暁紅の朝は二度おとずれる 01



※柱になりたての実弥さんの話※
※宇髄さんとカナエさんが出しゃばるよ※
※小説の話がちょいとでてくる※
本当に注意書きし出したらキリない感じの夢なので本当に、なんでもどんとこいな方のみ読んでください!


悪鬼滅殺



その言葉が彫られた刀身を自身の目の高さまで持ち上げる。
いつも鬼を切り刻むために振るその刀は、戦いが終わった後の手には沈み込むように重い。
刀のその向こう側に広がる空は真っ暗だった。

辺り一面に散らばっている切り刻んだ鬼の残骸は、塵と化して少しずつ壊れていく。
風が自身の髪を揺らすたび、同じように空に舞い上がる塵を見上げた。
程よい岩に腰掛けたまま、実弥は再度、刀に彫られた文字に焦点を合わせた。
今日は2体の鬼を始末した。
連携技を使う面倒な鬼だったが、難なく力技で押し込めた。

ーいつまで倒せば鬼はいなくなる。

やはり大元を潰さないと駄目か。
口に広がる苦い鉄の味に唾を吐き出した。
同時に刀の向こうの空が明るみを帯びてくる。
夜明けだ。
同時に隠が到着したのか賑やかな声が響いてきて、実弥は刀を鞘に納め立ち上がった。

少し離れたところで、一緒の任務に来ていた隊士が呟いているのが聞こえた。

「くそっ!なんだよ、アイツ。強いのは認めるけど、もっとこちらとも息を合わせろよ。手柄持っていきたいのはわかるけど、独りよがりなんだよっ」

「シッ、聞こえるぞ」

此方に向けて、分かりやすくこそこそとつぶやいている様はまさに負け犬の遠吠えで、実弥は鼻で笑った。
あえて他の隊士と合わさず、1人力技でねじ込んでやった気があるからだ。
無視して歩き去ろうとすれば、到着した隠の一人と目が合った。
彼方此方に血のついた羽織りをみたせいか、隠が心配そうに近寄ってきた。

「あの、お怪我は?」

「してねェ、俺の事は気にすんな」

吐き捨てるように言い瞳だけの隠に睨みを効かせれば、隠は怯んだように一歩下がった。
場を離れるように歩き出す。
誰も、一緒に戦っていた隊士さえ、実弥の傍には近寄らない。
それでいい。馴れ合いは嫌いだ。

上空を旋回していた鴉が肩に降りてきた。

「サネミ、オ館様ガオ呼ビダ!」

「・・・わかったァ」

けたたましい声に眉を寄せ、実弥は行く道の方向を変え屋敷に向けて走り出した。

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お館様の屋敷に到着すると、すぐに中に入るように呼ばれた。
柱に任命されるとの話で、2つ返事で受け入れる。

「柱になったからには、実弥はもう少しほかの隊士と仲良くしてくれると嬉しいよ」

「・・・御意」

膝をついたまま、小さく返事をした。

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夜、実弥が柱になった就任祝いという事で、宴会が開かれることになった。
自分には必要ない、と頑なに拒否をしたのに団結力をつけるのも柱の仕事のうち、今後自分だけのことじゃなくなるからなと、よくわからない理由で連行された。
場に行き、襖を開ければ先程柱合会議で見た顔が一斉にこちらを見つめ、その顔は柔らかく緩んだ。
何故か一瞬、昔、家族と一緒に食事を囲っている日を思い出した。
こんな風に人と食事を囲うことをするなんてもう、いつぶりだろう。
一生ありはしないかもしれないと思っていた。
素直に口に出すことはないが、内心はどこか懐かしくなる。


部屋の真ん中には机の上に並んだ豪勢な食事とお酒の徳利。
無意識に顔を顰める。
酒を飲んだことはほぼない。
昔から酒に絡んだ良い記憶がないからだ。
とりあえず来たものは仕方ないと、端に座れば逃さないとばかりにデカい奴と綺麗な女性が傍にやってくる。
確か音柱と花柱と言っていたような気がする。

「おうおう、今日の主役がこんな端にいちゃ全然目立たねぇなぁ!?音柱の宇髄天元だ!よろしくなぁ」

「・・ほっとけェ」

「無理強いはよくないわ。私は花柱の胡蝶カナエよ。不死川くん、これから仲良くしてね」

ふふふ、と微笑む綺麗な女性に実弥は視線を逸らした。
女性と絡む事は苦手だ。どうしていいか分からず戸惑う。
その様子を見てか、宇髄が近くに寄ってきた。
ぎろりと睨むが相手は全く意に返さないように隣に腰掛けてくる。
正直すぐにでも抜け出したいところだが、それを許さないように宇髄が酒の入ったお猪口をさしだして来た。

