冬
※学パロ
寒いですねに抱きしめてくださいという意味があると今日知ったけど、天祥院先輩は知ってるのかな、なんて1度思ってしまうと好奇心はそう簡単には無くなってくれない。あらゆる方面に博識な先輩なら知っている気がする。とりあえず使える機会があったら使ってみようと決心したのはホームルームの最中。明日の時間割変更とかテスト範囲とか大事なところだけ聞いて重要そうじゃないところは聞かずに先輩と今日はどんな話をしようと考える。先輩となら無言も心地いいけど、帰り道しか会えないから話をしたい。
普段先輩のことを考えていると時間が一瞬で過ぎるのにホームルームは未だ終わらず、先輩の方が先に待ち合わせ場所についてそうだなと申し訳なくなる。そんな長いホームルームが終わるとすぐに待ち合わせ場所の下駄箱に小走りで向かうと壁にもたれかかっている先輩がいた。やっぱり待たせてしまっている。来るのが遅くなってしまってごめんなさい、と謝ろうと先輩に近づこうとした時に正面からはっきりと姿を捉えた。先輩の伏し目がちな目、人が通る度に作られる風で揺れる白練色の髪、ちらっと時計を確認する仕草、そのどれもが絵になっていて思わず息を呑む。
少しの間、先輩を見ていると下を向いていたはずの先輩が顔を上げて目が合う。金春色に囚われてしまった私は動けなくなる。透き通っていて綺麗。私に気づいた先輩は右手を軽くあげてこちらに近づいてくると、鎖は解けて先輩に近寄る。
「お疲れ様」
「先輩もお疲れ様です」
「今日は来るのが遅かったね?」
顔は穏やかなだけでやっぱり怒らせちゃったかな。もう授業が終わって二十分は過ぎてるもんね。先輩の何より大事なのは時間で、そんな先輩の時間を無駄遣いしちゃってる。
「怒ってるんじゃないよ。ただ僕を見つけてから声をかけてくれるまでが少し長いように今日は感じたから」
「え、気づいてたんですか」
「あれだけ熱視線を送られたらね」
「迷惑でしたよね、ごめんなさい」
「そんなことないよ。とりあえず校舎から出ようか」
「はい」
私と先輩は学年が違うから下駄箱の位置も違う。だからここで一旦お別れ。「じゃあまた」と先輩が手を振ったので、小さく振り返してから上靴を脱いでローファーを取り出す。
今日は特段寒いと言われている日で、ローファーが冷たい。少し窮屈に感じるローファーを履くとそのまま先輩を迎えに行く。
三年の下駄箱に着くと丁度靴を履き替えた先輩がいた。
「先輩」
「さぁ、帰ろう」
下駄箱を出た私たちは肩が触れ合うくらいの距離で通学路を歩く。多分両片想いだと思われる私たちにとってこの距離は近いようで遠い。触れ合うだけじゃ足りない、もっと近づきたい。もう少し先輩に踏み込めたら手を繋いだりできるのかな。そんな雑念を振り払うように先輩に話かける。
「今日は何の授業をしたんですか?」
「数学と英語と化学とあと体育」
「その体育って中ですよね?」
「そのまさかで外だったよ」
「ひええ、先生鬼だ」
あわよくば手が触れ合えたらという邪な理由で手袋をつけていない手がかじかんできたからふーっと手の先に息を吹きかける。その際に口から出た息は白くなって、それは本格的な冬の到来を知らせる。
「冬だ……」
「二ヶ月も前から冬だった気がするけど」
「それはそうなんですけど、なんか息が白くなったら冬になったな〜って思うんですよね。それにしても今日はいつにもまして寒いですね」
「思わず風邪を引いてしまいそうだよ」
「それ先輩が言うとシャレにならないやつ」
今日は首元までおおわれたパーカーを着ているからと使っていなかったマフラーを鞄から取り出して先輩の首にかける。私が使っているマフラーは可愛げもない灰色の無地の男女兼用のやつだから先輩が巻いても違和感はなかった。
「いいのかい?」
「先輩に風邪引かれたら困りますから」
「ありがとう。じゃあ優しいきみに僕の手袋を貸してあげよう」
「いいんですか?」
先輩の鞄から出てきた手袋は黒色の革張りの高そうな手袋。高そうじゃなくてきっと高い。恐れ多くなりながら先輩の手袋をつけると中は裏起毛で暖かい。
先輩と交換なんて何だかカップルみたいで顔が熱くなるけど、その熱はすぐに冷たい空気によって冷やされる。顔は冷たいけど、先輩に借りた手袋に包まれた手は暖かい。
「とても暖かいです」
「それはよかった」
× × ×
先輩の手袋だ〜!と興奮しているうちに見慣れた駅が視界に入ってくる。先輩との会話は楽しすぎて時間が経つのが一瞬。朝の一人の登校の時は早く着けしか思わないのに、先輩との帰り道はあと二倍くらい長くても余裕だ。
「駅着きましたね」
「着いちゃったね」
「はい」
寂しい。もっといたいなんて言うのは迷惑かな。そんな私の心を見透かすように「明日も会えるからね」と呟く先輩。
「それもそうですね」
「そろそろ君の方面の電車が来るよ」
「お別れですね……また明日、一緒に帰りましょうね」
「もちろんだよ」
「先輩、また明日」
「またね」
別れの挨拶をすると改札を通る。振り返ると先輩はこちらを見て手を振っていて、私も振り返す。そろそろ本当に行かないと電車に乗り遅れちゃう、というとこまでお互い手を振り合った。
ホームに上がると丁度電車がやってきてナイスタイミング。電車に乗りこんでから寒いですねの意味を知っているか聞こうと今日は意気込んでいたのを思い出したけど、忘れてしまうほどに先輩との会話が楽しかった。
――――――
2023.1.24
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