ジュース
授業終わりのチャイムが鳴る。
「今日やったやつ、次の授業でテストやるからなー。」
危なく寝そうになっていたが、起きてて良かったと名前はホッとした。
教科書とノートをまとめていると、椅子の裏をカツンと蹴られる。
「苗字、ノートォ。」
後ろの席の荒北だ。名前もいつもの事なのでいちいち後ろを振り向かない。
「ノートが何。」
「貸してェ。」
「また?新開にでも頼めば。」
「アァ?新開見てみろ。」
荒北に言われ新開を見るば、まだぐっすり夢の中のようだ。
「あー。お昼のジュースで手を打つ。」
そう言って荒北へノートを渡す。
「ヘイヘイ、あんがとネ。」
荒北はノートを受け取ると、真面目にノートを写し始めた。
「苗字、ジュース買いに行くぞ。」
お昼休みに入るとすぐに荒北に呼ばれた。
「なんだ、靖友。たかられてんのか?」
荒北の後ろにいる新開は、これからお昼ご飯だと言うのに、いつものパワーバーを口に加えている。
「ノートのお礼ィ。」
「ふーん、ノートってなんだ?」
説明すれば、新開は今知ったという顔をし、
「苗字、俺にも貸してくれ!」
「いいよ、さぁ新開!購買へ行ってプリンを買ってきなさい!」
「まかせろ!」
そう言うと、新開は購買へと走っていった。
「勢いで言ったんだけど…新開っていい子だね。」
「オメェ…ひでェな。」
荒北とは3年で初めて同じクラスになり、前期は席も遠く話す機会もほぼ無かったが、後期の席替えで前後になり割と話すようにはなった。
「新開ってモテるんでしょ?」
「あー、そうネ。」
「荒北はモテないでしょ。」
「失礼じゃナァイ?」
「モテんの?」
「うっせ。」
俺に近寄るな的な男かと思っていたが、話してみればよく喋るし、冗談も言うし、よく笑う。
最近荒北がモテているのも知っている。それを聞いて密かに名前は焦っていた。
3年になってすぐの頃、日直だった名前はクラス全員分のプリントを持って職員室に向かっていたところ、荒北に声をかけられた。
「職員室ゥ?」
「うん。」
そう言うと、荒北はすっと名前が持っていたプリントを全部持って歩き出してしまった。持てない重さでもないので、自分で持てると言っても
「オレも用事あっからァ。」
と言ってそのまま行ってしまうので、名前はただ後ろに付いて職員室へと向かった。職員室に着くと、荒北は担任の机にプリントを置いてそのまま職員室を出て行ってしまった。
「荒北!用事があったんじゃないの?」
追いかけて荒北に声をかけると
「アーなんだったか忘れたァ。」
「ありがとう。」
そんな優しさは初めてだった名前は、あっさり恋に落ちてしまった。なかなか話す機会もなく、ただ見てるだけの日々だったが、席替えのお陰で関わりを持てるようになり、名前は毎日が楽しかった。
「新開おせーな。」
「購買って戦場だよね。」
荒北と自販機前までくると、一人の可愛らしい女子が近づいてきた。
「荒北先輩、あのちょっといいですか?」
「えっ。」
荒北よりも先に名前が反応してしまった。何も言わずにいる荒北に後輩女子がまた声をかけた。
「あの…荒北先輩?」
「なにィ?」
「場所変えても…いいですか?」
荒北は、名前を見て笑った。
「ハッ!なんつー顔。」
どんな顔かは分からないが、きっと酷い顔をしているのだろうと名前は俯いた。
「アー、悪ィんだけど話ならここで聞くワ。」
「えっと…ここじゃ…。あの、少しでいいんで。」
「ンー、ごめんネ。コイツ残して行けねェんだァ。」
そう言うと荒北は名前の頭に手を置いた。
「えっ、あ、ジュースなら後でもいいよ。」
「いや、そーゆー意味じゃねェし!」
「はっ?」
「アァ?」
「あの!そちらは、荒北先輩の彼女さん…なんですか?」
とんでもない、私もあなたと同じで片想いですという驚きの顔で名前は後輩を見た。荒北も面倒だからって私をダシに使わないで欲しいと名前はムッとした顔をしてしまった。
「彼女じゃねーけど、彼女にしたい子ォ。」
「わ…かりました。」
そう言うと後輩は走って行ってしまった。名前はどう言う事だと、そこまで嘘を言わなくてもと思ってしまう。
「ナァ、そーゆー事だからァ。」
「えっと、それはマジなやつ?」
「おー、マジだヨ。」
名前も震える指で荒北を指す。
「私もこの人の事、彼氏にしたい。」
「……マジ?」
「うん。」
恥ずかしさのあまり、名前は荒北の顔を見れず、荒北がいまどんな顔をしているのかは分からない。
「苗字、お待たせ!」
そこにプリンを持った新開が戻ってきた。
「ん?どうしたんだ?おめさん達。」
「んでもねェよ。メシ、行くぞ。」
「あっ、待てよ靖友!苗字、あとでノート借りるな。」
荒北と新開は学食の方へと行ってしまった。
「…ジュース買ってもらってないんだけど…。ってか、なんだったんだろう。」
残された名前は、自分でジュースを買い教室へと戻った。
「靖友、風邪か?顔真っ赤だぞ?」
2020.01.24