ある朝のこと
影片を起こすのは私の役割。今日も朝の六時に起きてこない影片を寝室に迎えに行く。
「影片、朝ごはんできたよ」
「んあ〜、あとごふん」
「だめ、起きて」
「けちぃ、」
影片の部屋のカーテンを開けて、布団を引き剥がして無理やり日の下に晒す。そうすると、影片は身を縮こまらせて太陽から逃げようとする。そしたら私の出番。
「影片は……私の朝ごはんいらないんだ?ふーん、私が二人前食べよ」
「あかん!起きるからおれの朝ご飯食べんといて」
「ふふ、は〜い。準備出来たらリビングにおいで」
影片は私のごはんがすきだから、食べれないかもしれないと分かった瞬間飛び跳ねて起きる。それがかわいくてたまらない。私だけが知ってる影片。もしかしたら斎宮さんも知ってるかもしれないけど、斎宮さんと影片は仕事仲間。私と影片は恋人。そもそもの土俵が違うから別にいい。それに、斎宮さんと影片の仲に割って入れる気もしないしね。何故か知らないけど私と斎宮さんの間に相互不干渉がある気がする。私は斎宮さんと影片が何をしていても口を出さないし、斎宮さんは私と影片が何をしていても見て見ぬふりをする。それがちょうどいい。
影片がリビングに来る前に急いで食パンを焼く。出来たてのを食べて欲しいからいつもギリギリまで焼かない。
影片と知り合いになってもう十年は経つけれど未だに影片のすきなものが分からない。だからトーストにのせる食材は私好みになっている。ケチャップを塗って、ハムをのせ、スライスチーズをのせて2度焼き。その上に昨日買ったまだ新鮮であろうレタスを2枚、最後にたんぱく質として目玉焼きをのせて完成。
出来上がったトーストをリビングに運んだくらいで顔を洗い、髪の毛も整えた影片がリビングに出てくる。
「おはようさん」
「おはよう。目覚めの調子は?」
「元気やで」
「それはよかった。じゃあ朝ごはん食べようか。今日は特別にハムが入ってるよ!」
「そうなん!?おれハムすきやねん」
「ふふ、ならよかった」
毎日少しずつ食材を変えて、影片のすきなものを調査してるけど何を入れてもすきだと言うからイマイチ影片のすきなものが掴めない。とりあえず脳内の影片メモにハムはすき、と書き記す。
そんなことを考えている間、先にトーストを食べた影片が「おいしいで!!天才やわぁ、ハムとチーズ合うなぁ」と言ってる。影片に喜んでもらえるなら嬉しい限り。朝から張り切って朝ごはんを作ったかいがある。
私も影片に続いてトーストを食べるけど今日もいい感じにおいしい。誰かを想いながら作る料理は自然と愛情がこもっておいしくなる。それに、大切な人と食べるごはんはおいしいから相乗効果が働いている気がする。
「今日は仕事が遅くなると思う」
「おれが夜ご飯作っとくなぁ」
「いや、それは大丈夫。影片は家事とかしててほしい」
以前、任せてくれと豪語した影片に夜ご飯を任せたら味はおいしいけど栄養バランス偏りまくったのが出てきたその時から影片に夜ごはんは作らせないと決めている。
影片はアイドルだから栄養バランスがちゃんとしているごはんじゃないとスタイルも健康も維持できないだろう。
「んん?気ぃ遣わんてくていいんやで?」
「私が影片のごはんを作りたいの。だめ?」
「それならええけど、無理せんといてな?ほんまに遅くなるなら連絡してや、迎えに行くから」
「そうならないように早く帰らないとね」
「頼ってほしいのに……」
「影片を夜中に外に出すとか怒られちゃうからね」
「おれはなまえちゃんの彼氏なのに……」
「明るいうちに帰ってくるから大丈夫だよ」
そう言うとしぶしぶと言った感じで私がごはんを作ることを認めてくれた。
話が一段落ついて、時計を確認するとあと十五分もしたら家を出ないといけない。朝ごはんを影片と食べるといつも話し込んでしまって、家を出るぎりぎりの時間になってしまう。
「影片ごめん、そろそろ家出ないと……。ごめんだけど、残りは一人で食べてくれる?影片が食べ終わるの待てなくてごめんね」
「気にせんといてや。用意してき〜」
「ありがと!準備してくる!」
もうそこからは爆速歯磨き。ポニーテールに髪の毛をまとめて、メイクをささっとする。時間制限があるとメイクって最低三分で仕上がってしまうのすごいと毎日感動してしまう。
そうこうしてるともう家を出る時間になる。
「影片のお弁当は冷蔵庫に入ってるから持ってってね」
「ほんまに?やった!お昼もなまえちゃんのご飯食べれる!」
「昨日の残り物とかばっかりだからあれかもしんないけど……じゃあ、もう行ってくるね!」
急いで玄関に向かって、靴を履いていると後ろからぱたぱたと影片がスリッパの音を立てながらやってくる。
毎日毎日お見送りをしてくれる影片。
「今日もがんばってな〜!なまえちゃん、こっち向いて」
これからされることは毎日しているルーティンだから分かる。今日もいつもみたいに目を閉じて影片に唇を差し出す。
それなのに今日は中々キスをされなくて、片目をちらっと開けるとしあわせそうな影片の顔が見える。
「影片、いじわる」
「ごめんなぁ、なまえちゃんがかわいくて……」
そう言って、優しく私の頬に手を添え唇を一度重ねる。影片とのキスは癖になるからもう一度したいけど今日も時間が無いからここまで。
「続きは帰ったら!じゃあ、いってきます!」
影片との行ってきますのちゅうは一日がんばる元気の源
――――――
2022.11.15
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