十数年分の独白

好きな人ができた。
否、正しくはずっと好きだったけどそれが恋的な意味で好きだと気づいたのが今さっきというだけ。

気づいたのは、少女漫画を読んでいる時に私と同じすぎたから。顔を見るとどきどきしたり、他の人のところに行くのが寂しくて嫌だったり、会うだけで一日が楽しいだったりと。その漫画の女の子は、好きだとわかった瞬間告白をして、無事に付き合うことが出来ていた。
実際、そんなにうまくいくはずは無いと分かっているけど、この女の子に感化されて今日告白をすることにした。

すぐに好きな人である夏目くんに『今から海行こうよ、というか海で待ってるね』とだけ送った。
夏目くんが気づかなかったらそれはそれでいい。神様がきっと今日告白するのはダメだと啓示だと思うから。



自転車に乗って、海に向かうけど当然のように夏目くんはまだ来ていない。
メールを確認するけど既読すら付いていない。
そりゃそうだ、今は夜の23時をとっくに過ぎている。

来ないだろうなと思いながら、防波堤の上を歩く。
もし、夏目くんが来たらなんて告白しよう。
好きです、かな?それとも、と考えるけど、全く思いつかない。世の中のすきな人がいて、告白する人すごいな……なんて感動を勝手に覚える。


夜の海は静かだ。だから、物音が通り、人が来たならすぐに気づくことができる。
防波堤の端まで歩き、もう帰ろうかななんて思った時、丁度こっちに走ってくる足音がする。
遠くからでもわかる、今走ってきてるのは夏目くんだ。

「夏目くん、来てくれてありがとう」

「こんな夜遅い時間になニ?明日も早いんだよネ」

「ご、ごめん。早く用事済ませるね」

どうしよう、夏目くんが来ると思って無かったから告白の言葉なんて考えてなかった。すき!でいいよね?夏目くん、今日は月が綺麗ですねとかじゃないとダメとかないよね?

「ねエ」

「あ、えっと……あのー、その、す、」

言えない。言えるわけない。よく考えたら夏目くんはアイドルなのだ。まず確実に告白は受け取ってもらえない。
それに、夏目くんは月光に照らされてこの世で1番素敵な人になって目立っているから、いつどこでパパラッチが撮られるか分からない。そうしたら、私に影響は何も無いけど夏目くんには多大なる迷惑がかかる。なら、今すぐに家に帰らせた方がいいよね。でも夜遅くに呼び出したのにも関わらず、危ないから帰ってなんて無責任なことは言えない。

なんで呼び出しちゃったんだろ……。
目にじわりと涙が浮かぶ。

少しだけ風が止んで、時が止まったように感じる。

「話聞いてル?」

「あ、ごめん。何の話?」

「このコンパスのことだヨ」

「コンパス?占い道具?」

「……ボクにとっテ、大切なものだヨ」

夏目くんはとても悲しそうに微笑んで、大切だといったそのコンパスを海に投げ捨てた。

それはぽちゃりという音ともに沈んでいく。投げ捨てられたコンパスが月光に反射してきらりと光ながら海に沈んだ。

「え!?捨てていいの!?だめでしょ!!!なにしてんの!?」

「いいんだヨ、もウ……」

「そうなの?ほんとにいいの?今ならまだ取り戻せるよ」

「いいヨ」

「そう」

「それデ、話ってなんなノ?ボク、そろそろ家に戻りたいんだけド」

「そうだよね、!夏目くん、一言聞いてくれる?」

「うン。聞くために来たんだしネ」

覚悟を決める。告白をしていいのは今日のたった一度だけ。
振られたのにまた告白するなんてアイドルをしてる夏目くんに迷惑をかけるだけだ。振られたらここでさようなら。
だから、顔をちゃんと見て告白をしようと夏目くんの顔を見る。

こんなにかっこよかったっけ?
すきだから、すきな人フィルターでもかかってるのかな。

「ちょっと待っテ、先にボクの話聞いテ」

「うん、いいよ」

「なまえがすき」

「まって、今なんて?」

「好きだヨ。君は好きな人がいるって聞いタ。だからボクは君に振られにきたんダ。……振ってヨ」

嘘。
うそ。
うそだ。

夏目くんが私のことを好き?そんなことある?
思わずほっぺたを引っ張ってみて確認するけど痛いから、これは現実。
涙がほろりと零れるのを感じる。

「なんで君が泣くノ?泣きたいのはボクの方なんだけド」

「だって……夏目くんが私のことを好きって言うから」

「そんなに嫌だっタ?ごめン、泣かせるつもりは無かったんだヨ。本当ニ」

「ちがう!私は夏目くんが好きで、でも夏目くんは私なんかのこと好きなはずないと思ってたから、うれしくてうれしくて」

「私なんかって言わないデ。ボクにとっテ、君は世界一愛しい人だかラ」

「っ、……泣かせないでよ」

「なまえこっち見テ」

言われた通り夏目くんの方を向くと、夏目くんもうっすらと涙を浮かべている。それに笑みも浮かんでいる。
ただ、さっきと違って悲しそうではなく嬉しそうに。

「ボクと付き合ってくれる?」


その声は、少し震えたように、訛りが無いようにも聞こえた。


「うん!もちろん、だいすきだよ、夏目くん!!」

「よかっタ」



月光が見守る夜、私たちは幼馴染から彼氏彼女という関係にひとつ駒を進めた。




――――――
2022.9.
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