アルプスを出て、次は何処に行こうかと二人で話している時だった。
道の隅で、今にも泣きそうな小さな女の子が目に留まった。
「迷子かしら」
マリンは、行きかう人々の間を縫うように道を渡ると、真っ直ぐその女の子の傍へ駆け寄った。
「どうしたの?お父さんとお母さんは?」
マリンが少女の顔を覗き込みながら、優しい声で笑いかけると、少女は変わらず不安そうな顔で首を振った。
「うーん、困ったね」
「取り敢えず近くの交番に行こうか?」
品田も、屈んで少女を見るが突然目の前に現れた大男に、怯えた様子でマリンの陰に隠れてしまった。
品田は苦笑いをしながら辺りを見渡す。
道路を挟んだ反対側の歩道。若い男女がキョロキョロと何かを探している。
「もしかして、あの二人じゃない?」
品田がその男女を指さすと、その二人もこちらに気付いて駆け寄ってきた。
「良かったっ!!探したのよ」
両親を見付けた少女は、緊張がほぐれたのかホッとした顔をしたあと、ポロポロと泣き出した。
品田は、そんな少女の様子を見てハッとした表情をする。
若い両親は、二人に礼を言い、少女を真ん中に手を繋いでその場を後にした。
その背中を見つめながら、マリンは安堵の溜め息を漏らす。
「すぐ見つかって良かったね。……品田さん?」
「え?……ああ、そうだね」
「やだ、また考え事?」
難しい顔の品田に、マリンが口を尖らせた時だった。品田の携帯が鳴った。
「あれ?なつみちゃんからだ……」
品田が出ようとすると、すぐに切れた。
「…………」
「あれ?切れちゃったの?」
マリンが品田を見る、その顔は画面を見つめたままだんだんと険しくなっていった。
「品田さん?」
「ごめん、マリンちゃん。ちょっと用事思い出しちゃったっ!!」
「え?」
「埋め合わせは後で必ずするからっ!!」
「ちょっと、品田さんっ!?」
品田は、パンッと手を合わせて頭を下げると、全力疾走でその場から駆け出してしまった。
品田はリンクスへと向かっていた。
走りながら、先程の少女の事を思い出す。
あの時、両親を見つけた時の安堵した少女の顔……。外出中の品田がリンクスに帰った時のなつみの表情と酷く似ていた。
普段はそんな素振りはあまり見せないが、きっとひとり店に居る時はかなり不安だったのではないか。
店の借金、経営、春樹の学費……。またいつ来るかも分からないあの男達……。
全て自分で背負い込んで、それでも毎日笑っていた。
「…………」
彼女は頼りにしてくれていたんだ。こんな、どうしようもない男でも。そこに居るだけで安心していたのかも知れない。
それに、さっきの電話……。
彼女がワン切りなんてする筈が無い。
……嫌な予感がした。
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