怪我の功名
膝が痛い。細かく言うと、膝の横あたりの筋が痛い。
どんな寝方をしたら、こんなとこ痛くするのだろう。
朝寝返りをうつ時に、あまりの痛さに目が覚めた。
「やっぱり痛い。」
筋を伸ばしてみたり、マッサージをしても何も変わらないので諦めた。この痛みじゃ、大学までの道のりも遠いなと思い、いつもより15分早く家を出た。
「やばっ、ギリギリかも。」
ここまで頑張ってきたんだから、遅刻はしたくはないが、間に合うか自信もない。そんな時に友人が声をかけてきた。
「大丈夫?」
「うーん、講義間に合わないかも。」
「肩貸すよ?」
「でも遅刻しちゃうから…。」
「じゃぁ、ゆっくりおいで。代返しとくよ。」
「ありがとう!女神様!ありがとう!」
友人の言葉に甘えた、名前はゆっくりと歩き出した。
「やっと門が見えた…。」
気を抜いた瞬間に、痛めた足の力が抜けふらついた。
「…ぶねーぞ!」
その声に驚き、名前はそのまま地面に転んでしまった。その時、痛めていた膝を強く打ち付けてしまいあまりの痛さに蹲った。
「…チッ。」
その舌打ちで顔を上げると、細い自転車に乗った男の子3人が名前を囲んで立っている。
「ワレ、舌打ちしなさんな。」
「コイツがあぶねーからダロ。」
「大丈夫ですか?」
イケメン坊主が手を差し伸べてくれるが、膝の痛みに立ち上がれそうにもないので
「ありがとうございます。大丈夫ですので。邪魔しちゃってすみませんでした。」
と言い、行ってもらおうとしたが
「どこか痛めましたか?」
「いえ、本当に大丈夫です。」
「…イテェんだろ。」
そう言うと、舌打ち男がイケメン坊主に何か言って、自転車を渡した。
「荒北が肩を貸しますので。」
「ええ!いいです!大丈夫です!」
「ええんやって。コイツが驚かせて転ばせたようなもんじゃけぇ。」
「っせ!」
そう言うと、イケメン坊主とちょいチャラ男は行ってしまった。名前は、舌打ち男怖い、イケメン坊主にお願いしたいと心の中で思った。
「オラ、オレの肩に腕回せ。」
「いや、無理です。」
「チッ、めんどくせーなァ。」
ほらまた舌打ち、しかも面倒くさいとまで言ったと、名前は悲しくなった。
「嫌かもしんねェけどォ。」
「嫌とかじゃなくて…背が高過ぎて腕回せません。」
「アァ……どうすっかナァ…。」
頭をガシガシと掻きながら考える荒北を見て、名前はあれっと思った。
「アー、じゃぁ、オレの左肩に捕まってェ。」
そう言われ、右手で荒北の左肩に手を置いた。すると荒北の左手が名前の腰を抱き、グッと引き上げ立たせた。
「わわっ。」
「歩けそォ?」
「なんとか。」
「ゆっくりでいいからァ。」
足は痛いが、それに加えて心臓が物凄くはやい。男の人とこんなに密着した事もなければ、支えてくれてるとは言え、腰に手まで回っているこの状況に恥ずかしさでいっぱいだった。
「痛くねェ?」
「大丈夫、です。」
口も悪いし目付きも悪いけど、あれっ、この人優しいじゃないかと、思わぬギャップにドキッとしてしまう。
「部室にマネージャーいると思うから、見てもらえ。」
「いや、本当そんな…。」
「そんな足でどーすんだよ。」
「はい…。」
荒北は、いまのこの状況をなんとも思わないなんて、女慣れしてるのかなと考えてしまう。
「なんでそんな事考えてんだ!」
「アァ?どーしたァ?」
「はっ!違います、間違えました。」
「ハッ!どんな間違えだヨ。」
結局、部室に着くまで一度も荒北の顔を見る事は出来なかった。部室に着くと、荒北が言っていたマネージャーが部室にいた。
「すんませんが、コイツの足見てやってもらっていいっすか?」
「いいよー。さっき金城に聞いたから、用意してある。」
マネージャーが、こっちにおいでと椅子に座った。痛い場所を言うと、テキパキと湿布とサポーターを巻いていく。
「これでどうかな?立てる?」
立ち上がると、打身は多少痛むが筋の痛みがかなり軽減されていた。
「大丈夫です!凄いです!ありがとうございます!」
「良かった。ところで、あなたは荒北の彼女?」
「ブッッ!!!」
着替え終わって出てきた荒北が吹き出した。
「違います!初めましての方です!」
「なーんてね、荒北ったら顔を真っ赤にしてたからさぁー。」
「してねェーーーヨ!!」
「あーもう煩い。さてと、足も大丈夫そうだから、私は行くね。じゃー荒北、私はイケメン彼氏を待たせているので、あとは頼んだ。」
「ありがとうございました。」
マネージャーが部室を出て、荒北と二人だけになってしまった。
「荒北さん、ありがとうございました。」
「へいへい、オメー…。」
「2年の苗字です。苗字名前です。」
「なんだ、同じかよ。」
「えっ!荒北さんも2年?」
「……オレは金城みたく老けてねェ。」
「ごごごごめんなさい!」
「別にいーけどォ。」
拗ねた感じの荒北に思わず笑ってしまう。
「んで、名前チャンは、講義いいのォ?」
「…はっ!忘れてた!行きます!」
名前はすっかり忘れていた講義に向かう為、慌てて鞄を持つ。
「荒北さん、あっ荒北くん、部活の邪魔しちゃってごめんね。今日のお礼に学食で奢るよ。」
「別にいーって。」
「いいから!連絡先教えて!」
「おお。」
荒北から連絡先を教えてもらい、名前はドアまで行くと振り返った。
「荒北くんって、ギャップ萌えするタイプだね。」
「ハアァァァ?」
「じゃね!」
笑いながら名前は部室を出た。
「ギャップ萌えなんて古かったかな…。」
膝は痛いが、いい事があったなと名前はこれからが楽しみだった。
「よぉ、荒北。なんじゃぁその間抜け面はぁ。」
「さっきの女性は大丈夫そうだったか?」
「ギャップ萌え…。」
「はあ?なぁに顔を赤うしとるんじゃ。はっ!まさかワレ、エロいことを…なんてなぁー、エッエッエッ。」
「そうか、荒北。エロい事があったのか。」
「マーチーミーヤァァァ!」
2020.12.11