「どうして彼女を付けたんだ?」

いつもの品田には珍しく、厳しい口調で男に問う。
それに河村はニヤリと口角を上げた。

「いやね、今、うちの雑誌で一年程かけて大々的に日本中の風俗嬢の特集組んでてさ、最後の目玉にどうしてもマリンの記事が欲しいって、うちのお偉いさんが言うんだよね。だが、彼女が取材は受けないってのは業界じゃ有名な話だ。それで、何か弱みでも握れないかな……なんてね」

「それをネタに彼女を脅して、取材しようっての?……はぁ、あんた中々のクズだね」

「売れる記事書く為なら、手段は選ばねえ。業界じゃけっこう常識でしょ?」

「…………」

品田は、無言で聞いていたが表情は険しいままだ。

「どんな事で脅されたって、あなたの取材なんか絶対受けないからっ!!もう私に関わらないで!!」

過去によほど嫌な事をされたのだろう、切羽詰まった様子が彼女の声から伝わってくる。

「全く無名だったお前を、誰がここまで有名にしてやったと思ってんの?」

「そ……それは……」

「田舎から出てきたばかりのあんたが、寂しさからホストにハマって借金つくって風俗で働くようになった。そん時客だった俺に自分の記事を書いてくれと泣きついたのは……誰だったっけかなあ……」

河村の言葉にマリンは声を詰まらせた。

「あんた、何か勘違いしてないか?」

そこに割って入ったのは品田だった。



「確かに、切っ掛けを作ったのはあんたかも知れない。だけど、今のマリンちゃんの人気は、誰でもない彼女の努力の賜物だ。ちょっと雑誌に載った位で神室町のナンバーワンになれる程、この世界は甘くないよ?」

「品田さん……」

河村は、目を細めて品田を見た。

「お前、一体何者だ?やけに風俗事情に詳しそうだが……」

「俺も、風俗ライターの端くれでね」

「何だ、同業者か。同じ穴のムジナじゃねえか」

河村が鼻で笑うと、品田は頭を掻きながら答える。

「そう言われると反論出来ないけど、けどさ……」

一呼吸置いて、品田は続けた。

「俺は、あんたみたいな記事の書き方はしないよ」

その目は真っ直ぐ真摯に河村を捉えている。河村は、一瞬反論しようと口を開いたが、直ぐに止めフンと鼻を鳴らすと「今日の所は引き下がってやるよ」と言い残すと、その場を立ち去った。

その時、品田とマリンの後ろで固唾を飲んで見守るなつみを見て、口角を上げた河村に気が付いた者は一人も居なかった。


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