壁ドン

「はーい、順番順番。じゃあまずピアノの折り方ね」
群がる子ども達に圧倒されながらも、その場をなんとか落ち着かせようと試みる。
だけど太一くんは大きな口を開けて、「えー! なんで泉からなんだよー!」と不満を漏らした。
そこへ遥ちゃんの握りこぶしがコツンと太一くんの頭を軽く叩いた。
「泉が一番下なんだから当たり前でしょ。太一はガマンしなさい」
しっかり者の遥ちゃんには逆らえないのか、太一くんはムスッと口を尖らせて大人しくなった。
だけどピアノの折り方を教え始めると今度は青の折り紙がないやらなんやらでまた騒ぎ始め、誰かの肘が当たって折り紙の袋がテーブルの上から落ちてしまった。
まだたくさん入っていたカラフルな折り紙が畳の上に広がっていく。
「おい、いい加減にしろお前ら」
子どもに囲まれている私の後方であぐらをかいて座っていた桐生さんが、散らばった折り紙を見た瞬間突然大きな声を出した。
私はあまり桐生さんの怒った声を聞かないからビックリしたけれど、子どもたちは慣れているのか「おじさんが怒った!」と笑っている。
元はといえば彼氏である桐生さんに会いにあさがおに遊びに来たのだけれど、思ったより早く学校から帰ってきた子ども達が桐生さんの部屋にいる私に気付いて群がってきた。
美里ちゃん、と笑顔で駆け寄る子ども達は本当に可愛い。
でも二人きりで過ごすつもりだったから、それを邪魔された桐生さんは何だか不機嫌そう。
そんな桐生さんを見た遥ちゃんは空気を読んだのか、「ケンカするならもう折り紙は終わり! 浜辺で野球やろう」とみんなを半ば無理やり外へ連れ出してくれた。
あとでお礼を言わなきゃ。

「悪い、騒がしくて。みんな美里が来ると嬉しくて堪らないみたいなんだ」
やっと静かになった室内に、桐生さんの低くてセクシーが声が通る。
畳の上に置かれた緑色のテーブル上には折り紙や筆記用具が散らばっていて、それをかき集めながら「大丈夫ですよ」とニッコリ微笑んだ。
というか、子ども達が書いた桐生さんの似顔絵や学校で作った工作などが飾られている、いかにも"父親"っぽい部屋でデートをしようなんて考えていた事がまず間違いな訳で。
二人きりになりたいのならどこか外へ出かけなくちゃダメだよね。
反省しながら動かしていた手は最後の一つだったペンをポーチに入れ、テーブルの上が綺麗さっぱり片付いた。
「やっと静かになったな」
そう言うと今まで壁際に寄りかかって座っていた桐生さんは立ち上がり、私の隣に腰を下ろして再びあぐらをかいた。
やたら近距離でドキッとしてしまうも、ここは養護施設だと自身に言い聞かせて冷静を取り戻す。
それなのに桐生さんは正座を崩した状態で座っている私の太ももに手を置いてきた。
私を見つめるこの表情、明らかに欲情している。
「この服、初めて見るな。買ったのか?」
「あ……はい」
桐生さんに会う時に着るために買った、少し丈が短めのワンピース。
それをちゃんと見てくれた事に喜びを感じた反面、今日のために買ったと伝わってしまったんじゃないかと少し照れくさい気もする。
「……あの……」
太ももに置かれた手はするするとイヤラシイ動きをして止まらない。
目を泳がせている私の顔を覗き込んで、下からキスをしてきた。
……ちゅっ…………ちゅぱっ…………
唇が離れるたびに唾液の弾ける音がする。
私の事が欲しくて堪らない桐生さんの舌は小さな口をこじ開けてグイグイと侵入し、口内を隅々まで舐め回す。
いつのまにか抱き合う体勢になっていて、迫って来る桐生さんの体を支えるようにテーブルへ手をついて受け止めた。
キスはどんどん深くなるし、服の上から胸は触られるし、もう押し倒されてしまうと気が緩んだ時。
