その時、ドアが開き。片手で茶器が乗ったトレーを慎重に運ぶなつみが入って来た。

「焙じ茶で良いですか?」

「いや、俺はそろそろ失礼する。……カツサンド美味かったよ。今度、君の店に食いに行くよ」

「ほんとですか?是非っ!!お待ちしてます」

「わざわざありがとう。堂島君」

なつみは「じゃあな」と品田に別れを告げた堂島を、廊下まで見送る。


「辰雄の事、宜しく頼む」

そう言うと、堂島は帰って行った。





病室に戻ると、品田は二つ目のカツサンドに手を伸ばすところだった。

なつみが淹れたお茶をサイドテーブルに置くと、パイプ椅子に腰を下ろした。

「訊いてもいいかな?」

知りたかった。彼が何故こんな大怪我をしたのか。


「金崎組に一人で乗り込んだってほんとなの?なんでそんな危ない事……?」

品田は、真面目な顔になり焙じ茶をひと口啜った。そして、ポツポツと話し始めた。

リンクスに嫌がらせをしていた地上屋と、金崎組というヤクザが繋がっていた事。
今回リンクスが襲われたのも、金崎組の差し金だった事。
本当の目的は、借金では無く土地だった事。

「このままだと、嫌がらせもどんどん酷くなる。店だけならまだいい、君や春樹君に被害が及んだら……。取り返しがつかなくなる前に、何とかしたかったんだ」

そこまで言うと、品田は少し考える。

「いや……その前に、リンクスをあんなにした奴らが許せなかった」

「だからって、無茶すぎるよ。死んじゃったかもしれないんだよっ!?」

責めるように言うなつみに、品田は小さく頭を下げた。

「ごめん。……でも俺、今の状態のままの二人を置いて帰れないと思ってたから」

「だからって……」

なつみは、包帯だらけの品田の手に、自分の両手をそっと乗せた。

「それで品田さんがこんな傷だらけになるんだったら。私、嬉しくない……」

「なつみちゃん……」

「……全然、嬉しくないよ」

「……ごめん」

申し訳なさそうにうな垂れる品田の姿に、なつみは胸が苦しくなる。


────……違う。

むしろ、謝るのは自分の方だ。
品田が一人リンクスの為に闘って傷ついていた時、自分はその店を手放そうかと考えていた。

────最低だ。


急に涙が溢れて来た。泣き顔を見られたくなくて俯く。

「……なつみちゃん?」

困惑した品田の声が聞こえる。

「心配させてごめん。もう、こんな事しないから、だから泣かないで……ね?」

品田が困った顔をしているのか、容易に想像がつく。それでも、涙は止まらない。

「……めん……」

「え?」

「ごめんなさい……」

涙で震える声で、精一杯絞り出す。

「何でなつみちゃんが謝るの?」

「私……、リンクス手放そうと……してた」

「…………」

「そうしたら、楽に……なれるかなって。品田さん……身体張って守ろうとしてくれた店を……なのに、私」

そこで、言葉が詰まってしまう。すると、品田の大きな手が、なつみの頭の上にぽすんと乗った。


彼の温かくて大きな手は、なつみが泣き止むまで、ずっと優しく撫でてくれた。


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