ピンクシュガーの星屑



 ⚠よその子のお誕生日祝いにお渡ししたものです


 焼きたてのポップコーンの香りが漂う会場には、ハート型のバルーンがあちこちに浮かべられていた。恋詠ちゃんの髪の毛の色と同じ鮮やかなピンク色。同じバルーンを使用した飾り付けだけれど、事務所でのお祝いとはまた随分と印象の違うものに仕上がっている。
 と言っても、ボクと恋詠ちゃんは別事務所なので、先程社員さんに写真で見せてもらっただけなんだけれど。コズプロ事務所での写真の恋詠ちゃんも、楽しそうに笑っていた。隅にかき集められたガラスの破片が映っていた気がするけれど、あれは見なかったことにしている。
「豪華だなあ」
 撮影終わりにマネージャーに呼ばれたはいいものの、今年初参加のボクは手持ち無沙汰になってしまっていた。正直邪魔なんじゃないかという気さえしてくる。歩き回っている社員さんたちに何度か声を掛けてはいるのだけれど、「茅ちゃんはそこに居てくれれば大丈夫なんで!」とかいう謎の返事をされてしまった。
「さすが恋詠ちゃん、愛されてるなあ」
 Deprav!ty.は、ボクの契約先であり恋詠ちゃんが代表を務めるデザイナーズブランドだ。彼女の誕生日が近づくにつれて、社員さんたちの浮かれ具合はどんどん酷くなっている。廊下からカラーボールが押し寄せてくるなんてしょっちゅうだったし、ライオンが逃げ出したと聞いた時は流石におかしいんじゃないかと思った。そもそもいつからどこに匿っていたんだろうか。
「ボクに出来ること、何かないかなあ」
 きょろきょろと辺りを見回していたら、調理室から大きなラックが運び出されてているところだった。
「何運んでるんですか?」
「デコレーションだよ、これから飾り付けたり並べたりするの」
 載せられているケースを覗き込んでみると、大量の砂糖菓子が所狭しと敷き詰められていた。
「こんなにいっぱい作るんですね」
「まだまだ作るよ、これじゃ全然足りないってくらい」
 社員さんの身長よりも大きなラックに何段もケースが並べられているけれど、一体どれだけの量を作る予定なんだろうか。
「あの、ボクも一緒に作ったりとか出来ますか?こういうのは作ったことないので、上手くできるかわからないんですけど」
「ぜひぜひ!奥に作ってる奴がいるからそいつに声掛けてよ」
 いっぱいハート型のを作って、うんと可愛くしよう。それから恋詠ちゃんも作れたらいいな。恋詠ちゃんのことだから、容赦なく齧られちゃうかもしれない。それとも「センスないよ」なんて一蹴されるのかなあ。まあ、それも彼女らしい。
 少しスキップをしながら、調理室の奥の方へ向かう。恋詠ちゃんの誕生日パーティー開催まで、あと少しだ。


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