一幕

────カチッ、カチッ。

ライターを点ける音で我に返る。

見ると、ベンチの脇に設置してある灰皿の前で長身の男が煙草を吸おうとしている。ガス切れなのか中々点かないらしい。ついには諦めて溜め息までついている。

京に貰ったライターの事を思い出しながら、少しその男を観察してみる。

薄いグレーのスーツに、ワインレッドのシャツのその男は、どう見ても堅気には見えない。出来ればこういう人間とは関わるのを避けたいのだが……。

咥えていた煙草を手に持ち替え、小さく首を振った後やっとジャケットのポケットにしまうのを気の毒に思ってしまい、声をかけてみた。

「あの……良かったら使って下さい」

急に話しかけられ、男は驚いたようにこちらを見た後、「ああ、ありがとう」とシルバーのライターを受け取り、それを少し怪訝な表情で見つめる。男物のライターという事を不思議に思ったのかも知れない。

強面……といえばそうも見える。だが、その口調と眼差しには粗野な印象は無い。なんというか“頼れる兄貴”という雰囲気だ。そのくせ、纏うオーラは真島と共通するものがある。様々な修羅場を潜ってきた男特有のオーラだ。

────この男……。多分、強い。




「助かった。……いいライターだな。だが、女が持つには少し重そうだ」

「あぁ、これ、貰い物なんです」

返しながら言う男に、名前は微笑んで言うと、彼は納得したのか「そうなのか」と頷く。その目が名前の胸の代紋へと移ると怪訝な顔になった。

「あんた……その代紋……」

「……?」

男は顎に手をやり、考える素振りを見せたが、キョトンと見つめる名前を見て「いや……何でもねぇ」と首を振った。

「あんたとは、また会う事になるかも知れねぇなあ」

ボソリと呟く男に、「え?」と訊き返す。男は煙草を灰皿に押し付けながら意味深に口元を緩ませた。

「じゃ、頑張れよ」

そう言って男は颯爽と去って行った。

妙に耳に残る声をした不思議な男だ。


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