翌朝。

なつみはいい匂いで目が覚めた。

────あれ?この匂い……。

足を庇いながら一階に下りると、品田の歓喜の声が聞こえて来た。

「うわぁ!!朝から凄いね」

何だろうと、テーブルを見ると和風のおかずと一緒に、炊き込みご飯が器の中で湯気を立てていた。

厨房を覗くと春樹が味噌汁をよそっている。そう言えば、昨日から何か仕込んでいるようだったなと思い出す。

「朝から炊き込みご飯って、珍しいね」

声をかけられた春樹は、チラリとこちらを見たが直ぐに鍋に視線を落した。

「品田さんの為……でしょ?」

シンクの淵に寄りかかりながら、少しふて腐れたような春樹の横顔を見ながら言う。

「だって……何でも美味そうに食うんだもの」

その後、包帯を巻いている自分の右手を見つめた。

「それに、あの人俺の手を“料理人の手”って言ったんだ。この手、踏まれた事にすげー剣幕でキレてさ……」

「うん」

「……悪い人じゃ無いってのは分かった」

「はは、現金なやつ」

「うるせぇ」


厨房から出ると、テーブルに座り早く食べたくてソワソワしている品田の姿が目に入り、なつみと春樹は顔を見合わせて笑った。





今日もリンクスの営業は無理そうだ。

なつみは自室のベッドの上で横になっていた。

品田が暫くここに居る事に、ホッとしていた。彼がいるだけでだいぶ心強い。

「…………」

それよりも、品田の滞在期間が延びたという事が、純粋に嬉しかった。

今まで、恋愛というものをした事が無い。そんな事よりも、父親に料理を教えて貰っている時の方が大事だったし、何より楽しかった。

こんな自分が、会ったばかりの男にこんな感情を抱く事が何だか意外な気がした。

「ふふ、変なの」

これが恋愛感情なのかは分からない。でも、これからも暫くの間彼がこの家に居るということを考えると、妙に顔が綻んでしまうのだった。


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