「ほら。新しい風柱サマはイケる口か?」

目の前の酒の香りに思わず眉を顰めた。
差し出された手を振り払うと、お猪口が宙を舞い、そのまま畳に落ちた。
さすがにやりすぎたかと宇髄の顔をみれば、にっこりとした笑顔にうっすら血管が浮いていた。

「へぇ、上等だぁ!嫌でも呑ませてやるからなぁ!!」

「ちょっと!もめごとはよくないわ!!」

カナエが止める声も届かず、宇髄の低く、くぐもった声。
まずいと脳が警告音を聞くより先に青筋を立てた宇髄は逃がさないとばかりに実弥の首にがしりと腕を回した。



その後は力づくで酒を飲まされた。
ほぼ初めて飲んだ酒に実弥はすぐに顔が赤くなり、世界が回りだす。
普通通り座っているのもままならず、後ろの壁にもたれかかりだらしなく手足を投げ出し座る。
横に座る宇髄はあれだけ飲んでいて、余裕の表情で満足そうに笑っていた。
気づけばカナエは遠くの席におり、宇髄と2人で飲んでいる状況だった。
内心でクソがァと呟くが、思うように体も思考も動かない。

「で、サネミちゃんは恋人の1人や2人はいんのかなぁ?」

少しニヤついた声に普段ならぶん殴ってやりたいところだが、思考がうまく回らない。

「・・・・そんなもん、いねェ。今までも、これからも、だァ」

普段なら初対面で絶対に交わさないであろう会話を実弥は宇髄と酒の力によってするすると引きずり出されていた。

「あぁー、そうかそうかぁ」

またがっしりと実弥の肩に巻きついてきた腕。
そのまま引き寄せられ、宇髄に耳元で囁かれる。

「サネミちゃんは童貞なのかぁ」

途端に顔がかっと熱くなった。
酒のせいだけではない。
的確に宇髄が言葉で急所を突いてきたからだ。

「・・・だったら悪ィかよォ」

主導権を握られたようで納得がいかないが、否定も肯定も違うような気がしてあやふやな回答をする。

「素材は悪くねぇのに勿体ねぇなぁ。早くヤって卒業しとけって。女なんて、口吸って乳揉んでおけば、あとは濡れてきたら突っ込むだけなんだからさぁ」

それだけで、天国よ、と指で卑猥な印を使う宇髄を横目にまた目の前のお猪口に視線を落とした。
小さな酒の中で揺れる自分は何故か頼りなく見える。
よければ今度遊郭にでもつれてってやろーか?と本気で言っているのか計りかねる宇髄を見ながら興味ねぇと返した。

興味ない、というのは本音だった。
今までにそういうことに誘われなかったわけではない。
が、その度に断ってきた。
女に興味が全くなかったわけではないが、自分が何故鬼殺隊に身を置いて鬼を切っているのか、そのことだけに集中しておきたかった。
小さな弟の笑顔が鮮やかに脳裏に浮かぶ。

「にいちゃん!」

明るく呼ぶその声はまるで昨日のことのようだ。
余計な雑念は、身を滅ぼす。
一度行為をしてしまえば自分が今までのように鬼狩りに没頭できなくなるのではないかとどこか恐れていた。

「俺なんか嫁が3人いるからさ!」

横で宇髄がまだ何か言っている。
そこまでで、意識が途切れた。

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「風柱!初任務ダー!!東ノ村デ鬼ガ住ミ着イテルトノ報告アリ!」

数日後、与えられた屋敷で1人稽古をしていれば鴉が飛んで来た。


先日の宴の後は気づいた時には新しい屋敷にいた。
どうやって帰ってきたのか覚えていない。二日酔いだろう、頭痛がひどく、記憶も曖昧だった。
とりあえず、あの宇髄って奴は今度会ったらしめてやると思いつつ、その日はまた布団に潜った。


「わかったァ。すぐ行く」

羽織に袖を通し、日輪刀を持って走り出した。

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任務の場所に到着すれば、他に数人の隊士の姿が見えた。

「風柱様!」

実弥の姿を見て、皆一斉にこちらに集まってきたので、実弥は面食らった。
先日の任務の際もそうだが、自身に寄りついてくるような隊士は稀だ。
大体が今までの任務での態度から毛嫌いされていることは自身も感じている。

