気づいて
*普通の学校if
少しでも司くんにかわいいって思って欲しくて、唇に薄くピンクのティントをのせる。メイクNGの学校じゃないからみんなはしているけど朝が起きれなかったりとなんやかんやで今までメイクをして学校に行ったことはない。
けど今日はいつもより5分早く起きた。いつも起きると決めている時間を普段は10分過ぎて起きているから、実質15分も早く起きれたの。それはきっとすきな人にかわいいと思って欲しい力から来ている。
普段よりヘアアイロンの温度は少し高めで。ヘアピンはピンクの小さなリボンを顔の横につける。かわいいものを身につけると少しだけ強くなれる気がするから今日だけ特別。
恋する乙女はかわいい。そんな言葉は信じていないけど、鏡越しに見える自分はいつもよりほんの少しかわいく見える。
少し艶々しすぎたかな。でもこれぐらいしないと司くんは気づいてくれないかも。
気づいてくれるかな?気づいてくれないかな?と通学電車の中は考え続けてうっかり乗り過ごしそうになった。駅から少し歩くと学校の門が見えてくる。門をくぐり、司くんが前を歩いているのが見える。追いつくために少し走って、司くんに追いつく。声をかける前に鏡で前髪の状態チェック。ティントが落ちていないか確認。家を出る前に確認したけどもう一度寝癖が無いか要チェック。全て終わって完璧な私になるとようやく司くんに声をかける。
「司くん!おはよう!」
「おはようございます。それは……」
「それは?」
「いえ、何も無いです」
「そう?」
唇に視線がいっているような気がして、というかいってた。目を一瞬細めて凝視していた。それなのに無反応。司くんは細かなことにいつも気づいてくれるから今日も気づいてくれると信じていたからこそ余計に落ち込む。
本当に気づいてないとかあるかな。もしかして肌が粉吹いてるのを見つけて管理できてないとか思ったとか?でもそんなことは無いよねきっと。だから気づいてるけど言ってないだけ。それって似合ってなさすぎて慈悲でなんとか褒めれるレベルにすら到達していないってこと?
考えれば考えるほど悪い方向に思考が流れていって、せっかくの司くんとのお話に集中できなくなりそうだからティントのことは一旦ほっておく。
「いえ、なんでもないです。それにしても今日は暑いですね、体育の授業が中ならいいですね」
「わかる。外暑すぎて倒れそうになるよね」
「はい。あ、体育館のクーラー壊れたと先週聞きました」
「それならどっちでも意味ないじゃん〜!でも影の方がまだいいかな?でも蒸し暑いよね!?やだなぁ」
「早く直るよう願いましょうか」
最初は私の口元に視線がいってたはずだから気づいてると思うのに、全く話題にもされなくて気づいてもらえていないのかと不安になる。
結局その辺りは有耶無耶のまま、司くんは職員室に用事があるからと廊下の途中で別々になった。
別れてから急いでトイレに行って鏡で確認すると、思ったより艶が消えてる。確かにこれは気づかないかもしれない。
でも、すきな人には気付いて欲しかったな、なんて。
× × ×
職員室に行くとか言ったのは嘘で、本当は普段より数十倍かわいいなまえに耐えれなくなっただけです。向こうの階段でゆっくり落ち着こう、と階段に座って考えるのはなまえのこと。
普段から世界一かわいいのに今日はtintなんかを塗って……
もしかしてすきな人ができた、とかですか?
まさか!私ができるだけ横にいるのでなまえにそのような人がいる気配はないのですが。私の気づいてないところで……?
考えてもこういうのは止まらないです
それでも本人に今日は何か用事があるのですか?など聞く勇気も、かわいいですと褒めることもできないから、こうひとりする羽目になります。そろそろ伝えたいですが、付き合ってもないのになまえのことをよく見ているとか気持ちが悪いでしょう?
それにしても既に気づいてる私に気づいてほしそうにしているなまえたまらなくかわいくて愛おしいです
――――――
2022.11.11
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