式、そしてクリスマスイブだ。分かっている。本当なら、部活に少し顔出した後、名前と会う約束をしているが、このままでは危うい。まぁ、たぶんケンカのきっかけはオレからだろう。だから謝るならオレなんだろうとは分かっているが、どうしたものか。

「ハァァァァ。」
「荒北。」

日直だった福チャンが、すこし遅れて部室へと来た。

「福チャン、お疲れェ。」
「ああ。荒北、たぶんあれは荒北の彼女だったと思うのだが。」
「ン?」
「泣いているように見えた。」
「えっ。」

名前が?泣いている?アイツが???

「人違いじゃねーの?」
「だが、カバンに荒北と同じタイヤのキーホルダーつけていた。」

それは間違いなく名前だろう。なぜ泣いているのか、そんなのオレのせい、だろう。

「荒北さん、彼女さんとお揃いのキーホルダー付けてるなんて可愛いですねー。」
「ッセ!」
「荒北、行かなくていいのか?」
「どこいたァ?」
「ベプシがある自販機前だ。」
「ンー、あんがと。」

アイツらがいる前では強がって部室を出る足取りもゆっくりだが、部室のドアを閉めるのと同時に走り出した。

「わー、荒北さんはやーい。」
「素直じゃないからな、靖友は。」
「荒北もアホだな。窓から丸見えだというのに。」

福チャンの言われた場所には、まだ名前が立っていた。

「名前。」

後ろ姿しか見えないが、身体がピクッとした。
ゆっくりと名前に近付いた。

「名前、ワリィ。マジで。オレが悪かったよ。反省してる。だから…泣くなよ。」
「泣いてない!」

名前が勢いよく振り向いた。

「エッ!」
「泣くわけないでしょ。」
「アレェ?だって福チャンが。」
「目薬!目に何か入った気がしたから、目薬さしてたの!」
「マジ?」
「マジ。」
「ンダヨー!紛らわしィー!」
「そっちが勝手に勘違いしたんでしょ。」

よく考えてみれば、泣かすほどの暴言を吐いたつもりはない。どちらかと言えば、オレの方がメッタメタに言われてたような気もする。だが、きっかけはオレだ。

「アー、でも、アレだ。えっと…。」
「もういいよ。あの時はイラッとして忘れてたけど、今日イブだし。せっかくこの後デートだし。」
「ン。」
「私も言い過ぎた。ごめんね。」
「じゃー仲直りィ?」
「うん。」

ああ、良かった。せっかく二人きりだし、仲直りのチューしてぇなと思って、名前の顔に近付いた。

「おい、真波押すな!」
「えー俺も見たいですー。」
「やばっ、寿一!」
「ムッ。」

ドサーっという音と共に、目の前の裏庭の木の陰から四人が現れた。

「荒北さん、顔赤いですよー。あははー。」
「ヒュウ!靖友も仲直りのチューとかすんだな。」
「おっ、荒北。今にも俺たちを殺しそうな目をしてるな。」
「荒北。仲直りが出来て良かった。」
「…福チャン、あんがとネ…。」

名前を見れば、恥ずかしさの余り、両手で顔を隠して俯いている。

「福チャン以外、そこに並べー!どうなるか分かってんだろーナァ。」
「なんで寿一はいいんだ?」
「わー俺まだ生きてたいんで、山登ってきまーす。」
「真波!雪積もってるから今日は諦めろ!」
「オメーら全員逃げられっと思うなヨー!」

次々に逃げていく三人を追いかけようとした時、名前に腕を引っ張られオレの耳元に近付いた。

「靖友、さっきの続き忘れないでね。」
「おっ…おぉ。」
「じゃ、またあとでね!ほら追いかけないと!」

名前に言われ、慌てて追いかけた。

あれ、名前のあの調子なら、もしかして今日このまま泊まりもいけんじゃねェ?約束してねーけど、ヤベェ、泊まりいけんな、コレは。そう考えると、自然と顔がにやけてしまう。

「ツメテッ!」

横顔に雪がぶつかった。投げてきた方を見れば、新開が面白そうな顔でオレを見ている。

「靖友!今エロい事考えてるだろ!」

いつの間にか、隠れていたらしく、東堂と真波も雪を投げてくる。

「えー荒北さん、エロい事考えてたんですかー?」
「荒北のニヤケ面は、かなり気持ちが悪いな!」
「てめーら上等だ!ゴルァ!!」














メシも食った。プレゼントも渡したし貰った。あとは…。周りには人がいない事を確認した。

「名前。」

そう呼んで、キスをすると名前がにっこり笑った。

「ふふっ、なんか外だと思うと人がいなくても照れるね。」
「ハッ。」
「そろそろ、帰ろっか。」
「エッ!」
「えっ?」
「泊まんねぇーの?」
「泊まんないよ?」
「なんで?」
「約束してないじゃん。」
「いや、そーだけどォ…。」
「だいたい、イブの日に予約もなく泊まれる場所なんてないよ。」
「ラブホはァ?」
「あっという間に満室でしょ。」
「えーーーー!」
「ハイ、帰りまーす。」
「えーーーーー!」
「明日も会うからいいでしょ。」
「えーーーーーー!」
「チューしてあげるから。」
「えーー、アッ、ウン。」





2019.12.24




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