おやすみ




「仕事終わってないから、先に寝ててよ。すぐ行くからさぁ」


リビングでテレビ見ながら泉くんを待っているとそう言われた。
言われた通り、寝室に来るけどさっきテレビを見ていたせいで全く眠たくない。1ミリも。だから、布団に入ってスマホを触ってると突然ドアが開く。


「スマホ触るなら電気つけなよね。体に悪いんだからさ」

「ちょっとだけだからいいと思ったの」

「俺がすぐ来れないのわかってたでしょ。スマホを見るなら、電気をつけるか見ないならさっさと寝なよねぇ。体に悪いんだからさ」


泉くんには私がスマホを部屋真っ暗の状態で見てることがお見通しみたいで、わざわざ電気をつけに来てくれた。
けど、電気を消しているのは暗いとひとりでいることをいやでも
分からされるから。スマホを触ってるのは、気を紛らわすため。
どっちも泉くんが横にいてくれれば解決するのに。


「寂しいから早く終わらせて、仕事」

「すぐ終わらせるから、これで我慢しなよねぇ」


ベッドの脇に座った泉くんが優しく頭を撫でてくれる。そして、
口じゃなくてまぶたに唇を落とす。


「もう少し待っててよ。すぐ終わらせるからさぁ」

「ほんとに?信じていい?無理やり言ってない?」

「俺もはやくあんたといちゃつきたいんだけど?あんたは俺のこと信じてくれないわけ?」

「信じてるよ。待ってる、がんばって」


泉くんを送り出して何回もスマホで時間を確認して1時間を過ぎたあたりでそっと寝室を抜け出して、リビングに向かう。仕事の邪魔はしない、泉くんがもしかしたら寝落ちしちゃってるかもしれないと心配してるだけ。リビングの扉にそっと近づいて中を覗くと、
泉くんはスマホで電話している。悪いなと思いつつ耳をすまして、何を話してるんだろうと聞くと「はぁ!?何言ってんの!?もう夜の1時なんだけどぉ!?馬鹿なわけ!?明日でもいいよね!?」や「はいはい。わかった。今からしたらいいんでしょ」と喋ってる。会話の内容的に、今からまたお仕事っぽくてまだまだ来れないか、ってなる。泉くんは明日でもいいって言ってたけどきっと誰かの
わがままで今からまた仕事なんだって思ったら、もやもやする。
泉くんが今からするのは仕事であって、遊びじゃないから何も言う筋合いなんてなくて文句なんて言っちゃだめなんだけど。
すぐ来るって言ったのになんて次は泉くんにだんだんと腹が立ってきちゃって。けど最後は、泉くんのお仕事相手や泉くんにそんな
酷いことを思っちゃう自分に嫌気がさしてくる。
結局布団に逆戻りして、布団に体をくるめてそっと涙をこぼす。

すぐ来るって言ったじゃん。すきな人にこんなことを思ってしまう自分が嫌だ。泉くんの嘘つき。泉くんは嘘つきなんかじゃない。
私のことなんかほんとはどうでもいいんでしょ。仕事の方が大事に決まってる。

泉くんを責め立てるような言葉と自責の言葉が浮かんでは消え、
浮かんでは消えを繰り返す。こんなことを悶々と考えては、自分が苦しくなるだけだからと無理やり寝ようと意識を変えるけど、
寝ようと思ってそう簡単と寝る事は出来ない。脳内にちらちらと
さっきの最悪な自分が映し出されて。
結局、泉くんがなかなか来ない悲しさとそんなことを考えてしまう自分への腹立たしさで泣き疲れて眠りについた。


× × ×


何時間後かにドアが開いて泉くんが寝室に入ってくる。
ドアが開いた音でうっかり起きちゃった、なんて言えず、息を潜めて、
泉くんの動向を伺う。
さっきみたいにベッドの横に座りこんで、つらつらと懺悔を告げ出す
泉くん。


「ごめん。泣いてた……?俺、最悪すぎでしょ」

「わがまま言ってくれたら、すぐ仕事を終わらせてあんたと一緒に寝たのに」

「そんなの俺のことだいきなあんたが言えるわけないのにね」

「俺と付き合ってることも言わせてあげられないし、我慢ばっかりさせて、はぁ……俺、最悪。しあわせにするとか言っておきながら泣かせるとかありえないんだけど」

「あんたとの時間が取れない仕事ちょーうざぁい」

「明日あんたと1日過ごすために明日の分終わらせないと。なんかあんたの顔見るとやる気がでるんだよねぇ。いい夢見るんだよ」


またまぶたにキスをして、部屋を出ていった泉くん。
スマホで時間を確認すると、泉くんが寝室に来たのは私が1度寝てから2時間後。ようやく仕事が一段落して、寝てるか確認しに来ただけ。明日私との時間を取るために今からまた仕事をする泉くんを思うと泉くんはこんなにも私の事考えてくれてるのに私はわがままばっかで、最悪な彼女だ……って心臓が痛くなる。それに泉くんの心の声をこっそり聞いちゃったから、その分余計に苦しくなる。
泉くんの声から疲れてることはわかったのに、これまた自分のためにまだ仕事をがんばるのかと思ったらあんまりにも辛すぎて、明日私との時間を取れなくていいから寝て欲しいと素直に思った。

リビングに向かうと眼鏡をして、横にはブラックコーヒーを置いてパソコンに向かう泉くん。
扉を開けるとすぐに私の存在に気づいて手を止めて視線をこっちに向けてくれる泉くん。その目は充血していて。
泉くんに駆け寄って、抱きしめる。


「喉でも乾いたの?」

「乾いてない。泉くん、ごめんね」

「なんであんたが泣いてんのぉ?」

「明日私と過ごさなくていいから、今日はもう寝てよ」

「はぁ!?あんた聞いてたわけ!?」

「ごめん、ドアの音で起きちゃって」

「起きたなら起きたって言ってよねぇ」

「次からはそうする。とりあえず今日は寝てほしい。私のわがまま聞いてくれる?」

「もちろん」


× × ×


今取り掛かってた仕事を爆速で終わらせた泉くんは、すぐに寝室にやってきた。
布団の中に入ると、私を抱きしめてから首に顔を擦り寄せる。


「明日はあんたと1日いれるからね」

「ほんと!?」

「仕事邪魔しないなら横にいること特別に許可してあげる」

「邪魔しない!横いる!」

「元気なのはいいけど、何時だと思ってんの?」

「……3時」

「早く寝るよ」

「まだしゃべりたい」

「明日1日入れるんだから我慢してよ」


明日、久々に1日ずっと泉くんと入れるんだ、と思うとにやけちゃって「馬鹿」と頭を叩かれる。


「おやすみ」

「おやすみなさい、いい夢見てね泉くん」

「そっちこそ」



――――――
2022.10.






back // top