「き…消えない…」


真島に付けられた、首筋のキスマークと格闘中。

パウダーでは消えないようなので、リキッドファンデーションを指につけて叩いてみる。

少しはましになっただろうか…。


「………」

まだ薄っすらと見える紅い印に、自分の指をゆっくり滑らせる。

あの時の真島の舌の感触を思い出し、身体が熱くなるのを感じた。



不意にオーナー室に電子音が鳴り響く。

バッグから携帯電話を取り出し、着信画面を見ると、知らない電話番号からだった。

少し考えた後、通話ボタンをスクロールさせる。


「………もしもし?」

「彩香か?俺だ」

「……兄さん?ホントに!?」

声の主は彩香の兄だった。

「元気だったか?」

受話器の奥から聞こえる、久しぶりに耳にする兄の声に彩香は涙を堪えて言った。

「いきなり居なくなるんだものっ……!!連絡もくれないし、今まで何してたの!?」

涙声の彩香の言葉に、兄は一瞬言葉を詰まらせ「すまない」と言った。

「今、神室町にいるんだ」

「え?」

「時間が空いたら会おう。また連絡する」

そう言って兄は一方的に通話を切った。


「………」

幼いころ、両親が離婚し自分は母親に、兄は父親に引き取られた。

社会人になり、やっと母親に楽をさせてあげられると思っていた矢先、母が病死。

その時葬式に訪れた兄に再会し、そこからまた連絡を取り合うようになった。

その一年後、今度は父親が他界。

それを機に、兄は神室町に引っ越してきた。


何の仕事をしているのか、たまに兄の袖口からチラリと覗くタトゥーで、サラリーマンなどではない事は明らかだった。


恋人が交通事故に遇い、亡くなってから間もなく、兄も何も言わず神室町から姿を消した。

独りになってしまったと、不安に駆られていた日々を、彩香は思い出していた。


無事だったんだ…。


捜索願いを出しても、手がかりひとつ掴めなかった為、兄はもうこの世に居ないかもしれないと半分諦めていた。

良かった…。

携帯電話を握りしめ、彩香は祈るように目を閉じた。


index
top