テレビ番組の収録の日。飲み物を買いに行こうと楽屋を出て廊下を歩いていると、何度か共演した事のあるグループの人に呼び止められた。髪を掛けている方の耳に付いているのは、前にビョリの家で見たあのピアス。



「これ、見覚えない?」


『…いや、』


「おかしいなあ。オンニの家に忘れたと思ったんだけど。」


『っ…』



ビョリが浮気してるのはこの人だけじゃない。というより多分、皆1回切りの関係。だけど、今まで私に嫌がらせをしてくる人は一方的にビョリに憧れてる人ばかりで、実際に関係を持った人がこうして話しかけてきたのは初めてだった。

逃げたいのに、足がすくんで動けなくて、ただ俯く事しかできない。



「触れたの、私の全部に。」



辞めて。



「愛してるって、言ってくれたの。」



辞めて。そんなの嘘、だってビョリは私を愛してる。私だけを愛してくれてるんだよ。



「アンタじゃビョリの事満たしてあげられないのよ。」



辞めて。そんなに気安く、名前を呼ばないで。








「ちょっと、名前!?」



気が付いたら自販機の側の椅子に座り込んでいた私に、リーダーのジウオンニが駆け寄って来た。



「もう始まるのに何して…名前?」


『…ごめん、すぐ行く。』


「…名前、」



オンニも、他のメンバーも皆、私が嫌がらせを受けている事を知ってる。オンニはビョリとも仲が良いけど、言わないでってずっと口止めしたまま。
食べず寝れずの生活が続いてもうどのくらいか。どんどん体力が持たなくなって、メンバーにだって迷惑を掛けてる。
それでも、私の隣に座って優しく抱き締めてくれるオンニの腕の中で、涙が止まらなかった。

ビョリが浮気してる事は誰にも話してない。
話してしまえば、不器用で強がりなビョリが1つ、居場所を無くしてしまう気がして。

それでいい。ビョリも、何も知らなくていい。
だけど少し、疲れてしまったかもしれない。