アイツの彼女
オレがはじめて好きになった女は、オレを救ってくれた男の彼女だった。だから、この気持ちは絶対に知られてはならないと思った。
「荒北くん、寿一見なかった?」
「ア?福チャンなら、さっき名前チャンのクラス向かったヨ。」
「あれ、行き違っちゃったか。ありがとね。」
「アー、名前チャン。」
「ん?なに?」
もう少しだけ話していたいなんて思っていたら、思わず呼び止めてしまった。
「どうしたの?」
「えーっとォ…忘れたァ。」
「あははっ、じゃぁね。」
2人分のお弁当を持った彼女は小走りで自分のクラスへ戻っていった。
「手作り…かァ。」
羨ましいと思いながら、購買へと向かうと、いつもより少し遅かったからか人が多くてなかなか買えない。時間がかかったが、なんとか人をかき分けいつものパンを買って体育館裏へと向かった。
「アレ?名前チャン?」
膝に顔を埋めて座る彼女を見つけた。
オレが呼ぶと、肩がピクッと動いたが、顔は埋めたままだった。
「どしたァ?体調わりぃの?」
彼女は小さく首を横に振った。
「福チャン、呼んでくるな。」
「いいの。」
「えっ?」
「呼ばなくて、いいの。」
その声は震えていた。
「なんか、あったァ?」
「……ふっ……フラれ、ちゃった。」
驚いた。
「そっ…か。」
「部活に…集中、したいんだって。」
ああ、クソ真面目で不器用な福チャンらしいと思ってしまう。でも、それとこれは違う気がすんだよなぁ、福チャン。
そうは思ってもオレが口出すことではない。
「荒北くん、ごめん。ひとりになりたい。」
「ン。」
教室に戻る最中、福チャンを見つけた。
「福チャン!」
「ああ、荒北。なんだ。」
「名前チャンと、別れたんだってな。」
一瞬だけ福チャンの表情が強張ったように思えた。
「聞いたのか?」
「さっき会った。」
「そうか。…大丈夫そうだった、か?」
「大丈夫なわけねェだろ。」
「そう…だな。どこにいるんだ?」
「それ聞いてどーすんの?名前チャンとこ行くの?行ってヨリ戻すのォ?」
福チャンは、何も言わずに目線だけ下ろした。
「アーゴメン。責めてるとかじゃねーよ。オレが口出す事じゃねーし。」
「ああ。」
「ただ、フったばっかの相手が泣いてるからって慰めに行くのは、さすがに無神経だなって思ってさァ。」
「ああ。」
「あっ、あと、オレ福チャンに言っとくけど。オレ名前チャンの事好きだからァ。」
福チャンの目が大きく開いた。
「ハッ!なに福チャン、驚いてんのォ?」
「そうなのか?」
「ウン。別れたんなら別にいいよナ?」
「…俺が何か言える立場ではない。」
「真面目チャンの答えだな。じゃーまた部活でェ。」
福チャンが彼女の事をまだ好きだってのは聞かなくても分かる。オレが彼女を好きだと言った時、福チャンの手が強く握られたのを見た。
でもな、福チャン、どんな理由があるにしろ、自分で手放したんだからな。
授業も終わり、部活へ向かう途中、彼女に呼び止められた。
目は、まだ薄っすらと赤みが残っている。
「さっきはごめんね。」
「アァ?なにかァ?」
「お見苦しいところをお見せしまして。」
「ハッ!」
「もう大丈夫なんで。」
「まぁ、無理すんなヨー。」
「ははっ、ありがと。じゃぁね。」
無理矢理作られた笑顔にオレまで苦しくなる。
「名前チャン!」
振り向いた彼女に、いま言うつもりのなかった言葉を出してしまった。
「オレ、名前チャン好きだよ。」
彼女は驚いた顔をした。そして、笑った。
「ありがとう。私も荒北くん好きだよー。」
ああ、伝わってないなと思い、彼女の側まで行き
「アー、チゲェんだよな。オレ、本当に名前チャンが好きなんだヨ。ずっと好きだったんだよ。」
「………荒北くん、寿一の事好きでしょ。」
「…ハァァァ?」
「あっ、そーゆー意味の好きじゃなくて、人としてっていうか。」
「あぁ、そっちネ。」
「うん。そっち。」
彼女は笑ってごめんねと言った。
「たぶんね、荒北くん勘違いしてると思うんだ。」
「なにを?」
「寿一の彼女だから、私の事も好きだと勘違いしてるんだと思う。」
「…オレ、さすがにそこまでバカじゃねェけど。」
「うーん。」
「っつーか、勘違いとか勝手に決めんなヨ。」
勘違いなんかで長い間片思いなんかしない。それなりに嫉妬だってしてきてた。もちろん絶対にバレないようにした。
「まーいーよ。別に今すぐ付き合ってもらえるとは思ってねェし。」
「えっと…。」
「勘違いじゃねェって事、分からせてやっからァ。覚悟しとけヨ。」
ポカンとしている彼女の頭を軽く撫で、オレは部室へと向かった。
もう遠慮なんてしねぇからな。
2019.12.30