それからおよそ二時間後。
真島は、『セイレーン』というキャバクラにいた。
「ねぇ〜吾朗ちゃ〜ん。マリア、もう一本シャンパン飲みたいなー」
猫なで声で、腕に絡みつく女をチラリと横目で見て
「好きに頼んだらえぇやろ」
ぶっきら棒に返す。
そんな真島の顔を、彼女は覗き込む。
「何や」
「何か、今日の吾朗ちゃん機嫌悪くない?」
「別に、どこも悪ないわ」
「ほら、やっぱり機嫌悪い…」
真島は、眉間の皺を深くしながらグラスのウィスキーをグイッ煽った。
「すまん…」
ボソリと呟くように言うと、空いたグラスをマリアに預ける。
「……今日、ちょっとな…ある人に八つ当たりしてしもうてん」
「え?そんな事気にするなんて吾朗ちゃんらしくないじゃん」
「せやろか?」
「あ、分かった。その人女の人でしょ?」
驚いた顔でマリアを見る。
「分かるんか!?」
「フフーン」とマリアは得意げな顔で、真島の水割りを作りながら「オ・ン・ナ・の・カ・ン♪」と自分の頭を指さす。
「え?何ナニ?吾朗ちゃんは、その人の事好きなの?駄目だよ私以外の人に浮気しちゃ!!」
再び、腕を絡ませ真島に詰め寄る。
「そんなんちゃうわっ!!仕事関係の人間や」
「ふーん…ならいいんじゃない?」
「ん?」
「だってぇ、仕事で付き合いのある人なら、ある程度吾朗ちゃんの性格分かってるわけじゃん?」
「…せやな」
「だったらさ、吾朗ちゃん怒らせちゃったって、向こうはビビッてると思う訳よ」
「え?…び、ビビらせてしもたんかな…」
うんうん絶対そう。とマリアは頷く。
「で、今度会う時は、何事も無かったように接すればぁ。あー吾朗ちゃん怒ってなかったぁーーってなって、はい元どおり♪」
「……お前はええなぁ。人生楽しそうで」
マリアは上機嫌で、運ばれて来たシャンパンを自分のグラスに注いだ。
「ささ、吾朗ちゃん!!飲も飲もっっ!!」
「はぁー。お前見てると考えんのが、アホらしゅなって来るわ。よっしゃ、もう止めや止めや。今日はお前の誕生日やっ!!面倒くさい事考えんと、飲むでぇ〜〜!!」
マリアを抱き寄せ、グラスを煽る。
「吾朗ちゃん…」
「んー?」
「チューして…」
潤んだマリアの瞳が、真島を見つめる。
「ここでか?」
「お願い」
「フフッ、しゃあ無いのぉ…」
黒のレザーの真島の両手が、マリアの両頬を包みゆっくりと引き寄せる。
「ん……」
薄く開いたマリアの口内に真島はゆっくりと自分の舌を侵入させた。
「ふう…んっ……ご…ろうちゃ…」
暫く堪能するように味わい、唇を離すと。
「続きは、店が終わってからや。覚悟しとき」
薄く笑いながら彼女の耳元で囁いた。
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