雨音
雨がぽつりぽつりと降っている。
レッドは窓から垂れる雫の向こう、いつもより薄暗い外を見ていた。
「なぁ、ピカー……」
「ピ!」
何かを言いかけるレッドに、ピカは「だーめ!」と制止した。ピカにはレッドが何を考えてるのかなんてお見通しなのだが、今日だけは絶対に聞かないと決めている。
「だってさぁ」
口調はやんわりとしておりフンフンと口笛を吹いてご機嫌そうではあるが、ピカの意思は固いようだ。
早朝から今日もバトルの修行だと張り切っていたら隣にいたピカに突然「レッド、今日はだめ」と強引に室内へと引っ張られてしまったのだ。
『ピカ?』
『ピ!』
一体何だろうと首を傾げるレッドに、ピカはレッドの調子が良くないと伝えた。言葉は通じなくとも身振り手振りでレッドが心配だと言っている。だが、別段調子の悪い自覚はない。熱もなければ、怪我もしていないから支障はないはずだ。それなのにピカには調子が悪そうに見えるらしい。ニョロやフッシー達にも今日は休んでと宥められてしまい、レッドはしぶしぶ寝室にいるのだった。
空からは絶え間なく雫がこぼれている。窓にたまったそれが落ちて、ぴちゃんぴちゃんと定期的なリズムを刻んでいた。
「バトルしたいな…」
ぽつりと呟いたレッドの横でピカは、ベッドに飛び乗って丸くなった。自分も寝るのだという体勢を取りながら、未だ椅子に座っているレッドの状態を改めて確認する。顔色自体はそこまで悪くはないけれど。
ピカはボールに入らない分、レッドをよく観察している。
無駄に足止めしている訳ではない。自分だって、レッドと共に強くなりたい。沢山のバトルをして楽しみたいと強く思っている。けれど、今日は絶対駄目だと自分の勘が言っている。レッドはいつも元気だけれど、自覚がないから自分が止めなければ。
普段通りに見えて、いつもより緩慢な動作。雨だから低気圧の影響があるのも原因だろう。いつも隣にいる自分には些細な変化も手に取るように分かるのだ。そんな時に動き回ったって、倒れるのが目に見えている。雨の時は大人しくするのがいい。
ピカはベッドをぽんぽんと叩いて、レッドに早く入るよう促した。
『レッド』
「あー…、ピカには伝わるよな。さすが、オレの相棒」
ピカの真っ直ぐな視線に、レッドは頬をぽりぽりと掻きながら参った、と降参の意を示した。
実は連日バトルが上手くいかないこともあり、少し落ち込み気味な所があったのだ。そのせいか、昨夜はあまり気持ちよく眠れたとは言えず、むしろ少し居心地の良くない夢を見ていた。それを振り払うかのように今日もバトルだと張り切っていた部分があるが、自分の手持ち達は何でもお見通しのようだ。体調の指摘と共に、自分の落ち込んだ気持ちを察している故の「今日は休んで」なのだろう。
調子が悪い、か。言われてみれば体が少し重いような気がする。自覚すると尚更ドッと体に押し寄せた。勿論バトルばかりしているわけではないが、どうやらピカの言う通り疲れは蓄積しているようである。
レッドはピカに促されるまま、ベッドに横になった。
「雨か……」
腕で顔を覆ったレッドの耳に入ってくるのは、ピカの僅かな呼吸音と、外の雨の音。
ピチャン、ピチャン
雨樋に溜まる水の音。ニョロやギャラが喜びそうだ。でも、昨夜の居心地の悪さとは違って、今日はどこか違って聞こえた。なぜだろう?まるで雨が意思を持っているみたいだ。ピカがそっとこちらを伺う気配がしたけれど、何故か瞼が重くてそのままでいた。
レッドの疲れは雨のリズム良い音にかき消されていく。
ポツポツポツ…
「…ん……」
雨の音は安らぎを落としていく。それはまるで眠れ眠れと誘っているかのよう。疲れた身体をそっと撫でているかのように。思考を奪って深い眠りに。
ポツポツ…ピチャン
規則的な呼吸が聞こえて、ピカは静かにレッドの傍に寄った。
雨は水ポケモンが喜ぶものだけど、雨の日が苦手な人間やポケモンもいるだろう。暗いと気持ちが沈むこともあり、完治したとはいえレッドの手の痺れも出やすいかもしれない。でも、たまにはこんな特典もあるから、ボクは雨の日は嫌いにはなれないんだ。
今日の強すぎない雨音は、レッドに睡眠を促してくれると思った。強すぎる雨は不安感を煽って悪い夢を見やすい。けれど今日は静かで、心地良い音。疲れたレッドの身体を休めてくれるような優しい音。だから自覚のないレッドに説教もせず、ただ見守った。
雨の音は同時に癒しにもなってくれる。ヒーリング効果にも使われているっていうの、知ってるレッド?
自分はレッドと一緒に前に進みたいんだ。だから今日はゆっくり休んで。
ピカは眠るレッドにそっと布団をかけて、再び隣で丸くなった。
静かな雨の音がふたりを優しく包む。
おやすみレッド。明日はきっと晴れるから。
end...
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ユーザーテンプレ様。「rain」アニメーションに惹かれてお借りしました。