「大丈夫ですかっ!?」
驚いた彩香が慌てて駆け寄ると、真島はそれを手で制した。
真島の制しも構わず傍まで寄り、その背中に手を添える。
「だ、大丈夫や。流石に咳すると響くわ」
眉間に皺を寄せながら笑う真島のジャケットの隙間から、チラリと肩を覆う包帯が覗く。
それを見た彩香の表情が曇り、心配そうに声をかけた。
「やっぱり、ちゃんと安静にしていた方が……」
言っても無駄だと思いながらも、気に掛けていた事を口にすると
「平気や言うたやろ」
ゆっくり立ち上がると、一緒に立ち上がった彩香を見た。
変わらず不安そうに見詰めてくる彼女の頭の上にポンと手を乗せると、目線の高さを合わせニッと笑う。
「そんな顔せんといてや。だぁーいじょうぶやって。俺の身体は人一倍丈夫に出来とるからの」
ポンポンと軽く叩くと、彩香はフフッと笑った。
「ん?何や?」
「真島さん、初めて会った時も私の頭をこうしてくれたんですよ」
「せやったけ?」
「……覚えて…無いんですか?」
「そぉーんな細かい事、いちいち覚えとらんわ」
がっかりした顔で肩を落とす彩香の頬にその手を移動させ、まだ薄っすら残る口元の傷を親指でなぞる。
「腹は……大丈夫なんか?」
間近で見詰めてくる真島の視線に、少し動揺してしまい「ちょっと痣が出来たくらいですから」と言い目を伏せた。
すると、彼は自分の身体を彩香に近づけ、彼女の後頭部に手を添えるとそっとその胸板に引き寄せる。
「身体……大事にしいや」
「ど、どうしたんですか?今日の真島さんちょっと変ですよ?」
「………」
それには答えず二、三度頭を優しく撫でると、すぐに彩香から離れ再びソファーに座り直した。
「これ飲んだら帰るわ……」
コーヒーカップを手にし、口元に運ぼうとした時、ガチャリと事務室のドアが開き瑠伽が顔を覗かせた。
「あ、兄貴っ!!来てたんですか?」
「おお、瑠伽。久し振りやのぅ」
真島は顔をほころばせながらコーヒーをすする。
「瑠伽君にもコーヒー淹れようか?」
「あ、すいません。お願いします」
瑠伽は真島の正面に座り、煙草を取り出すと火を点ける。
真島はそれを見るや否や、素早く煙草を取り上げ灰皿に押し付けた。
「あっっ!!何するんですか兄貴!!」
「ここは禁煙や」
「……へ?」
意味が分からないといった顔で彩香を見ると、その様子を見ていた彼女も首を傾げて肩をすくめる。
再びコーヒーを淹れ始める彼女の後ろ姿を確認すると、真島は瑠伽の隣に移動し小声で話しかけた。
「ここは、客も煙草吸いよるよな?」
「え?ええ、まあ……」
真島につられて瑠伽も小声になる。
「今日から全席禁煙にせい」
「む、無茶言わないで下さいよ。そんな事出来る訳ないじゃないですか」
「あかんか……」
真島は少し考え込んだ後、立ち上がり事務室から出ようとするので、何処に行くのかと尋ねると
「ここの灰皿全部ブチ割ったる」
そう言って、ドアノブに手をかけた。瑠伽は慌てて真島を押さえる。
「何するんや、離せや!!」
「何するって、こっちの台詞ですよっ!!オーナーぁっっ兄貴が変な暴走始めちゃってますっ何とかして下さいっ!!」
そんな二人のやり取りを彩香は淹れたてのコーヒーカップを持ったまま、困った表情で見詰めていた。
index
top