来る時も手を繋いでいた筈なのに、なつみはなぜか恥ずかしくなり俯いてしまった。

無言のままぎこちない空気で歩く二人は、何だか付き合いたての高校生のカップルのようだ。
いつの間にか、降り始めた雪の中。
二人はリンクスに着いた。

どちらともなく手を離し、鍵を開け中に入る。

「あー……えっと、おやすみ……」

「なつみちゃん」

気恥ずかしさを引きずったままなつみが言うと、不意に品田になつみを呼ばれ振り返る。途端に、その大きな身体に抱きすくめられ息が止まった。

「ちょっとだけ……このまま……」

「…………」

小さく耳元で言われ、初めは驚いたなつみだったが、そっと品田の背中に腕をまわした。
シンと静まり返る店内。
遠くでクラクションの音が聞こえた。



暫くそうしていたが、ゆっくりと品田が身体を離す。

「……おやすみ」

そう言うと品田は先に階段を上って行った。

寒い中歩いて来たはずなのに、今ので一気に体温が上昇してしまった。
シャワーを浴びて寝ようと、なつみも二階へと上がった。




その日の深夜。

品田が借りている部屋。
電気もつけない暗がりで、窓から差し込む街灯の灯りを頼りに品田はノートの切れ端に何かを書いていた。

「…………」

書き終わると、ボストンバッグを片手に部屋を出る。
なつみはもう寝てしまったのか、彼女の部屋からは物音ひとつしない。

足音を忍ばせながら二階の出口からそっと外へ出る。

韓来の帰りに降り始めていた雪は大粒になり、すでに道路を白く染めていた。

────ここに来た時もこんな雪だったっけ。

品田はリンクスを仰ぎ見た。

このまま、ここに居てもなつみへの未練がつのるだけだ。これ以上彼女と離れがたくなるのが怖かった。

少しの間、黙ってそうしていたがおもむろに背を正すと、品田は店に一礼し歩きだす。

やがて止めどなく降り続く雪は、リンクスから続く品田の足跡を綺麗に覆い隠して行った。




「品田さん?そろそろ朝ご飯だよ?」

いつもの時間になっても起きて来ない品田を起こそうと、なつみは彼の部屋をノックした。
……が、何の返事も無い。

「品田さん?」

ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。
そっと部屋を覗き込んだなつみの動きが止まった。

そこに部屋の主は居なかった。
綺麗に畳まれた布団と、無くなった品田の荷物に彼がここを出て行ってしまったのだと直ぐにわかった。

フラフラと部屋に入ると、テーブルの上の紙に気が付いた。

“お世話になりました”

ノートの切れ端に、お世辞にも綺麗とは言えない字でそう書かれていた。

「黙って出て行くなんて……酷いよ、品田さん……」

なつみは呆然とした顔で、その場に座り込んだ。


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