(ちょっと飲みすぎたかな…)

美味しいつまみにつられて、ついつい杯を重ねてしまった。

「ちょっと、トイレ行ってきます」

彩香が席を立つと、だいぶ顔の赤い瑠伽が「行ってらっしゃーい」と手をひらひらさせる。

「気ぃつけてな」

同じくらい飲んでる筈の真島は飲み始めとそれ程変わっていないように見えた。



「のう、店長」

「なんすか、兄貴」

彩香がトイレに行くのを見届けて、真島が瑠伽に尋ねる。

「オーナーはんって、今付きおうとる男おるんか?」

「いない…と思いますけど、どうしてですか?」

「いやな…前から気になっとってん」

真島は自分の左手の薬指をトントンと指し。

「オーナーはん、ここに指輪しとるやろ」

「ええ」

「どう見ても安物やねん。…っちゅうか、露店で売ってるようなオモチャの指輪に見えんのやけど…。仮にもキャバクラのオーナーがするには相応しない思うてな」

「ああ、それは」

さっきまで、酔ってヘラヘラ笑っていた瑠伽が真面目な顔になる。

「二年前に亡くなった、オーナーの恋人が初めてくれた物らしいです」

「亡くなった?」

「はい…交通事故…と聞いてます」

意外な答えに、真島は押し黙る。

「幼なじみだったそうです。結婚の約束もしていたらしいんですけど…。その恋人の父親が元々はうちの店のオーナーだったんですけど、一年前、その前オーナーが亡くなる一ヶ月前に、今のオーナーがうちの店を譲り受けたみたいです」

「……」

「オーナー、両親がいないそうなんですが、その前のオーナーとはホントの親子のようだったと聞いています」

「…せやったんか…」

真島はじっと自分の飲みかけのビールを見つめていた。
水滴がジワリとテーブルに落ちる。

「真島さんっ!!」

瑠伽が急に身を乗り出す。

「何や、びっくりするやないか!?」

「前のオーナーに今の店頼まれて、一人で必死で頑張ってるんですよオーナーは!!だから、兄貴!!うちの店に何かあったら手を貸して下さい。オーナーの事守ってあげて下さい!!」

テーブルにぶつける勢いで頭を下げる瑠伽の姿に、少し驚いた顔をしたがフッと口元を緩ませ、瑠伽の頭をワシワシ撫でると、

「よっしゃ、心配せんでええ。お前の店もオーナーもこの真島吾朗が守ったる。だから、頭上げぇな、な?」

「あ、兄貴ぃ〜〜!!」

「お、お前泣いとるんか!?」

そこに彩香が、困惑した顔で戻って来た。

「何?一体何の騒ぎ!?」

「オォナァァ〜〜。一人で頑張ろうとしないで、俺達の事も頼ってくださいよぉぉぅ〜〜」

「ちょっと瑠伽君、飲み過ぎじゃない?え?ちょっっ…!!抱き付かないで!!」

「ヒャヒャヒャッ!店長は泣き上戸なんかのう」

「真島さんっっ!!笑ってないで助けて下さい!!」

胸元に顔を押し付けて抱き付いてくる瑠伽の頭を、何とか引き剥がそうとグイグイ力いっぱい押す彩香の左手の薬指には、小さな赤いハートの石が光っていた。


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