「おう、マリアか?」
真島組の事務所の自室で、ソファーに座り携帯電話を片手に足を組み直す。
「吾朗ちゃんっ!?吾朗ちゃんから電話くれるなんて珍しいねっ!!何なに?デートの誘い?」
キーンと耳元でマリアの声が響き、真島は顔をしかめ携帯を耳元から離す。
「なん……ちゅう声出すねん。……残念やが、デートの誘いやない」
少し真面目な口調の真島に、マリアも少し神妙になる。
「え、どうしたの?そんな真面目な声で……」
「実はな……」
真島は一呼吸置いて続ける。
「もう……お前と会うん、止めようと思うねん」
「………え?」
「いきなりですまんの……」
電話口の向こうでマリアが息を飲むのが分かった。
「……理由…聞かせてよ…」
心なしか声が震えている。
真島は目を伏せ静かに言った。
「大事な人が出来たんや。……そんなんで他の女に会う訳にいかんやろ」
「………ねえ…。それって…もしかして……彩香さん?」
真島は驚いたように目を見開く。
……女の勘いうんは侮れんな……。
フッと笑うと真島は頭を掻く。
「……さすがやな…。せや、あの人や」
マリアは暫く無言でいたが、やがて寂しそうな声で小さく言った。
「……そっか…何となくそんな感じはしてたんだ……うん、わかった」
「えらいあっさりしとるのぅ。てっきり泣いてすがられる思うたのに」
マリアの返事に、少し拍子抜けする。
「だって、吾朗ちゃん。自分で言い出した事は何があっても曲げないじゃん」
「……すまん…」
「そんな謝んないでよ。なんか悲しくなるじゃん…」
「……おぅ…」
「じゃあね、吾朗ちゃん。彩香さんにフラれた時はまた連絡ちょうだいね」
マリアは涙声でそう言うと通話を切った。
真島はその画面を暫く見詰めていたが、煙草に火を点けその煙を大きく吸い込む。
「………」
自分の吐いた煙が天井に昇って行くのを何気なく見ていると、ソファーに置いた携帯が震えた。
「何や?……おぅ、ホンマか?よっしゃ、ほんなら俺の言うたとこ連れて来い」
通話を切ると、間髪入れずに再び電話を掛ける。
「彩香ちゃんか?今から時間とれへんか?ん?……フフッ、来てからのお楽しみや」
真島から連絡を受け、呼び出された彩香は神室町の外れにある、人気のない公園に来ていた。
………こんな所に呼び出して、一体何の用なんだろう。
ベンチに座り待っていると間もなく真島が姿を現した。
「すまん、待たせたのぅ」
「あ、いえ。今来たところなんで……」
何の用で呼び出したのかと尋ねようとした時、彼の後ろに居る男に気が付く。
パーカーのフードを目深にかぶり、顔が良く見えないその人物は、彩香に気が付くと足早に近付き、いきなり抱き締めてきた。
「―――っ!?」
知らない男に抱きすくめられ、彩香の頭がパニック状態に陥る。
「えっ!?ちょ……なにするんですかっ!!いきなり!!」
男の腕から逃れようともがくが、更に力を込められ身動きが取れない。
助けを求めようと真島を見ると、彼はニヤニヤして眺めているだけなので、彩香の頭は更に混乱する。
その時、パーカーの男が耳元で呟いた。
「彩香……俺だ」
聞き覚えのある声に、彩香はハッとする。
男は抱き締めていた腕を解くと、ゆっくりとフードを外した。
その男の顔を見て、彩香は息を飲む。
「………兄さん…?」
そこには、少しやつれてはいたが、はにかんだ笑顔の朝霧涼平が立っていた。
「え?ほんとに?……何で?……だって兄さんは……」
―――死んだ筈では……。
困惑する彩香を見て、可笑しそうに笑う真島にどういう事かと目で訴える。
「どや?ビックリしたやろ?」
悪戯が成功した子供のような顔をし、さも愉快そうに肩でクククと笑っている。
再び兄に目をやると
「彼に助けてもらったんだ」
涼平は真島に目線を向けた。
「真島さんに?」
彩香も真島を見ると、彼は腕を組み「せや」と言った。
「例のマフィアに条件出した言うたやろ?あれな、もう一つあったんや。朝霧涼平を無傷で俺に引き渡すゆうな。向こうはあっさり了承しよった。大方、俺が自分の手でこの男処分したいから思ったんやろ」
真島は申し訳なさそうに頭を掻く。
「ホンマはもっと早く、兄貴が生きとるいう事お前に言いたかったんやけどな。なんせ相手はマフィアや。実際、ホンマに俺に引き渡すいう保証は無かってん。せやからちゃんとこいつが俺んとこ来てから教えたかったんや。黙っとって悪かったな」
「堪忍してな」と言う真島に、彩香は目に涙を溜めながら首を振る。
「そんな……真島さん……。そんな事も知らないで、私…真島さんを疑うような事言ってしまって……」
「そんなん気にせんでええって。最初はホンマに殺そ思っとったし」
真島は煙草を取り出し、火を点ける。
フゥーと煙を吐くと、少し遠い目で神室町の曇り空を見上げた。
「……お前の兄貴やいう事知ってから正直迷っとった。でもなぁ、必死に兄貴助けよう思うて身体張るお前見て、気が変わったんや。ま、吉岡もお前が泣く事になるんは、望んどらんと思うしなぁ……」
「真島さん……」
「……吉岡なあ…お前のファンやったんやで」
そう言ってフッと笑う真島は、何だか少し悲しげに見えた……。
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