「ごめんくださーい!」
聞き覚えのある元気な声が玄関の方から聞こえてきた。
慌てて体を離して口元に付着した唾液を手で拭ったり乱れた服を整えたりしている間、声の主は「あれ? いないのかな?」と不思議そうに独り言を言いながら家の中へ入り込んできた。
襖に男性の影が映っている。
「兄貴ー! いないんスか?!」
「大きい声を出すな!」
私に触れる前の姿に元どおりになった桐生さんは、はぁーっと大きなため息をついてから声を上げてその場を立った。
「なぁんだ、いるじゃないですか。あれ、美里さん来てたんスね」
桐生さんが襖を開けると、アロハシャツを着た力也さんがこちらに気付いて爽やかに笑った。
「あ、そうそう兄貴、これ幹夫の奴がダチから貰ったとかで俺にもくれたんスよ。子ども達明日は学校休みだし、今夜はパーッと飲み明かしましょうよ!」
力也さんは片手に持っていた大きな焼酎の瓶を嬉しそうに桐生さんへ見せ付けると、まだ返事も聞いていないのにキッチンの方へ歩き出そうとした。
そして案の定、アロハシャツの後ろを掴んで桐生さんが止める。
「時計を見ろ力也。まだ四時だぞ、四時。これから晩飯の準備もしなきゃなんねんだ。飲むならせめて子ども達が寝静まってからにしてくれないか」
「寝静まった後ならいいんスね?!」
力也さんは目をキラキラ輝かせて桐生さんを見上げ、その眼差しを受けた桐生さんは嫌そうな顔をして「おう」と弱々しい声を発した。
「兄貴の事だから絶対断ると思って強引に飲ませる気で来たんスけど、まさかオッケーもらえるなんて浮かれちまうなぁ! 幹夫とか親父にも声かけるんで、十時ごろにみんな連れて来ますね! じゃ!」
子どものように元気よく笑う力也さんはいつも通りで、なんだかんだそれに振り回されている桐生さんもいつも通りだ。
嵐のように去っていった力也さんを目で見送ったあと、桐生さんは再び大きなため息をつきながら私の元へ戻ってきた。
「沖縄の人たちはみんな良い奴だが、社交的すぎるのがたまに傷だ」
冗談まじりで言い、桐生さんは脱力して私の隣に寝転んだ。
「でもほんとみんな良い人ですよね。子ども達も伸び伸び暮らしてるし、毎日笑顔で幸せそうですもん。桐生さん、沖縄に来て良かったですね」
頭の後ろに手を置いて寝転がっている桐生さんを見下ろして微笑む。
すると桐生さんは私の頬へ手を伸ばし、「美里に出逢えたしな」と真剣な顔で言ったあとに口角をわずかに上げた。
そして私は吸い込まれるように、桐生さんの唇へ向かって顔を下ろしていく。
「……好き……」
唇が触れる直前に漏らし、それを聞いたからか桐生さんはスイッチが入ったかのように私の後頭部を掴んで力強いキスをしてきた。
さっきよりも荒く激しく口内を舌が這いずり回る。
桐生さんの分厚くて硬い胸板に手をつきながら、下から迫り来る獣のような舌にひたすら興奮を覚えた。
「き、桐生さん……子ども達、何時に帰って来るんですか?」
甘ったるいキスをして、前のボタンを全部開けられて胸を触られて、ついに手が下まで伸びてきた頃。
これ以上はマズイという顔をして桐生さんの胸を手で押し退けた。
「……いつも五時を過ぎたらゾロゾロと帰ってくる」
ボソリと言ったあと、一瞬止めた手を動かしてスカートを捲り上げてしまった。
五時まであと三十分しかないのに、桐生さんは辞める気がないらしい。
「あっ……」
くちゅ、と湿った音が下腹部から聞こえた。
くちゅ……ぐちゅっ……
秘部がだらしのないくらいグチャグチャになっているのだと、嫌になるほど聞かされてしまう。
「きりゅ、さ…………ん、うっ」
「気持ちいいか」
