とある高級デパートのジュエリーのブースがズラリと並ぶフロア。

真島はダークスーツに身を包み、ガラスケースの中の指輪を食い入るように見詰めていた。


かれこれ十分程そうしている彼に、店員の女性が話しかける。


「あの……もし宜しければどういうイメージの物がいいか仰って頂ければ、いくつかこちらで見繕い致しますけど……」

「それが分からんから困ってんねん……」

顎に手を添え、眉間に皺を寄せながら真島は唸るように言った。

「アカン。はよせな約束の時間に遅れてまう」

少し焦った様子の真島はふと、自分の横にある小さなガラスケースに目線を移す。


そこには一つだけ指輪ケースに収まった指輪が飾られていた。


「お、これえぇやん」


ピンクがかった石の周りに、小さなダイヤモンドがVの字に並んでいる。

それは照明を反射して、一際綺麗に輝いていた。

「こちら、当ブランド30周年を記念した、数量限定のリングになっております。ピンクダイヤを中心にティアラをイメージしてデザイン致しました」


「決めた。これにするわ」


口元を綻ばせ、目を細めて指輪を見る真島に、店員は「サイズはどういたしましょうか?」と訊いてきた。


「それなんやけどな……」


真島は内ポケットをまさぐると、赤い石のついた指輪を取り出した。

「これと同じサイズにで頼むわ」

店員は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり

「はい、ではそちらお預かりしますね。サイズを調べて参りますので少々お待ちください」

そう言って店員が立ち去った後、
再びガラスケースの指輪を腰をかがめ眺める。


………あいつによう似合いそうやな。


光を反射しキラキラ輝く指輪を眺める真島は、眉尻を下げながら満足そうにニンマリと笑った。





真島は指輪を受け取ったその足でディナーを予約してあるホテルへと向かった。

レストランの入口に入ると蝶ネクタイをした男が彼に近づいて来る。


「いらっしゃいませ」

「予約しといた真島やけど」


「お待ちしておりました真島様。お連れ様は先程参られましてあちらでお待ちでございます」


会釈をするボーイが手を差し伸べる方向へ目をやると、テーブルに着いた彩香が夜景を見詰めているのが見えた。

真島はジャケットのポケットに片手を入れた。


手に当たるのは、先程受け取った小さな箱……。



………喜んでくれるやろか……。


いや、その前に受け取ってくれるのだろうか……。


これを受け取るという事は、極道を生業とする男と所帯を持つ覚悟が必要になるという事だ。


………アカン、えらい緊張するわ。


こんな気持ちはどのくらい振りだろうか。

ゴクリと唾を飲み込んだ時、彩香がこちらに気付き笑顔で手を小さく振った。

そんな彼女に眩しそうな表情で目を細めると、自分も軽く片手を上げ応える。



………よっしゃ、真島吾朗。いっちょ男見せたるか!!



そう自分に言い聞かせ、ポケットの中の小さな箱をギュッと握り締めると、愛しい人が笑顔で待つテーブルへとゆっくりと歩き出した。






……fin。


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