蠱惑的な甘い人




思ってしまう。私と日和くんの関係は公にしないと日和くんから提案してきたのに、まるでバラしにいってるかのような行動が多くて本当は周りにバラしたいのではないかと。


× × ×


今日は日和くんの所属するユニットのEdenと同じ雑誌の撮影があった。

メイク、服と全て魔法をかけてもらって、かわいくなった私はバラエティで共演したり、他の雑誌でコラボを組んだりで何度も会ったことのある私たちだけど最初にはもちろん今回この撮影に関わる人を交えて挨拶があったので挨拶をしに撮影現場となるスタジオに向かう。

視界の端にEdenのみなさんが集結しているのがわかる。全員が圧倒的スタイルの良さでそこだけ顔面スタイル偏差値爆上がりしていて、そこに挨拶しに行くのが躊躇われるレベルだ。
それに普段の衣装は肌が見えないイメージがあって、今日の撮影では腹チラ、腕がガバッと空いている、鎖骨が見える、などなどと目に毒な衣装。彼氏である日和くんは髪をワックスでまとめているからピカピカしていて、色気増し増し。服は服であちこちに穴が空いていてえろい。
じっと観察していると、私の視線に気づいてくれたみたいで向こうからやってくる。それと同時にスタッフさんも私たちの周りに集まり自動的に挨拶が始まる。

「久しぶりであります!」
「七種さんお久しぶです、みなさんも。みょうじなまえです、本日もよろしくお願いします」
「七種茨であります」
「乱凪砂です。よろしくお願いします」
「漣ジュンです、よろしくっす」
「ぼくは巴日和だね!みょうじさん、がんばろうね」

Edenのみなさんは周りのスタッフさんとかにも目線を向けて挨拶しているにも関わらず、日和くんだけが私の方をずっと見続けていた。
話をしている人の方に目を向けるのは社会人どころか人としての常識だから日和くんが話している時は日和くんの方を見るのだが、延々と目が合って少し気まずい。流石に熱視線すぎてわかりやすすぎないか。
七種さんからも視線を向けられている気がして、というか向けられているからもっと居心地が悪い。
の上で名指しだ。居心地悪いにも程がある。

「あ、はい。よろしくお願いしますね」
「元気が足りないね?」

誰のせいだと。
日和くんがそういう行動を取ることで周りからの視線がきつい。きっと日和くんのことをすきなスタッフさんからの何あの女みたいなやつ。

「撮影は大丈夫ですので、ご心配なく」
「そんなこと当たり前だね!」

監督の「今日はよろしくお願いします!!ではさっそく始めましょうか!」という鶴の一声。同時にここからはお仕事だからと七種さんからの怪しい視線もスタッフさんからの妬みの視線も消えた。



撮影イメージは私を女王様、彼ら四人が臣下みたいな感じだった。
撮影に入ると私は背が横に大きく高さもある王が座るような椅子に膝を組んで座る。四人各々私の椅子にもたれかかるようにポーズをとる。
乱さんは椅子の背もたれに寄りかかり、七種さんは私の横に座り手置きに肩肘をついて、漣さんは私の足に絡みつくような姿勢を取っている。自由自在な撮影スタイルでそれがいい感じになるのがEdenのすごいところだ。
その時の日和くんと言えば、左側の手置きに片手をついてもう片方の手で私の手をにぎにぎしていた。決していやらしくはなく、疲れた手をマッサージをするように。
そんな日和くんの行動をカメラマンさんは咎めることなく、むしろ「いいね!そういえのどんどんして行こう!」などと言うから、カメラマンさんの要望に答えるように右斜め後ろにいた七種さんが私をバックハグするような姿勢をとった。
日和くんとそういうことをするのは慣れているけど、気をしっかりしていないとくらくらしゃうようなそんな甘い匂いを漂わせる七種さんにバックハグされてついドキドキしてしまう。
ついよそ見をしてしまった私を咎めるように日和くんは私の手の甲をつねる。

「ぼくのことだけ見ていればいいね!」
「おひいさんは何言ってんすか」
「今日の日和くんは調子がいいね」
「殿下、さすがであります!」

日和くんの言葉にEdenの会話が始まる。仲がいいな。
会話している時も私の手を握ったり、つー、と私の指をなぞったりと楽しそうな日和くん。

「さっきからおひいさんずっと何してんすか、すきなんですか」

本人やスタッフさん、カメラマンさんがいるとこでも容赦なくプライベートな所に突っ込んでくる漣さんさすがだな。
いや、もしかしたらこんな甘い雰囲気を漂わせる日和くんと私が付き合っていると一人ぐらいは思っていそうなことに漣さんは気づいた。そしてわざと日和くんに聞いて否定させることで私たちはただの仕事仲間だから噂立てんなよと遠回しに言っているのかもしれない。
そんな事を考えてる私を放置して頭上で会話があれこれと飛び交う。

