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「うん、うん。分かったよ。…ううん、大丈夫だから。頑張ってね。愛してるよ[FN:名前]。」
[FN:名前]との電話を切って無意識に溜め息をついた俺に、隣に座っていたスンチョルが溜め息をついた。
「…何だよ」
「…いや、お前、…辞めとけよ?」
「何が、」
分かってるだろとでも言いたげに俺を見るスンチョル。
…分かってる、分かってるよ。
今日仕事が終わってから俺の家に来る予定だった[FN:名前]だけど、機材トラブルで大幅にスケジュールが変わったみたいで、今日は会えなくなってしまった。
有難いことにお互いに忙しいからそんなに頻繁に会える訳でもなくて、だからたったひとつの予定が無くなってしまっただけなのに、もう会えないんじゃないかなんて考えてしまう。
「宿舎帰れよ、そしたら誰かしら居るんだから良いだろ。」
「…うん。」
スンチョルの言う通り、今日でなくたって、[FN:名前]と過ごせなくて寂しいなら、宿舎に帰れば誰かしらが居て紛れるのかもしれないと思った事はある。
だけどそれも、上手くいかなかった。
宿舎で弟達と飲んでも何だか酔えなくて、結局自分の部屋に篭って、賑やかな声が聞こえる分余計に虚しくて。
[FN:名前]の事で感じる感情は、[FN:名前]でしか埋められない。
こんなんじゃ、大好きな[FN:名前]に嫌われてしまう。俺はもう、[FN:名前]無しじゃ生きていけないのに。
辞めなきゃいけない。強くならないといけない。それなのに、
「っあ、…オッパ、」
「…黙って。」
[FN:名前]はそんなに端なく鳴かないし、恥ずかしがってそんな風に俺の方は見ないし、シーツじゃなくて俺の腕を握る。
同じ女の子のはずなのに、肌の触り心地も、柔らかさも、何もかもが違う。
お前じゃない。お前じゃ、[FN:名前]の代わりになんてなれない。
宿舎に帰らなかった俺の行動を見透かしてか、咎めるようなカトクがスンチョルから届いていた。