指の根元まで飲み込んでヒクヒクする秘部。
上壁を刺激される度に甲高い声が部屋に響き、桐生さんもその声にはマズイと感じたのかそっと手で私の口元を塞いだ。
「時間、結構ヤバイな……」
チラリと時計に目線をやり、そう呟いた桐生さんは乱れた格好で涙目になっている私を見下ろした。
ゴクリ、唾を飲み込んだ喉仏が上下に揺れる。
アロハシャツにハーフパンツスタイルの桐生さんは、あっさりハーフパンツを下ろして惜しげも無く下半身を晒した。
「すぐ終わらすから」
「え?! 待って、そんな堂々と……」
さすがにここじゃマズイからやめておこう、桐生さんならそう言うかと思っていた。
そりゃあかき回された秘部は桐生さんが欲しくて堪らないけれど、ここは養護施設だからこんな事をしてはいけないという理性はまだ残っていたのに。
何の躊躇もなしに胎内に入り込んできた異物に腰を引くものの、一度奥まで力強く突かれたら理性が崩壊してしまった。
「――ああっ、そんっ、な、……ああっ」
家の周りは静かだから、誰かが帰ってきたら足音や声ですぐに分かる。
私も桐生さんもそれは分かっていたから、快感に身を委ねながらも完全に夢中になる事はせずにいた……はずなのに、途中からあまりの気持ちよさに周りの声に聞き耳をたてるのを忘れてしまっていた。
「やべぇな……もうっ、出……」
「こんにちはー! 宅配便でーす」
ピタッと二人の動きが同時に停止する。
これまで生々しい音に包まれていた室内は静けさを取り戻し、玄関の向こうで操作している機械の音が聞こえてきた。
予想外の来客で私の頭は一度冷静になり、覆いかぶさっている桐生さんの顔を見上げる。
「桐生さん……早く出ないと行っちゃいますよ」
「いや、ほっといていい」
「え?!」
桐生さんは一度停止した腰の動きを再開し、私の太ももを掴んで突き上げた。
「ひゃっ! 待っ……」
「もう邪魔されたくない」
玄関の方から何度も「宅配便でーす!」と催促する声が聞こえてくる。
だけどそれをまるで無視し、桐生さんは夢中になって私の中を暴れ回った。








時計の針が五時を指すと、子ども達がゾロゾロとあさがおに帰ってきた。
今日は私もあさがおのみんなと夕食をいただく事になっていたから、桐生さんと一緒に台所に立って夕食の準備をしている。
「おじさん、俺の誕生日プレゼント届いた?」
台所の入り口の前に来た太一くんは、キョロキョロ周りを見渡しながら桐生さんに声をかける。
「誕生日プレゼント……? あ」
その時やっと、宅配便が来たのに不在通知票をポストへ取りに行くのを忘れていたことに気が付いて、桐生さんと私は口元を歪めながら見つめ合う。
「悪いな太一。実は……受け取れなかったんだ」
「えー!! なんでよ!! 夕方は絶対家にいるから大丈夫っておじさんが言ってたのに!」
「……本当に悪かった……」
そういえばこの間、太一くんに誕生日何が欲しいか聞いたらネット限定のプラモデルか欲しいと言い出してネット注文する事になったと桐生さんが言っていた。
それがまさかあんな事をしている最中に届いてしまうとは……言い訳ができない。
「美里ちゃんも家にいたのに何で誰も気付かなかったんだよ! 二人とも何してたの?」
「えっと……」
よほど楽しみにしていたのか、太一くんはカンカンに怒った顔で私達を交互に見上げてきた。
裏庭の草むしりをしていたと言ってなんとかその場は言い逃れたけど、不機嫌になった太一くんの機嫌を取り戻すのは結構大変で、もう二度と"おじさんの部屋"でやましい事はしないと決意した。


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