「自分も気になっておりました!彼女とはどのような関係でありますか?」
「え、っと、あの、」

撮影中なので周りにはマネージャー含め複数のスタッフがいるので勘違いされたら困る。その勘違いは間違いでは無いけど、間違いということにさせてほしい。だからすぐさま弁解しようとするけど、なんて言ったらちゃんと伝わるかを考えると困っちゃって日和くんを見ると視線で私に余計なことを言うな、と日和くんが言ってきたので黙る。

「ぼくと彼女は友達だね!」
「ほんとっすか。怪しすぎますけど」

ほんとに容赦無いな。

「ジュンくんは信じてくれないの?」

自分の顔の良さを理解しているが故に出来る必殺うるうる&信頼関係作戦に出た日和くんに思わず笑いそうになる。

「いや、まぁおひいさんがそう言うなら信じますけど」



この後も何度かひやひやすることがあったが何とか撮影が終わった。
撮影後のお菓子自由に食べていい差し入れのコーナーにいると、誰かが近づいてきて足音が徐々に大きくなる。
この音と近づく度に香る匂いから日和くんだと分かるけど、気にせずにお菓子を吟味していると後ろから日和くんが抱きしめてきた。日和くんから安心するような暖かく甘い匂いがする。つい身を委ねたくなるような大好きな匂い。
それにしても人目が今は無いからいいけど、いつ来るかわからないのに危険すぎる。Edenの人と私だけの五人の空間なら何とか黙ってもらうよう融通を利かせられそうだけど、スタッフさんとか無差別に人が入り組むスタジオでは危ない。差し入れコーナーは撮影スタジオの端っこにあるから見ようと思えば誰でも見ることができるのだ。

「ここはだめでしょ。見つかっちゃうよ」
「消毒」
「消毒?」
「茨くんに抱きつかれていたでしょ?簡単に抱かれてはいけないね!隙があるね!」
「撮影だからしょうがないよ」
「それでもだね」
「とりあえず離れて、ほんとに人来ちゃう」

そう言うと渋々離れてくれる日和くんだけど、適当にお菓子をとって次はあーんしようとしてくる。
本当にどうしたいのか。
男の子はスリルが好きというが、日和くんもそのタイプ?と思うけど天下の巴日和さまをネットで書いてあるような人に当てはめてはいけない気がする。絶対に。なら余計にどうしてこんなことをするのかと不審な気持ちが増してくる。お互い今は売り出しの大事な時期で将来のために、スキャンダルを起こすべきじゃないのだ。それはお互い分かっているつもりだったから、日和くんの「僕たちの関係は秘密にしておくべきだと思うね!」という言葉に私は頷いた。
なのに言い出しっぺの張本人は呑気に私にチョコレートを餌付けしようとしている。

「あ〜ん」
「自分で食べれるよ」

日和くんの手からチョコレートを奪い取って自分で食べる。
口に入れると少しずつ溶けてきて、甘さで口が満たされる。おいしかったからともうひとつ食べようとすると同じチョコを歯で挟んだ日和くんが口移しの形でくれる。
唇同士が触れることはなく、ただただチョコが渡されるだけ。
何回もキスをしたことはあるし今更照れることもないけど、この場所にいるのが特別感を出していつもよりどきどきする。

「顔真っ赤。かわいいね」

私だけがどきどきしてる。
日和くんはすまし顔。それに対して私は心拍急上昇で顔が鏡を見なくてもわかるほどに赤い。
私だけがどきどきしてるのはずるい。対抗して私もさっきの日和くんの真似をしようとチョコレートを歯で挟むけどタイミング悪く七種さんが迎えに来て、がりっとチョコレートを噛んでしまう。それを見て笑う日和くんと、何がなんだか分からずただ要件を伝える七種さん。

「殿下!そろそろラジオ撮影に向かわなければなりませんよ!……お話中でしたか?」
「大丈夫だよ。じゃあまたね、みょうじさん」
「あと少しなら大丈夫であります!自分は先に戻っています」

空気を読んだっぽい七種さんの感じを見ると多分私たちの関係バレちゃってるな。

「ばか!もう戻る!」
「心配することは無いね。茨くんなら気づいても誰にも言わないからね」
「そうなの?……ってそんな問題じゃないでしょ!万が一があるでしょ!!」
「茨くんを信用して欲しいね。それに、ぼくは記者に抜かれたらいいのにって思ってるよ」
「七種さんは信用するよ。でも、周りのスタッフさんとか」
「みんな忙しそうだからね!きっと大丈夫だよ。じゃあなまえ、続きは家に帰ったらね?」


苗字や名前を使い分けて呼ぶあたり魔性の男



――――――
2022.11.9
2023.2.15(加筆修正)






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