『ちょ、っと待ってビョリ、何怒って…』


「うるさい。」



仕事が終わって泊まりに来た名前がシャワーから上がる音がして、髪を乾かしてあげようと洗面所に向かうと、見覚えのないピアスを手に取って固まっていた名前。多分、この前のあの人が置いて行った物。
私に気が付くと手を握ってそれを隠して、何でもないように笑って見せた顔に無性に苛ついた。
細い腕を強く引いて寝室のベッドに乱暴に押し倒す。



『ビョリ…?』


「…何で、」


『え?』


「何で、そんな平気そうなの」



名前はきっともっと前から気付いてた。なのに、何も言わない。いつも気付かないフリをして、まるで平気みたいに笑って。

こんなに好きなのは、私だけなの?



「ずっと気付いてたんでしょ…?私、名前じゃない人を抱いたんだよ?この家で、このベッドで、名前じゃない人に触れたんだよ?」


『っ…』


「…私は、名前が私じゃない人と居るなんて耐えられない。なのに、名前は…」



震えた小さな手が頬に触れて、私の涙をそっと拭った。名前を見ると、大きな瞳に涙を溜めて、唇を噛み締めていた。



「…名前の気持ちが、分からない…っ」


『…ビョリ、』



寂しくさせて、ごめんね。


小さな声で呟いた名前にハッとして、抱き起こした華奢な身体を強く抱き締める。



「違う、ごめん名前、私…っ」


『分かってる。大丈夫だよ。』



情けなくて、名前に嫌われるのが怖くて、涙が止まらない。
どうしてわざわざ抉るような事を言ってしまったのか。どうして上手く想いを伝える事が出来ないのか。どうして、こんな事になってしまったのか。
言ってしまった後では、混乱した頭では、何も考えられなくて。



「好きなの、名前が…どうしようもないくらい、愛してる」


『うん。私もだよ。』


「本当に…?」


『当たり前でしょ。愛してるよ、ビョリ。』


「っ…名前、名前…」



どこにも行かないで。
泣きながらひたすらそれだけを繰り返す私は、名前の瞳にはどう映っていたんだろう。