04:回転する愛の言葉



「名前、明日客が来る」

「お客様、ですか」

いつもの様に帰りに出迎えれば、急にその様な話をされた。
茶菓子が屋敷にあっただろうか、茶っ葉は十分にあっただろうか。名前は記憶を確認する。
この屋敷にきて初めてお客様を出迎える。風柱様の家の女中としてしっかりとお出迎えせねば。
意気揚々としている名前を眺めながら、実弥は今日の出来事を回想していた。

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「女中を取ったらしいじゃねぇか」

嬉々とした宇髄に声をかけられ、実弥は反対にうんざりとした表情をむけた。
どこからその事を知ったのだろうか。
名前が屋敷に来た事を知っているのは隠ぐらいなので、そこから知ったのかもしれない。

「関係ないだろォ」

「連れないなぁ。お前が女中置くなんて派手に気になるじゃねぇかぁ」

馴れ馴れしく肩に手を置く宇髄を払い除けようと顔を一瞥して、ふと、彼の額の飾りが気になった。
そういえば名前は顔に眼帯などをしていないが、眼帯をつければ少しは外に出やすくなるのではないか。
買い物などで町に行く事もあるようだが、名前は極力外には出ないようにしていると言っていた。
以前、その事を聞くと、なるべく顔を見せない様にと思って、と返ってきた。
それに先日の投石のこともあって益々名前は屋敷からでなくなったようだった。

実弥としては外出しないことは名前が自分の為だけにいてくれる様で嬉しいのだが、顔の傷を気にしている様子は傷の経緯もあって気になっていた。むしろその傷、失明した目さえ他の奴には見せたくない。
少し歪んだ愛情だが実弥は自身の感情を、そうは思っていなかった。

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「宇髄、その額のやつ手作りなのかァ」

「お前も遂にこの良さがわかる時が来たか!これは嫁の手作りだ」

派手にいいだろうという宇髄をよそに、実弥は名前にも合うだろうかと思案していた。

「今度うちにきて、うちの女中に眼帯を作ってやってくれ」

「は!?お前が頼み事なんて珍しいな。いいぜ、嫁を連れて行ってやる」


そんなやりとりの後、屋敷に招く約束をしたのだが。
食事を取りつつ名前の顔を見つめる。
怪我をした当初、顔なんてじっくり見てなかったがよく見れば整っている顔をしている。
顔の傷がなければ美人の部類だろう。
女中としての凛とした姿がより一層その雰囲気を醸し出している。
実際、それを妄想して自身を慰めたわけだが、あの夜から特に2人の間には変化はないままだった。

「実弥様、如何なさいました?」

じっと顔を見つめていたのだろう。不思議そうな名前が首を傾げた。

「いや、何もねェ」

「かしこまりました」

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次の日、名前は朝からそわそわと落ち着きがなかった。
客人用の茶飲みや皿を用意したりと何度も確認に余念が無い。

「気にする程の奴じゃねェぞ」

そう実弥が告げるものの。

「いいえ。実弥様の女中として丁寧なお迎えを心がけねば!」

などと張り切って言われ、実弥は黙り込んだ。
まぁ、いつもより嬉しそうな表情をしているのは悪くない。そう思っていると玄関で邪魔するぞーとの声が聞こえた。



「宇髄様、奥方様方、ようこそいらっしゃいました」

いつものようにうやうやしく手をつき頭を下げる名前と、その横に立ち、おー来たなァという実弥。
2人の出迎えに温度差がありすぎて出迎えられた4人は笑ってしまった。
名前が顔を上げると顔の右半分に入った傷に思わず目がいく。
ああ、不死川はこの傷に合う眼帯が欲しいといっていたのか。
宇髄は目を細めながら、胡蝶が言っていた『不死川さんが気にするあの子』が名前のことだと分かった。

『にしても女中にするなんて、なかなか衝動的だったな』

自分の周りに人を置くのを極力嫌う不死川のことを思い、宇髄は苦笑した。




「天元さま!私たち向こうで名前ちゃんに眼帯作ってきますね!」

お茶とお茶菓子を差し出した名前の腕を掴み、3人の嫁は楽しそうに隣の部屋に連れて行く。

「あ、えっと」

状況を飲み込めない名前は引きずられるまま3人に続いた。

「別にこの部屋で作ってもいいんじゃねェのかァ?」

「出来上がってのお楽しみなんだとさ」



「名前ちゃん何色がいい〜?」

「やっぱり目立たないように黒とか茶色とかかしら」

「いっそのこと女の子らしく桃色とかいいんじゃない!」

楽しそうに持ってきた布を手に取る3人に名前は圧倒されていた。
4人の客人が訪れた目的が自身の眼帯作りと聞いて、名前は恐縮しっぱなしだった。
実弥はそんなこと一言も言わなかった。
言われたら、きっと断っていただろうからあえて告げなかったのかもしれない。
次々に顔に布を当てられ、そのたびにああ、とか、はいとか当たり障りのない返答を繰り返す。
決めきれない名前の代わりに3人の中で色は黒で落ち着いたらしい。


「ところでっ!!」

須磨が名前の顔の擦れ擦れまで顔を近づけてくるので、名前は思わずのけぞった。

「不死川様とはどういう関係なの〜?」

「どういったとは・・・」

「ほら!恋人なのか、とかそういう話よ!」

「違いますけど・・・」

3人の顔は一気に残念そうになった。なんだか期待にそえなかったようで申し訳なくなる。

「でも、ほら。一人で屋敷を切り盛りしているくらいだから。何かしら不死川様への想いはあるでしょう?」

雛鶴が名前の顔に合わせた眼帯を縫う手を止めずに、問いかける。

「想い・・・。想いですか」

ううん、と名前は首をひねる。少し間をおいて名前は返事をした。

「・・・そうですね。実弥様がいない世界は想像できないくらいには想っております」




キャーという叫び声を聞きながら、実弥は名前の返答を聞きつつ静かにお茶を飲んでいた。
隣の部屋で作業している4人の声はすべて実弥と宇髄には筒抜けだった。

「愛されてんのなぁ、お前」

ニヤニヤと意地の悪い笑顔の宇髄に、実弥は静かに答える。

「女中なら普通の感覚だろォが」

「え?お前本気で言ってんの?」


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