これ以上無いほど
誕生日くらい当日に帰ってきてほしい、なんて思うことを許して欲しい。普段から忙しい彼だけど誕生日くらいは、ね。
「今日は早く帰ってきますから、待っててください」そう言って家を出ていった彼は、日付が変わる2時間前に「仕事がまだ終わりそうにないです、日付が変わるまでには必ず帰りますから」とメールが来ていた。そのメールは結局既読スルーのまま放置している。
司くんに誕生日祝ってほしいなぁ、って勝手に期待して、無理そうだと分かったら気分が急降下してしまった。そんな状態の今返信したらきっと司くんを傷つける言葉しか出てくる気がしないから。
ソファの上で目を瞑ったり、伸びをしてみたり、と待ってるけど一向に帰ってくる気配がない。
もう既に時計の短針は1の数字を指している。
あ〜あ、帰ってこなかったな……。諦めて寝ようかな。
という私の心を見透かすように玄関のドアが開く音がした。
部屋に飛び込んできた司くんはライブ衣装みたいな白色のスーツを着ていて。手には紙袋とバラの花束。
「ただいま戻りました!なまえ起きてますか!?」
「起きてるよ、おかえり」
「はぁ、よかった……。間に合わなくてごめんなさい」
「大丈夫だよ、お仕事おつかれさま、お風呂行く?」
「触れないんですか?このバラとか、服とか」
「わざわざ私から触れるものでもないでしょ?」
口ではかっこつけるように言ってるけど気になるのは気になる。家の中にリアル王子様がいるんだから。シンプルな家に似つかない服装。
「なまえここに座ってください」
指定されたソファに座り、司くんの言葉を待つ。
「お誕生日おめでとうございます、過ぎてしまってすみません」
「気にしてないよ、忙しかったんだもんね」
「それでも、私は気にします!」
「毎年誕生日は来るよ」
「 なまえの21歳の誕生日は1度しか来ないのですよ!?」
「司くん今日どうしたの?なんか怒ってる?」
「はい、司は怒ってます!怒ってくださいよ、なまえ。なまえはいつまで聞き分けのいい子でいるのですか?なまえが本当は誕生日を当日に祝ってほしいことぐらい見ていたら分かります。我慢せずに司に言ってください!」
隠そうとしても司くんには、私が当日に祝ってほしいと思っていたことがバレてる。
その上、なんか知らないけど涙が溢れてきて、自分でコントロール出来ない。
「泣いているのですか?言いすぎました。泣かないで、なまえ。なまえに泣かれると司、どうしたらいいかわからなくて困るんです。すきな人を泣かせたくないのに、泣かせてしまう自分が恨めしいです……!」
「ごめ、すぐ泣き止むから……っ」
「司になまえの気持ちを聞かせてくれませんか?」
「ほんとは、いわってほしかった!!」
「当日では無いですが今から誕生日会をしましょう」
「まだ終わってない!ちゃんと聞いて!今日帰ってくる、って言ったじゃん。日付変わって、も帰ってこないし……。私だけ司くんのことが、すきなのかと思うし。今しゃべったら、司くんを傷つける言葉しか出ないからしゃべりたくないけど、しゃべらなかったら司くんを、困らせることになって。でも、困らせたくないの。だから、しゃべる。けど、司くんのこと、傷つける言葉が止まらない。言ったら司くんを傷つけるでしょう?そして私のこと嫌いになって……でも、すきなの、私は。どんだけ司くんが、私を、すきじゃなくても私はすきなの……だから」
''きらいにならないで''は言葉にならなかった。
否、言葉にさせてもらえなかった。
「その先は言わないで。司はなまえのことをすきです。愛してるから、」
司くんは、涙が今も尚止まらない両目の瞼をそっと触れるだけのキスをする。
そして、恥ずかしそうに「これ受け取ってもらえませんか?」とバラの花束を渡される。
「何本?」
「そこを気にするのですか!?普通わー!すごい!とかじゃなくて!?」
「すごいな、と思うけど。司くんだし、ね?」
「そういう人でしたね。101本あります」
「100本じゃないの?」
「101本の意味を知っていますか?」
「知らない、すきとか?」
「惜しいです」
「えー、だいすき?」
「ちょっと近くなりました。正解は―――――――――――――」
そっと囁かれたその言葉にきゅんとして、さっきまでのよわよわメンタルが回復する。
「司くんそんなに私のことすきなの?かわいー」
「なまえの方がかわいいです、それでなまえ、ひとつお話を聞いてくれますか?」
「いいよ」
「司は、なまえのことが愛おしくて堪らないほどだいすきです。なので、……なので、」
「ふふ、結婚してほしい?」
「もう!なんで言うんですか!?私からそういうのは言うでしょう!?」
当たってたみたい。
だから、王子、いいや、騎士の格好をしていたんだね。
プロポーズの言葉に躊躇うところも、
私のことがだいすきなところも、
全部全部
''これ以上無いほど愛しています''
――――――
2022.10
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