「就任、おめでとうございます!」

「初任務ご一緒できて嬉しいです!」

皆口々にそんな事をいうものだから、実弥はむず痒く途端にその場に居づらくなる。
柱になった途端、掌を返したような周りの反応に戸惑う。

『柱になるってのは自分だけのことじゃなくなるからな』

宴会の時の宇髄の言葉が思い出される。
先日の軽蔑する様な隊士の顔と、憧れに目を輝かせる目の前の隊士の顔。
自身は何も変わっていないのに、「柱」という肩書きがついただけでこうも違うものなのか。

『気色悪りィ』

人知れず嫌悪感を抱きながら、人をかき分け歩き出した。




今日の夜討伐予定の鬼について隊士から話を聞く。
正直、情報だけあれば一人でさっさと討伐に行くところだが、他の隊士が柱、柱と着いてくるものだからそうもいかない。
柱として皆の目指すべき姿をみせてやってね、というお館様の声がこだまする。
今回の任務先は元々いた人間なのか、住人が亡くなって住み着いたのか、大きな屋敷に籠った鬼が何人も人を喰っているとの話だった。
昼、屋敷はもぬけの殻だったと報告が上がっている。
となれば、踏み込むのは夜だ。
夜、その屋敷に入り込み、鬼を打つ。
どんな能力かはまだ分からないため、慎重に。
話が終わると夜までの少しの間、束の間の休息となる。
人に囲まれ、慣れない事をしたと実弥は少し離れた場所に腰を下ろすとため息をついた。



「風柱様、食べますか?」

声をかけられ、顔を上げれば目の前に差し出されたのは小さい包み紙。

「きゃらめる、ですよ!疲れには糖分取ると良いですよ」

「・・・・・いらねェ」

人から施される事には慣れていない。
そっと断ると、顔を上げた。
差し出した手の主の視線が合うと、女性隊士は微笑んだ。

「・・・・お前」

その顔に見覚えがあった。
昔、選別の時の涙でぐしゃぐしゃになった顔が不意に思い出された。
そう、いつかの任務でも泣いていたような気がする。
思い当たった様な顔を見て、彼女は明るく笑った。 

「風柱様、覚えててくださったんですか!?光栄です!選別の時に一緒だった同期の苗字 名前です」

屈託のない笑顔を向けられ目のやり場に困る。
そうだ、自身の最終選別で一緒だった女だ。
たまたま鬼を倒したら、その鬼にやられそうになっていたのが彼女だった。
他の任務でも一緒になっていたような。記憶は曖昧だ。
そこまで印象に残らない存在と言った方がいいかもしれない。
まだ鬼殺隊にいたのか。
珍しいものでも見るような目で見つめていると、彼女が思い出したように頭を下げた。

「今回は一緒の任務、よろしくお願いします!」

またよく笑う顔に、どう返してよいか分からず目を逸らす。

「苗字ー!」

頃よく、他の隊士が名前を呼んだ。

「あ、はいー!今行きます」



「風柱様は苗字と知り合いですか?」

「・・いや・・」

男性の隊士に話しかけられ言葉を濁す。
ただ、顔を知っているだけという間柄だ。
よく話すような親しい関係ではない。

「そうなんですか。さっき親しげに話してたので、つい知り合いかと」

親しげ・・?
言われて思わず実弥は眉間に皺がよる。
馴れ合いをしていたつもりはないが周りからはそう見えたのか。

「・・アイツ、良い身体つきしてますよねぇ」

走って向こうにいく名前の後姿を見ながら男性隊士は舌なめずりをする。
名前は背が低いが、細い体つきに似合わず胸が大きい。
隊服のスカートから伸びた脚は白く華奢だった。

「誰とでもヤるって噂だし。柱様になれば、あんな子とヤり放題なんて羨まし−」

男性隊士は最後まで言葉を紡げなかった。
首元に当てられた日輪刀の冷たさにひゅっと喉が鳴る。

「・・その無駄口を止めろォ」

隊士の屑な言動に嫌気がさしながら、実弥は手にした刀を鞘に納めた。
男性隊士は腰が抜けたようにしりもちをつきながら、なんとか立ち上がり慌てて走り去る。

『柱になればモテるんだぞ!』

かつて兄弟子だった男の声がふと思い出された。

『どいつもこいつも、浮つきやがってェ』

思い出の中の兄弟子に毒づきながら、任務の時間だと叫ぶ鴉の声を聞いた。




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