Happy Birthday '20


会う時間が多いから幸せだとは限らない。
会えない時間が愛を育てる、そんな言葉があるのも知っている。
遠距離恋愛だと言えば、周りから不安や心配でしょうと言われるが、名前には特に不安も心配もない。怪我なくちゃんと生きているかという心配はもちろんある。そう言うと、遠恋に向いているのかもと言われる。

「向いてるかっつーの!好きで遠恋してる訳じゃない!会いたいもんは会いたい!」
「大声を出すな、名前。」
「ははっ、ここ学食だって事忘れてんな。」

はっとして向かいの福富を見ると、なんとも言えない表情で名前を見ている。

「ごめん、福ちゃん。」
「春休み会わなかったのか?」

隣に座る新開は、そう言いながら名前が食べている定食の唐揚げに手を伸ばしている。

「おい。」
「いたっ。」

名前は、新開の手を叩いた。

「で?春休み前は、靖友とラブラブしてくるぅーって言ってたよな。」
「この顔見れば分かるでしょ。」

春休みは荒北の部活とお互いのバイトをうまく調整し、3〜4日ゆっくり会える日を作る予定だった。先にシフトが決まる名前に合わせて荒北が申請したのだが、見事に間違えたのだ。名前のバイト先は、出勤日がマル、休みは空欄で記されているが、荒北のバイト先は出勤日が空欄で休みがマルな為、名前から写メで送られてきたシフト表を見て名前が休みの日にバイトを入れてしまったという初歩的なミスがあった。

「2人ともアホだな。」
「明日はどうするんだ?」

福富に聞かれ、新開を睨みつけていた名前の目尻が、みるみると垂れ下がっていく。

「明日行くよー!静岡行きますよー!やっと会える。」
「明日金曜でよかったな。授業終わってから行くのか?」
「本当は授業後だと遅くなって危ないから土曜でいいって言われてるんだけど。でも誕生日だし当日にお祝いしたいから行きます。私の事を心配してくれる優しーい靖友に会いに行きます。」













「え、なんでいるの。」

金曜、22時半を過ぎた荒北の住むアパートの最寄駅。改札前には、腕を組んで少し足を広げて、そう仁王立ちをしている荒北がいる。荒北は名前に気がつくと、早く来いと口パクをした。せっかくサプライズと思っていたのに残念と思いながら改札を出た。

「靖と…。」
「明日来いっつったろーがァ!」

まさか怒られるとは思っていなかった名前は一瞬驚いた。

「えっと…でも誕生日だし…。」
「こんな時間にひとりで危ねーつぅの!金曜のこの時間、電車なんて酔っ払いが多いし、駅からオレん家までだって暗れェ道だってあるんだかんな!このバァカチャンがァ!」

そう言って荒北は、しゅんとして俯く名前の荷物を持ち、空いた片手は名前の手を掴んだ。

「オラ、行くぞ。」
「うん。」

せっかくの誕生日だというのに、荒北を怒らせてしまった事に悲しく思っていた名前だが、それだけ自分の事を心配してくれているのかと気付くと、自然と顔がにやけてしまう。

「オイ、なにニヤニヤしてんだよ。」
「いやぁ、愛されてんだなぁと実感して。」
「チッ!」
「誰に聞いたの?新開?」
「福チャンだよ。夜で危ねェから迎えに行ってやれってよ。」
「そうなんだ、でも先に知ってたんなら来るなって言えたじゃん。」

少しの間があり、荒北の小さ過ぎる声が微かに耳に入った。

「えっ?なに?声ちっさ。」
「チッ!……オレだってオメェと同じなんだよ。」
「なにが?」
「だーからァ、オレも早く名前に会いてェって思っちまったんだよ!」

名前は、きっと真っ赤な顔をしているだろう荒北を見るが、さすがにこの暗さでは見えず残念に思いながら笑った。

「ナァニ笑ってんだよ。」
「いや、久々にデレたなと思って。」
「ッゼー!」











玄関を開けると、一気に荒北の匂いに包まれる。

「お邪魔します。あー、靖友の匂いが。幸せー。」
「変態っぽいな。オメェ、メシは?」
「新幹線でおにぎり食べた。靖友は?」
「ラーメン食った。」
「それなら、まだ入るよね?」

名前は荷物を開け、中から小さめのケーキとサラダと唐揚げを出した。

「駅で買ったんだ。少ないけど。お祝いしよ。」
「ン。」

ローテーブルに並べて飲み物を出した。

「お酒飲む?」
「イヤ、いい。」
「もう飲んだ?」
「飲んでねェよ。」
「飲んでいいよ?」
「今日はいい。」
「せっかく20歳になったのに?」
「……せっかく来たっつーのに、飲んで寝落ちしたくねェし…って顔!」

またまたニヤニヤとする名前を見て、大きな舌打をした。

「あっ、靖友くんや。忘れてるよ。」
「アァ?なにがァ?」
「再会のハグとキス。」

そう言って、名前は荒北の方へと体を向けると手を広げ、悪戯っぽい笑顔を見せた。そんな名前の姿に、大きなため息をつき、しょうがないからしてやる感をたっぷりと出しながら名前を抱きしめた。そして体を少し離し、名前の顔を見れば悪戯っぽい笑顔がほんのりと赤く染まっている。そんな名前を荒北は可愛いなと言葉には絶対にしないが、心の中で思いながら短いキスを3回し抱きしめた。

「ふふっ。」
「ンダヨ。」
「やっと会えた。」
「ンー。」
「靖友、お誕生日おめでとう。」
「ンー………あんがとネェ。」




2020.04.02




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