Birthday of your Music!



「あの、せんぱい?すみませんこの書類は生徒会に提出するものなので、油性ペンで作曲するのには使わないで…」
 ボクの机に伸ばしたれおせんぱいの手から、そっと真新しい紙を取り返す。手には油性のマジック。辺りには作りたての楽譜が散らばっている。さっきまでレッスンをしていたから、格好も練習着のままだ。
「今霊感が湧いてきてるところなんだ!おれの作曲の邪魔をするな!」
「……あの、楽譜じゃなくてサインを書いて欲しいですけど」
「サイン?Knightsになにか仕事か?」
 ぴた、とれおせんぱいが作曲していた手を止める。……ちょっと待って、それ床に書いてませんか?お兄ちゃんに監視の目が行き届いてないって言われるの、誰だと思ってるんだ……。
 こほん、と咳払いしてそのプリントをせんぱいに見せる。もう床のことはいいや、後で考えよう。
「…ユニットのアルバムを、新しく作るって話みたいです。今までの曲と、新しいユニット曲と、それからソロ曲です」
「Knightsの曲だけじゃなくて、おれの曲もか!」
 ソロ曲、と聞いてぴょこん、とその髪が跳ねた。こうしちゃいられないとばかりに、そこらじゅうに散らばった楽譜をかき集め始める。
「いつものおれたちとは違った曲も作れるんだな!『Knightsっぽい』曲じゃないやつ!」
 せんぱい、嬉しそう。
「せんぱいはソロ曲も自分で作るんですよね? どんな曲にするつもりなんですか?」
「どんな曲…いつも霊感湧いてくるままに作ってるからな〜。気に入らなかったら書き直したりはするけども。だから、降りてこないとわかんないな!」
 纏め終わった楽譜を眺めながら、せんぱいが首を傾げる。今作っていたのも、きっとKnightsのための曲のはずだ。
「チガヤはさ〜、どんな曲がいいと思う?」
「いつものせんぱいが、1番キラキラしていてらしいなって思いますけど」
「いつものおれ?」
「うーん、曲を作ってる時とか…いやでも、いつものせんぱいってKnightsっぽくないしなあ」
「…いいな、それ!」
 顔を上げたせんぱいが満開の向日葵のように、ぱあっと顔を輝かせる。何かを思いついた時の顔だ。
「いいな、って…」
 頼むから滅茶苦茶な曲にだけはしないでほしい。いや、せんぱいが作るんだから大丈夫だとは思うけど……。「Knights」としての月永レオのイメージが崩れたりしないのかな、そういうの結構大事何じゃないかと思う。
 既にせんぱいは、床に紙をぶちまけて音符を書き並べていた。紙だけには収まりきらず、あちこちが床や壁にはみ出している。まぁ、せんぱいが思いついた曲だ。きっとせんぱいらしい、眩しい曲なんだろう。
「チガヤ、完成した!ちょっと聴いてくれ、今から歌うから!」
「えっもうですか?!って待って、この書類はダメなやつです!あ〜もう、油性じゃ落ちない!!」
「今はそれどころじゃないだろ!」
「これがないと生徒会に承認してもらえません!」
 慌てて申請書を探し始めたところで、れおせんぱいが「新曲」を歌い始めた。思わず手が止まり、聴き入ってしまう。Knightsのレオとはまた違う、でもいつも通り、いやいつもに増してキラキラ輝いた、自由な旋律。
「どう思う?チガヤ」
「……ボクは素敵な曲だなあって思います」
「ふふん、だろ!」
「皆に聴かせるのが楽しみですね」
 まぁその前に油性ペンを入れてしまったであろう申請書をどうにかしなきゃいけないんだけど。探しているそれは、きっとこの楽譜の山の中にありそうだ。
「書類貰い直しに行くの、せんぱいも一緒に謝りに来てくださいね」
「え〜、おれこれからこの曲完成させるとこなんだけど」
「だめです、書類ダメにしたの誰だと思ってるんですか」
 行きますよ、とせんぱいの裾を引っ張った。


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